中国ではメーデー連休を前に、司法制度の根幹を揺るがす前例のない事件が発覚しました。北京第三中級人民法院に勤務していた31歳の判事補、白彬氏が、強制執行で回収した資金を私的に流用しました。その総額は少なくとも1億3,000万元、最大で3億元、日本円でおよそ27億円から62億円に上るとみられています。
捜査関係者によりますと、白氏は事件発覚前に家族とともにギリシャの「ゴールデンビザ」を取得し、日本航空便で東京に入国した後行方が分からなくなっています。SNS上では「若手の判事補が単独で巨額資金を持ち出せるはずがない」「内部で誰が審査したのか」などの疑問が急速に広がりました。市民の関心は、「立件から資産評価・換価・分配に至るまでの一連の手続き」が、「資産が利権へ分配される構造」と変化し、不透明な中間搾取の温床となっている点に集まっています。
被害を受けたとする投資家の1人は「裁判所に訴えたが、取り合ってもらえず、職員に資金を奪われた。こんなに寒々しいことはない」と語り、司法への信頼は急速に低下しました。「強制執行手続の透明化」を求める声が高まる一方、関連するトピックはインターネット上で相次いで削除され、言論者は沈黙を余儀なくされている状況です。
こうした中、事態は国境を越えて波紋を広げています。6月6日、自称「民間陣線」の日本支部元メンバー、盧家熙氏がXで「白氏の政治的亡命申請を支援している」と表明しました。盧氏は「白氏は単なる汚職官僚ではない。司法の腐敗を内部告発しようとした人物だ」と主張し、海外メディアでも大きく報じられました。
しかし、翌日、著名な人権弁護士の浦志強氏は「盧氏の行動は汚職官僚を白紙の戻すものだ」と強く反論しました。さらに、民間陣線の副代表である王戴氏は「盧氏はすでに組織を離脱している。本件とは無関係だ」とする声明を公表し、組織として距離を置く姿勢を示しました。
現在、白氏を「内部告発者だ」と擁護する声と、「亡命制度を悪用した逃亡だ」と非難する声が対立し、司法制度への不信と反体制団体の混乱が同時に表面化しています。今後の日本政府の対応にも注目が集まっています。しかし、その行方は依然として不透明です。
また、日本政府の対応については、日中間で犯罪人引き渡し条約が結ばれていないことから、個別案件ごとに判断せざるをえないのが実情です。過去には「日中警察協力協定」に基づき送還が行われたケースもあります。白彬氏が「政治的迫害の被害者だ」と主張した場合、日本側は難民認定手続きに入り、審査には数か月から数年を要する可能性があります。外務省関係者は「法令順守と人権保護の両立が求められ、外交的にも難しい判断になる」としています。
一方、中国国内では「なぜ数億元もの強制執行資金が、誰にも気づかれずに流出したのか」という制度上の問題が改めて浮き彫りになりました。中国の裁判所は年間数百万件の執行案件を処理し、取り扱う金額は数兆元規模に上ります。しかし、独立した監査体制や情報公開の仕組みが整っていない為、資産の評価や換価、資金の流れが内部処理にとどまるケースが多いと指摘されています。法律学者の張凱教授は「監査が制度化していないことが最大の問題だ」と分析し、透明性を高めるための根本的な改革が急務だと訴えています。
今回の事件では、白氏が家族全員のビザ取得や海外口座の開設など、計画的に「出口」を確保していたことが明らかになりました。専門家の間では「若手司法関係者が早期に海外移住を模索するということは、体制への将来的な不安を端的に示している」との声が上がっています。SNS上でも「制度を知り尽くした内部の人間ほど先に逃げるのではないか」という書き込みが相次ぎ、市民の間では、不信感が一層広がっています。
さらに、中国国内のネットユーザーは「白氏一人で資金を動かすのは不可能だ。執行局や財務部門、外部の評価会社など複数の関係者が関与していたはずだ」とみており、共犯関係の解明が急務となっています。最高人民法院は「徹底した調査を行う。関与した者を厳正に処罰する」とコメントしました。しかし、現時点で詳細な調査結果や再発防止策は示されていません。
事件は、汚職という個別の犯罪にとどまらず、司法制度全体への信頼を大きく揺るがしています。中国国内では「二人目の白彬」が今後も出現するのではないかという懸念が広がっており、法の支配と制度の透明性をいかに確保するかが、早急に対処すべき重要な課題となっています。
白氏の行方、並びに日本側の難民認定手続きの結果は未定のままです。国際社会からは「法的手続きの透明性と人権の尊重」を求める声が上がっており、中国側の対応が注視されています。専門家は「司法の信頼回復には、徹底した情報公開と独立機関による監査の導入が不可欠だ」と指摘し、根本的な制度改革を訴えています。
今回の事件は、汚職問題だけでなく、中国司法制度の脆弱性と政治・外交面での課題を象徴するものとなりました。関係各機関は再発防止策の具体化と、国民の信頼回復に向けた早急な対応が求められています。
(翻訳・吉原木子)
