最近、河北省邢台市南宮市政府が、地元の保護者から高い信頼を得ていた私立小学校を突然閉鎖すると発表し、1,000人を超える保護者による大規模な抗議活動が発生しました。この決定は、生徒たちがまだ卒業していない段階で下され、子どもたちは教育の質にばらつきのある公立学校へと振り分けられることになり、保護者の間で大きな不満と混乱を引き起こしました。

 近年、中国では優れた教員や教育資源が私立学校に集中する傾向が強まり、公立と私立の教育格差が拡大し続けています。その結果、公立学校は生徒数の減少と評価の低下という二重の危機に直面しています。こうした状況を是正するため、中国各地の地方政府は、私立学校の設立制限や閉鎖措置を次々と講じています。しかし、こうした政策は、移行措置の不備や生徒の受け入れ体制の混乱などから、保護者の不安と反発を招いています。

 「中国集団抗争事件記録ネット」によると、南宮市政府は5月11日、地元で高い評価を受けていた私立小学校「豊翼小学(ほうよくしょうがく)」を突如閉鎖する方針を発表しました。報道を受け、当日中に数百人の保護者が市政府庁舎前に集まり、「反対」「責任者出てこい」といったスローガンを叫びながら抗議活動を行い、深夜まで続きました。

 豊翼小学は、教育の質が高く、教師の責任感も強いことで知られており、保護者からの信頼も厚い学校でした。入学枠が限られていたため、子どもを通わせるには公開抽選に当選する必要がありました。それだけに、学業の途中で、環境の整っていない公立学校へ突然転校させられるという決定に、多くの保護者が強い不満を抱いたのは当然のことと言えるでしょう。

 抗議を受け、南宮市政府は大規模な警察部隊を現場に動員し、市政府周辺の交通規制を実施するとともに、広場の照明をすべて消灯しました。しかし、翌12日になっても多くの保護者が庁舎前に集まり続けました。ある保護者によると、同日午前、市政府は閉鎖決定の撤回を発表し、豊翼小学は存続することとなりましたが、広場の照明は引き続き復旧されていないとのことです。

 この出来事は中国本土のメディアでは報道されていませんが、海外のSNSプラットフォームXでは広く拡散され、大きな反響を呼びました。

 ネット上では、「子どもの数が激減し、公立学校の財政も苦しくなっている」といった指摘や、「もう本当に小学校に通う子どもがいない。つまり、少子化は現実なんだ」といった声が上がっています。

 また、「保護者が反対しているのは公立校そのものではなく、準備もなく、生徒の権利を無視した形で教育の進路を強引に変更することだ。私立校を犠牲にして公立校の問題を埋め合わせるのは本質的な解決にはならない」とする意見もありました。

 政府の過剰な介入に対しては、「公立校を閉鎖するのは財政的に仕方ないが、私立校まで勝手に閉鎖するのは筋が通らない」「結局、政権にとって必要なのは従順な『愚民(ぐみん)』。本当に教育の質が上がってしまえば、支配体制が危うくなる」といった批判も寄せられています。

 さらに、「財政面で公立学校の教員の待遇を抜本的に改善しない限り、こうした問題の根本的な解決は不可能だ。現実には貧富の格差が拡大し、それに応じて教育の格差も深まっている。東南沿海地域の学校は、北部や中西部の優秀な教師や医師を引き抜いている。すでに一部の公立校では教員の給与が未払いになっているという。それでも中共の指導部は、国民に『明るい未来』を歌わせ、軍事費を増やし、空虚な『民族の復興』を追い求めている」との声もありました。

 盲目の人権派弁護士・陳光誠氏も関連動画を拡散し、「共産党が国民を洗脳し続けるには、教育を独占するしかない」と強く批判しました。

 中国におけるいわゆる「思想政治教育(しそうせいじ きょういく)」は、実質的には組織的な洗脳教育です。これは幼稚園から始まり、小学校・中学校・高校、さらには大学まで、すべての教育段階を通して行われています。

 教育部が全国の教員に対して発布した「新時代教師職業行動十項基準」では、授業中に共産党の絶対的指導を支持し、党の方針や権威に反する言動を禁じることが明記されています。このような政治的統制の下で、教育現場の教員は次第に政権の宣伝装置(せんでんそうち)と化しています。

 さらに、全国に急増している「紅軍小学校(こうぐんしょうがっこう)」は、洗脳教育の象徴とも言える存在です。公式サイトによれば、2019年5月時点で全国に約300校が設置されており、その多くが地方の農村地域に位置しています。これらの学校では、紅軍の制服を着て軍帽をかぶった児童たちが、紅衛兵(こうえいへい)を彷彿とさせるような演劇的パフォーマンスを行っており、革命歌劇(かくめいかげき)のような演出に満ちた写真や映像が公開されています。こうした現実や歴史にそぐわない演出を通じて、子どもたちの純粋な心が侵されているのです。

 また、中国の学校教育における国語の授業では、読解力や表現力を養うよりも、政治色の濃い文章を通して共産党の中心思想や革命精神を刷り込むことに重点が置かれています。歴史の授業では、中共を美化し、国民党や西側諸国を一方的に悪者に仕立て上げる内容が主流となっており、自らの政権の正当性に関する疑念や問題は巧妙に隠されています。

 このような教育環境で育った若者たちは、独自の思考力を奪われ、教科書に書かれた内容と現実とのギャップに混乱し、精神的な分裂をきたすことになります。そして最終的には、共産党の統治に従順な順民(じゅんみん)として形成されていくのです。

(翻訳・吉原木子)