中国共産党は近年、内需の拡大によって経済の立て直しを図ろうとしています。しかし、5億人とも言われる貧困層が人口の大きな割合を占めており、依然として経済の先行きは不透明です。
スタンフォード大学の研究者で、経済学者の許成鋼(きょ・せいこう)氏は最近のインタビューで、中国人が貧しい根本的な原因について討論しました。そして、問題の根源は、経済政策の失敗ではなく、中国共産党の一党独裁そのものだと指摘しました。
貧しすぎる中国人
許成鋼氏はインタビューの中で、3年にわたるゼロコロナ政策が中国経済に深刻なダメージを与えたと述べました。ゼロコロナ政策解除後も景気回復の兆しが見えず、失業率の高止まりと所得の減少により、内需が急激に萎縮しています。
中国共産党は2023年から「内需拡大」政策を掲げてきたものの、国民の可処分所得はほとんど増えず、景気回復を下支えすることはありませんでした。2024年末には、中国当局も、経済が直面する4つの難題のひとつとして「内需の不足」を正式に認めました。国民の購買力が弱く、消費意欲も低迷しているのが現状です。
許成鋼氏は、中国における家計部門の所得がGDPに占める割合は非常に低く、大多数の国民の収入は、一般的なイメージよりはるかに少ないと述べました。そして、「中国人はすでに豊かになったと思われがちだが、裕福な層はほんの一握りで、中産階級でさえ、経済的な余裕があるとは言えない」と指摘しました。
より深刻なのは、中国社会の大多数を占めるのは中間層ではなく、貧困線以下の低所得層だという事実です。ある調査によれば、中国国内には、国際的な貧困ラインである「1日あたり5ドル(約700円)」未満で生活する人口が、およそ5億4000万人にのぼるとされています。
中国共産党は「国内に貧困層はいない」と繰り返し強調していますが、その主張にはからくりがあります。すなわち、中国の貧困ラインは「1日あたり1.25ドル(約180円)」と定められており、これは国際基準を大きく下回る独自の数値なのです。
想像を超える貧困層の規模
中国における所得構造のゆがみは、今に始まったことではありません。2020年5月、当時の国務院総理・李克強氏は、全人代後の記者会見でこう語りました。
「国内には月収がわずか1,000元(約2万円)の人が6億人いる。中規模の都市では、家賃さえ賄えない。」
そして2023年、経済学者の李迅雷(り・じんらい)氏は、経済メディア『第一財経』への寄稿の中で、北京師範大学・中国所得分配研究院のデータを引用し、「月収2000元(約4万円)未満の人々が全国で約9億6400万人いる」と書きました。記事は掲載からわずか1日で、インターネット上から削除されました。
2024年には、浙江大学の「共有と発展研究院」院長である李実氏がメディアの取材に対し、「いまだ『中所得層』に達していない人々が、全人口の約65%を占めている。つまり、約9億人が低所得層に属している」と語りました。
台湾の国防安全研究院の研究員である方琮嬿(ほう・そうえん)氏は、ラジオ・フリー・アジアの取材に対し、「中国共産党が掲げる『貧困脱却』は、実態を伴わない政治的スローガンにすぎない。目的は社会の安定であって、事実を正しく反映するものではない」と強調しました。方琮嬿氏は、中国の若年失業率が依然として高止まりしている現状にも触れ、中国共産党が一時期、失業率の公表そのものを停止し、新しい基準に切り替えて発表を再開したことも言及しました。その背景には、実態の隠蔽という意図があると考えられています。
方琮嬿氏はまた、中国共産党が打ち出す数々の経済刺激策について、「効果はきわめて限定的で、低迷する中国経済を好転させるには至っていない」と指摘しました。貧困層が9億人もいることについては、「議論の余地がある」としつつ、「ますます多くの中国人が貧困に陥っているという現実は、紛れもない事実だ」と話しました。
貧困の原因は政治制度にある
なぜ、中国ではこれほど多くの人々が貧困に苦しんでいるのでしょうか。経済学者の許成鋼氏は、その根本的な原因を「政治制度そのもの」にあると考えています。
中国では土地や金融資産といった経済の基盤がことごとく政府によって独占されており、実質的に経済のすべてが国家の支配下にあります。許成鋼氏は、「儲かるのはいつも政府で、損するのはいつも庶民だ。富はごく一部の層に集中し、一般人はますます貧しくなっている」と述べました。
たとえば、農地は名目上、「集団所有」とされていますが、実質的な管理と処分の権限は政府にあります。土地の値上がりによる利益は農民に還元されず、地方政府の財政を潤すだけです。また、農民が都市部に出稼ぎに行っても、医療保険や年金といった最低限の社会保障すらもらえず、いわば「下級市民」として扱われ続けています。
金融システムを見ても、中国の銀行の大半は国有であり、資金は主に国有企業や政府系プロジェクトに供給されています。民間企業は資金調達が難しく、仮に利益が生まれても、その多くは再び国有金融機関に吸い上げられてしまいます。
こうした制度のもとでは、富が一般市民に行き渡ることはなく、購買力は高まりません。結果として、市民の消費意欲は高まることがなく、内需拡大も経済回復も絵に描いた餅に過ぎません。
許成鋼氏は、「中国の独裁体制が変わらない限り、消費力は根本から改善されず、経済の再生もありえない」と指摘しています。
政策で現状は変えられるか
近年、中国国内では多くの経済学者や業界関係者が、政府に対して「現金の直接給付」を求めてきました。パンデミックが発生すると、欧米諸国は次々と国民に給付金を支給し、経済の安定と消費の維持を図りました。しかし中国では、こうした対策が一度も実施されることはありませんでした。
2025年4月には、清華大学教授の李稻葵(り・とうき)氏が、5月の大型連休に合わせて1兆元(約20兆円)規模の補助金を投入し、消費意欲を刺激すべきだと提案しました。すなわち、中国人が買い物の際に身分証を提示すれば、購入額の25%の直接割引を受けられるという仕組みを作れば、消費を刺激することができるのではないか、という構想です。
しかし、許成鋼氏は、こうした構想が現実になることはないと断じています。
「いまの体制のもとで、全国民への現金給付のような政策は不可能だ。問題があるのは、具体的な政策の内容ではなく、政治制度そのものだ。土地や銀行の所有構造を改革しない限り、そして何より、独裁体制を打破しない限り、中国では内需が育つことはないし、経済の閉塞状況も解消できない。」
そして許成鋼氏は、「問題を根本から解決するには、所有制度の改革から始めなければならない。だがそれは、中国共産党による独裁体制そのものの解体を意味するだろう」と語りました。
(翻訳・唐木 衛)
