麻婆豆腐の「麻婆」とは誰なのか.
四川料理ー麻婆豆腐(Tomoaki INABA, flickr, CC BY-SA 2.0)

 麻婆豆腐(マーボーどうふ)は中華料理の中でも特に有名な四川料理で、誰もが一度は聞いたことがある料理でしょう。しかし、なぜこの料理が「麻婆」豆腐と呼ばれるのかご存じでしょうか?その背景にはどのような物語があるのでしょうか?ここでは、麻婆豆腐の由来についてお話しします。

麻婆豆腐の由来

 麻婆豆腐の正式名称は「陳麻婆豆腐」です。言い伝えによると、清王朝期の同治年間(紀元1862年)、四川省成都の北郊外にある万福橋のそばに「陳興盛飯舗」という小さな食堂がありました。食堂の主人である陳春富さんは若くして亡くなり、経営は妻に引き継がれました。彼女の顔にあるいくつかの「あばた」は中国語で「麻子」と言うため、地元の人々は親しみを込めて彼女を「陳麻婆」と呼んでいました。

 陳麻婆さんが経営していた食堂は、素朴なスタイルの家庭料理で有名でした。油を運ぶ人足(にんそく)や勤勉な労働者たちは、万福橋のそばで休憩するついでに、この食堂で食事をしました。出費を抑えるために、労働者たちは牛肉やなたね油などを持ち込み、陳麻婆さんに豆腐などの食材と一緒に調理してもらうよう頼んでいました。

 そんなある日、油を運ぶ人足さんの一人が、他とは一味違う豆腐料理を食べたいと願い、持参したなたね油を気前よく陳麻婆さんに提供しました。陳麻婆さんは、手元にある花椒、唐辛子、豆板醤、ニンニクのみじん切り、牛肉のひき肉を使い、柔らかい豆腐と合わせて、香り高く旨辛で、痺れるような鮮烈な味わいの料理を作り出しました。この初めて試作した料理は、その場にいた人々を驚かせました。お客さんたちはこの料理を食べた後に絶賛し、この独創的な料理を「麻婆豆腐」と名付けたそうです。

 清王朝期の周詢の『芙蓉話旧録』の記録によると、当時の陳麻婆豆腐は一杯わずか八文銭といった大変お手頃の価格で売られていました。客が自分で牛肉などの食材を持ち込んで店に麻婆豆腐と一緒に調理してもらうことも、追加料金なしでできたそうです。そのため、この豆腐料理は「陳興盛飯舗」の看板料理となり、多くの人がその評判を聞きつけて訪れるようになりました。詩人の馮家吉は『錦城竹枝詞』の中で、「今なお名を馳せる麻婆陳氏、その豆腐料理は最も美味だ。万福橋の辺りに動く暖簾の影と共に、春酒を酌み交わし、先生たちも一緒に酔いましょう(註)」と詠みました。

 その名声が広まるにつれて、麻婆豆腐は次第に四川料理の代表的な料理の一つとなりました。そして現在では、地域と国境を越え、世界中の食卓で定番の美味となっています。しかし、この料理の背後にいる陳麻婆という女性は忘れてはいけません。今度、この料理を味わう際には、この物語を思い出し、百年を超えて受け継がれてきた素朴さと深い愛情をじっくりと感じてみてはいかがでしょうか。

 百年を超えた美味・麻婆豆腐。今ではご家庭でも簡単に作れます。それでは、家庭で作れる美味しい麻婆豆腐のレシピをご紹介します。

材料(4人分)

・絹ごし豆腐 1丁(400g)
・牛ひき肉(または豚ひき肉) 150g

調味料

・ネギみじん切り、生姜みじん切り、ニンニクみじん切り それぞれ小さじ1杯
・唐辛子粉 小さじ1杯
・豆板醤 大さじ1杯
・トウチ 小さじ1~2杯(トウチ醤で代用可)
・醤油 大さじ1杯
・塩 小さじ1杯
・片栗粉 大さじ2~3杯
・水 150ml
・油 大さじ1杯

作り方

1. 豆腐の下処理

・絹ごし豆腐を角切りにします。
・鍋に豆腐を覆うような量の水を沸騰させ、小さな泡が出始めたら塩小さじ1を加えます。
・豆腐を入れ、弱火で約2分茹でます。
・茹で上がったら豆腐をザルにあげ、水気を切っておきます。

2. ひき肉と調味料を炒める

・フライパンに油を熱し、ひき肉を入れ、中火でカリッとなるまで炒めます。
・豆板醤を加えて炒め、赤い油を出させます。
・生姜みじん切り、ニンニクみじん切り、トウチを加えて炒め合わせ、最後に唐辛子粉を加えて香りを出させます。

3. 豆腐を投入

・適量の熱湯を入れ、豆腐を加えて混ぜ合わせます。
・醤油と塩を加え、蓋をして弱火で約3分煮込み、豆腐に味を染み込ませます。

4. とろみをつけて仕上げる

・蓋を開け、ネギみじん切りを投入します。
・片栗粉と水を混ぜた水溶き片栗粉を3回に分けて加え、その都度優しく混ぜて豆腐に汁を絡ませます。
・とろみがついたら火を止め、器に盛り付けます。

 ご飯が進む美味しい麻婆豆腐の完成です!パパっと作れてご褒美にもなれる麻婆豆腐、今日の夕食にしてみてはいかがでしょうか?

註:中国語原文:
麻婆豆腐尚傳名,豆腐烘來味最精。萬福橋邊簾影動,合沽春酒醉先生。

(翻訳・宴楽)