中共の最高指導者・習近平総書記は、5月20日に河南省洛陽市で視察を行って以降、6月3日までの14日間、公の場に一切姿を見せておらず、中国国内外で懸念や憶測が広がっています。

 5月20日の洛陽視察では、習氏は洛陽軸受け工場、白馬寺、龍門石窟などを訪れ、「中国式現代化」に対応した産業構造の強化を強調しましたが、それ以降の活動は、共産主義少年団への祝電や軍事科研奨励条例への署名といった書面上のものに限られ、現地に姿を見せた様子は一切確認されていません。中共の最重要機関紙である『人民日報』においても、習近平氏の動静が紙面トップから二日連続で完全に消えるというのは、極めて異例の事態です。米国の中国問題専門家であるゴードン・チャン氏は、6月3日にSNS上で「習近平が『人民日報』の一面から姿を消したことは、彼の権力が失われた兆候である可能性がある」と投稿しました。

 過去にも、政治的に敏感な時期には習氏がメディアの紙面から一時的に姿を消したことがありました。中共内部の権力構造や政治状況を読み解く際、公式メディアの構成や表現は常に注目の的となっており、特に最高指導者に関する報道の有無や掲載位置は、その地位の安定性を示す重要なバロメーターと見なされています。

 現在、国内外では「習近平の権力に異変が生じているのではないか」との見方が急速に広まっています。米国在住の時事評論家である唐靖遠氏は、大紀元のインタビューに応じ、「今回の習氏の長期にわたる沈黙は、極めて尋常ではない兆候である」と述べました。唐氏は、「もし習氏が通常通りの権力状態にあるのならば、党メディアはすぐさま反応し、彼の指導力を誇示するような報道を行っていたはずです。にもかかわらず、それが行われていないということは、党内で何らかの重大な異変が発生していると見なすべきです」と指摘しています。

 カナダ在住の時事評論家・文昭氏も、「今回の状況は極めて異常だ」と強調しています。これまで習近平氏が長期間公の場から姿を消したケースは二度ありました。ひとつは2012年、十八大を前に姿を消したもので、当時は「水泳中に背中を負傷した」との説明がなされた一方で、元老たちに対して「党・政・軍すべての権限を付与しなければ総書記を引き受けない」と強硬な姿勢を見せていたとの見方もあります。このとき、元老側が最終的に習氏の要求を受け入れ、約二週間の膠着状態を経て事態が収束したと伝えられています。

 もうひとつは2024年7月末から8月中旬にかけてのもので、当時は北戴河会議の時期と重なっていたため、政治的な“静養期間”として理解され、異例とはされませんでした。しかし今回のケースは、習氏が姿を消す前からすでに数々の不穏な情報が飛び交っていた点で、過去とは明確に異なっています。たとえば、5月14日に政治局拡大会議が開かれ、習氏に対し退陣を求める声が上がったとの報道や、中央軍事委員会の張又侠副主席が習氏を公然と批判し、胡錦濤元国家主席が「改革開放を断行しなければ内戦も辞さない」と発言したなど、驚くような話まで囁かれています。

 こうした否定的な噂が拡散する状況において、通常であれば習氏自身が積極的に姿を現し、体制の安定性を内外に示すべきですが、実際には再び10日以上も沈黙を保っており、極めて異例な状況にあると言えるでしょう。

 現在広まっている複数の噂の中には、習近平氏が洛陽で軟禁状態にあるという説すら含まれています。台湾の国防安全研究院研究員である沈明室氏は、大紀元の取材に対し、「習氏がこれまでにも数回にわたり一時的に姿を消したことはありましたが、今回のように10日以上も消息が絶たれるのは極めて異例です。軟禁されているとは断定できないものの、中共党内では権力をめぐって派閥間の激しい駆け引きや調整が進行している可能性が高い」と述べています。

 中共では、政治局会議は毎月定例で開催されており、その内容は通常、新華社などの国営メディアを通じて報道されてきました。また、習氏が主導する「集団学習」も毎月のように実施されてきたはずですが、6月3日時点でも5月分の会議に関する報道は一切出ていません。このような沈黙が続いていることは、単なる日程調整や偶然では説明がつかず、党内で何らかの重大な事態が進行している可能性を強く示唆しています。

 唐靖遠氏は、「中共の政治局会議が予定通り開催されないのは、よほどの重大事態が発生していない限りあり得ません。もし習氏が自ら召集を見送ったのであれば、党内に深刻な異常事態が生じている証拠と見なすべきです。また、会議自体は開催されたものの、報道が差し控えられている場合も、扱われた議題が極めて敏感であり、対外的に一切情報を出せないほどの内容だった可能性が高いです」と分析しています。

 5月以降、習近平氏に近いとされる人物たちが次々に処分されていることも、体制内での権力構造の変動を裏付ける材料となっています。中央軍事委員会の苗華は、当初「重大な規律違反」とされていましたが、その後「重大な職務上の違法行為」に格上げされ、司法機関へと移送されました。また、同じく副主席の何衛東も、3月に全国人民代表大会が閉幕して以降、公の場から姿を消し、長期間にわたり消息が不明となっています。

 6月2日には、元中央軍事委員会副主席の許其亮が急死したとの報道がありました。新華社によれば死因は「病気によるもの」とされていますが、北京の関係筋によると、許氏は早朝にジョギング中、心筋梗塞を起こし搬送されたものの、間に合わなかったとのことです。
許其亮は、鄧小平・江沢民・胡錦濤・習近平という四代の指導者の下で昇進を重ね、最終的には円満に退役を果たした軍幹部です。その派閥的な帰属については諸説ありますが、福建時代から習氏と深い関係を築いていたこと、政権発足以降も重用され続けた経緯から、多くの観測筋は彼を「習派」に分類しています。

 唐靖遠氏は、「現在の中国人民解放軍の高層部では、大きな動揺が起きており、粛清の対象はほとんどが習近平の側近に集中しています。これは、習氏自身の権力基盤に深刻な亀裂が生じていることを示しており、体制そのものが根底から揺らいでいると見るべきです」と語っています。

 今後もし習近平氏が公の場に現れない状態が続けば、6月15日頃に予定されている中央経済工作会議や国務院常務会議といった重要な会議への影響も避けられず、「習氏の失脚」や「集団指導体制への回帰」といった憶測の信憑性がさらに高まることになるでしょう。

 今回の習氏の「神隠し」は、単なる健康上の問題や休養とは異なり、党内の権力構造における深刻な変化を反映している可能性があります。党メディアの沈黙、政治局会議の不在、側近の連続失脚、軍幹部の急死――こうした一連の現象はすべて、中共最高層においてこれまでにないほどの不確実性が広がっていることを物語っています。その真相が明らかになるのは、習近平氏が再び公式の場に姿を見せる時か、新たな指導部の構図が明確になった時かもしれません。それまでは、一つひとつの兆候が重大な権力再編の予兆として注視され続けることになるでしょう。

(翻訳・吉原木子)