6月中旬、台風1号がもたらした強風と豪雨の影響からようやく回復し始めた広東省珠江デルタ地域では、再びモンスーンによる激しい降雨に見舞われました。特に省西北部の肇慶市懐集県では、連日の豪雨で河川の水位が急激に上昇し、6月18日未明には観測史上最大規模の洪水が発生しました。

 広東省水文局肇慶分局によりますと、18日午前6時50分、綏江にある懐集水文観測所での水位が55.2メートルに達し、1955年7月22日に記録した54.79メートルを超え、観測史上最高となりました。すでに15日午後6時時点で洪水のピーク水位は52.8メートルを記録し、警戒水位の50.0メートルを大きく上回っていました。この洪水はわずか3日間で記録を塗り替える異常事態となりました。
 
 懐集県は粤港澳大湾区の北西に位置し、広東省最大の面積を持つ県級行政区です。人口は約100万人を超え、農業が盛んな地域としても知られています。今回の集中豪雨により、河川や池の水位が急上昇し、県内の低地は広範囲にわたって浸水しました。16日夜に懐集県の公式SNSアカウント「懐集発表」が伝えたところでは、県内の多くの地域で浸水被害が相次ぎ、道路の寸断や感電事故防止のための一部地域での停電措置も取られました。ネット上に投稿された映像や地元メディアの報道によると、多くの車両が道路上で冠水し、地勢の低い商店や住宅の1階部分が完全に水没した様子が確認されています。
 
 中洲鎮の住民は、「雨が降り止まず、自宅の2階部分にまで浸水してしまった。一階にあった家具や家電製品はすべて水没した」と被害の深刻さを語っています。また別の住民は、「養殖していた魚やエビが、洪水で周辺の水域と一体化し流出してしまった」と訴えています。
 
 懐集県応急管理部門によると、18日午前7時の時点で19の郷鎮が被災し、影響を受けた住民は18,213人に達し、9,022人が避難を余儀なくされました。水位の急激な上昇を受け、県は直ちに最高レベルであるⅠ級の防災応急対応を発動しました。学校の休校や企業・店舗の休業措置、バスやフェリーなど公共交通機関の運行停止も行われました。一方、広東省北部の韶関市でも豪雨の影響は深刻で、CCTV(中国中央テレビ)によると、市内では冠水や倒木被害が多発し、新豊県や翁源県などでは学校の全面休校措置が取られました。省気象台のデータでは、今回の降雨は広東省内の8割以上の地域を覆い、一部地域では1日で200ミリを超える特大豪雨となりました。
 
 広東省気象台は18日朝、「副熱帯高気圧の勢力が再び強まるため、雨は次第に弱まる見込み」と発表しました。また、局地的な雷雨や突風、短時間の集中豪雨に対し、引き続き土砂災害などの二次災害への警戒を呼びかけています。また、省水利庁も同日、警戒水位を超える河川への巡回監視強化、水文観測の密度向上、医療機関や学校、高齢者施設など重要施設の安全確保を徹底するよう各地に通達しました。
 
 今回の豪雨と洪水について専門家は、「複合型極端気象現象」の典型的な事例であると分析しています。今年の台風1号「バタフライ」は例年より78日遅れの6月11日に発生しました。海南島を通過後、広東省へ進路を取ったことでモンスーンや上空の気圧の谷と重なり、広範囲で雨雲が停滞しました。また、懐集県を含む広東省西北部は山間部が多く、河川が急流であるため、山間部での洪水や内水氾濫が起こりやすいという地理的な要因も重なりました。

 現在、現地では救援活動が続いています。懐集県は掘削機や排水ポンプ、救援ボートなど500台以上の機材を投入して排水・救援作業に取り組んでいます。また避難所となった学校では、水や電気、食料などの供給体制が整えられ、医療チームも住民への診療や健康管理にあたっています。
 
 今回の洪水災害は、異常気象が日常化する中で地域の防災体制再構築が急務であることを改めて示しました。気候変動の影響で南部中国の雨季が変化しつつあり、河川の氾濫や都市部の浸水リスクへの対応力が今後さらに問われることになるでしょう。現在、洪水のピークは過ぎましたが、被災地の復旧作業には依然として多くの時間を要する見込みです。

(翻訳・吉原木子)