中国のニュースやSNSを見ていると、近年頻繁に登場する言葉がある。それが「爆雷」(バオレイ)だ。直訳すると「地雷が爆発する」という意味だが、経済用語としては、企業が突如として債務不履行(デフォルト)や経営破綻に陥る事態を指す。日本で言えば「倒産」「バブル崩壊」といった表現が近いかもしれないが、「爆雷」には“予想していなかった危機”というニュアンスが強く含まれる。
そもそも「雷」は中国語で“地雷”や“爆弾”の意。日常会話でも使われるが、経済の文脈では、財務内容が悪化していたことに誰も気づかず、突然爆発するように危機が顕在化する、といった意味だ。
恒大集団、中植、融創中国
「爆雷」の象徴的存在と言えば、不動産大手の恒大集団だ。かつて中国第2位の売上高を誇ったこの企業は、過剰な借り入れによって急成長を遂げたが、2021年に資金繰りが行き詰まり、巨額の債務不履行に陥った。負債総額は約3,000億ドル(約45兆円)とされ、まさに“経済の地雷”が爆発した形だ。債券市場や不動産業界に与えた影響は計り知れない。
2023年には、資産運用大手の中植企業集団(Zhongzhi)が「爆雷」した。理財商品(高利回りの資産運用商品)を大量に発行していたが、利払いが止まり、個人投資家を中心に大きな混乱を招いた。中植集団は一時、約7,000億元(約14兆円)以上の資産を運用していたとされ、金融当局も監視の目を強めることになった。
もうひとつの例は、恒大と並ぶ不動産大手の融創中国である。こちらも恒大と同じく積極的な拡大路線を採った企業で、2022年に債務不履行に。各地の開発プロジェクトが停止し、購入者や下請け業者が深刻な被害を受けた。政府による不動産市場の引き締め政策も、爆雷を後押しした要因とされる。
「爆雷」は中国経済の構造問題の象徴
こうした「爆雷」は一企業の失敗にとどまらない。共通するのは、「過剰なレバレッジ(借り入れ)」と「情報の不透明性」だ。企業の内部事情は公開されず、表面上は健全に見えても、実態はすでに破綻寸前というケースが少なくない。また、地方政府と癒着した企業も多く、政治的な保護の下で無理な拡大を続けた結果、事態が手に負えなくなる。
SNSでは、「今日はまたどこが爆雷した?」といったブラックジョークすら飛び交うようになった。経済の不確実性が高まる中で、「爆雷」は現代中国を語るキーワードの一つになりつつある。
「爆雷」がいつ、どこで起きるかは予測が難しい。しかし一つ確かなのは、表面上の成長の裏で何が起きているのかを見極める目が、今後ますます重要になるということだ。
(高瀬 陽一)