近年、中国当局は自国民の出国に対する規制を一層強めています。コロナの流行後、国境管理は徐々に緩和されつつあるものの、パスポートの取得は以前にも増して困難になっており、すでに所持しているパスポートの没収対象も広がりを見せています。
出国を試みた市民が空港で引き返すよう促されたり、スマートフォンなどの電子機器が厳しく検査されたりするケースも相次いでいます。最近では、多くの中国人ネットユーザーがSNS上で、自身や周囲の人々が出入国時に直面したさまざまなトラブルを共有しており、そうした体験談が注目を集めています。
出国のハードル、かつてないほど高く
最近、中国人女性がSNSに投稿した動画が話題となっています。彼女は「やっとの思いでパスポートを取得した」と語り、2025年に海外へ渡航することの難しさを強調しました。彼女によれば、すでに多くの地域でパスポートの申請自体が受け付けられなくなっているといいます。
動画の中で彼女は、手にしたパスポートを見せながらこう訴えました。「ついにこれを手に入れた。2025年に海外へ行くのは本当に難しすぎる。今、多くの地域ではパスポートの申請を受け付けてくれない。例えば、河北省保定市、江蘇省東海県、青海省、福建省、広西チワン族自治区、もうパスポートを発行しない。どうしてなのか、本当に不思議。みなさんは知っているか?」
こうした声は彼女に限ったものではありません。5月6日には、別のインフルエンサーも動画でパスポート申請に必要な書類や領収書を公開し、「青海省でパスポートを取るのは、まるで移民手続きよりも難しい」と不満を述べました。書類の多さや審査の厳しさに対して「腰が引ける」と嘆いています。
公務員や国有企業職員に出国制限 パスポート一斉回収の動きも
中国当局は2023年に国境を再開したものの、公務員や国有企業の職員、その関連者に対する出国規制はむしろ強化され続けています。複数の報道によると、こうした制限はすでに2021年から本格化しており、出国の回数や時期の厳格な審査、複雑な承認手続きの導入、さらには出国前の秘密保持研修の義務化など、多岐にわたる管理策が取られています。
湖南省岳陽市君山区の元林業局副局長・劉紹純氏は、大紀元の取材に対し、「すでに2014年の時点で、私的なパスポートの提出が求められていた。この方針はその後、対象範囲を広げながら現在まで続いている」と述べました。
「パスポートの返納や幹部職員の出国制限は2014年に始まった。その後、科学技術分野の職員にまで広がり、さらに課長級以下にも拡大。最終的には、公務員に限らず、国家財政によって給与が支払われている者であれば、医師、教師、村の支部書記や村長なども対象とされ、すべてパスポートの提出が求められるようになった」と劉氏は語りました。
「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」紙は2024年6月6日の記事で、中国本土では国境再開後も公務員や国有企業職員に対する出国管理が厳格化していると報じています。規制の対象は公務員に加え、学校や病院の幹部、金融機関の職員にまで広がっており、規制の範囲と厳しさを物語っています。
出国時の厳格な税関検査 スマートフォンの中身が重点対象に
パスポートの取得が困難、または提出を強いられる状況に加え、実際に出国しようとする中国人の多くが、空港の出入国審査で厳しい検査に直面しています。最近では、複数のインフルエンサーが、自身の経験として、旅行の目的や日程を詳しく問われるだけでなく、スマートフォンの中身まで検査対象となったことを明かしています。
あるブロガーは、「今では出入国の際に尋問がかなり増えている」と指摘し、旅行や留学、出張など目的を問わず、出入審査官から詳細なスケジュールの説明を求められ、スマートフォン、招待状、チャットの履歴、旅行の写真などのデータを確認されると話します。万が一、当局が「敏感な内容」と見なす情報が見つかれば、その場で足止めされ、出国ができなくなる可能性もあるといいます。
また、別のネットユーザーは、出国審査の際に個室に呼び出され、1時間以上にわたって事情を聴かれた体験を明かしています。最終的に出国は許可されたものの、「精神的に大きなストレスを感じた」とし、「おとなしく国内にとどまっているのが一番だ」とため息まじりに語りました。
こうした状況を受けて、海外に住む中国人のブロガーは、自身の動画で「中国の出国審査ではスマートフォンのチェックがあるので、スムーズに出国したいなら、あらかじめ敏感な画像や文章、動画などはすべて削除しておくべき」と警告しています。
さらに別のブロガーは、「たとえ観光目的であっても、逃亡の意図があると疑われ、引き返すよう促される可能性がある」と指摘しています。ある留学関連の投稿によれば、4月中旬、日本への留学を予定していた学生が出国審査で長時間にわたり質問を受けたという事例も報告されています。
帰国時にも厳格な審査 スマートフォンの全データが検閲対象に
厳しい出国審査に加え、中国への入国時にも、国民や旅行者に対する徹底したチェックが行われています。あるブロガーは、4月18日に投稿した動画の中で、「出国のときには何も聞かれなかったのに、帰国のときには大量の質問をされた。まったく理解できない」と不満を述べました。彼によれば、スマートフォンに保存された旅行写真までもが細かくチェックされ、プライバシーはほとんどないと感じたといいます。
2024年4月、中国国家安全部は新たな規定を発表し、法執行機関に対して一層広範な権限を付与することを明言しました。これにより、対象は帰国する中国人にとどまらず、海外からの入境者にも及びます。実際、こうした抜き打ちの検査はここ数年の間に段階的に導入されてきたが、今回の新規定によって、法的な裏付けが強化され、今後さらに検査の頻度や対象範囲が拡大するものとみられています。
専門家「中国当局の危機感が顕著に」
チリ在住の独立系政治学者・陳道銀氏は、ボイス・オブ・アメリカの取材に対し、中国当局が一貫して「重点対象者」に対する管理を強化していると指摘しました。特に、人権団体やチベット・新疆独立運動、法輪功と関係のある人物、または日本や欧米諸国からの活動家が重点的にマークされていると述べています。
陳氏は、一般市民が出国する際にもトラブルを避けるため、現地で新たにスマートフォンを購入し、不要なトラブルを防ぐべきだと勧めています。
一方、中国問題に詳しい王赫氏は、こうした出入国管理の強化は、政権内部における深刻な危機意識の表れであると分析します。王氏は、「今や一般の国民だけでなく、中国共産党体制内の幹部たちも『終末感』を抱えている」と述べ、「彼ら自身もこの体制がいつ崩壊してもおかしくないと感じており、もはや中国共産党と一蓮托生になりたくないと思っている」と話しています。
また、王氏は「政権が不安定さを恐れるほど、統制を強める。そして、その強権的な統制がかえって社会の不満を高め、さらなる不安定を招くという悪循環に陥っている」と警鐘を鳴らします。
中国共産党が出入国管理を「安全化」「政治化」し続ける中、中国の一般国民が海外へ向かうたびに直面する物理的・精神的な障壁は、今や中国における人権状況と自由の後退を象徴する重要な指標となっています。
(翻訳・藍彧)