中国大陸で活躍していた人気歌手の苟偉(ゴウ・ウェイ)氏が、5月6日に急逝しました。享年44歳でした。複数の中国メディアによると、苟氏は睡眠中に突然亡くなったとされています。

 苟氏の死を受けて、SNSや各種報道機関では「若すぎる死」に対する反響が広がっています。特に、1980年代生まれの壮年層における突発的な死亡事例が近年増加していることに、業界関係者や一般市民の間で懸念の声が高まっています。

歌手苟偉が突然死 生前には診察予約も

 『封面新聞』や『紅星新聞』など複数の中国メディアによると、2004年のオーディション番組『我型我秀(タレントショー)』で準優勝を果たした成都市出身の歌手・苟偉氏が、5月6日に突然亡くなったことが関係者の証言で明らかになりました。

 5月7日午前、苟氏の友人である閻宇(ヤン・ユー)氏が取材に応じ、「訃報を聞いてすぐに彼の自宅へ駆けつけた。多くの成都市の友人たちも集まり、簡素ながら見送りが行われた。霊堂は設けられず、遺体は7日午前に火葬された」と語りました。

 閻氏によれば、苟氏は6日午後に病院での診察を予定していたといいます。最近、呼吸器系に不調を感じており、専門医の予約も済ませていましたが、その日の午後、眠っている間に亡くなっているのが発見されたということです。

 公開プロフィールによると、苟偉氏は1980年6月21日生まれ、成都市で育ち、幼少期から音楽に親しみ、香港のロックバンド「Beyond」の影響を強く受けたとされ、歌やギター演奏に秀でていました。2004年に東方衛視(上海のテレビ局)のオーディション番組『我型我秀』に出場し、準優勝を獲得したことで一躍注目を集めました。

相次ぐ訃報 1980年代生まれの著名人の突然死が続発

 苟偉氏の突然の死は、1980年代生まれの青壮年層における健康リスクへの関心を改めて呼び起こしました。公開情報によると、ここ最近、同世代の著名人や専門職の人々が相次いで突発的な病により亡くなっています。

 4月1日、黒龍江省ハルビン市司法局の丁鋭局長が心筋梗塞により急逝。享年41歳でした。
 4月2日、アルゼンチン出身の人気ブロガー・楊奇娜氏が低血糖を起こし、38歳の若さで亡くなりました。
 4月6日、浙江省玉環市の整形外科主治医・陳喆医師が2件の手術の合間に心肺停止を起こし、そのまま帰らぬ人となりました。わずか35歳でした。
 4月8日、寧夏大学の教授・李海波氏が突然の病で逝去。享年41歳でした。
 4月11日、約300万人のフォロワーを持つインフルエンサー・鄭世傑氏が自宅で亡くなり、28歳という若さが注目を集めました。
 4月18日、海南省海口市美蘭区の呉昇嬌区長が急病で死去。享年41歳でした。同日には、北京大学の副教授・陳昊氏も42歳で亡くなっています。
 4月21日、河南省のインフルエンサー「串哥(チュアンガー)」が病気のため他界。享年39歳。
 5月3日、中南財経政法大学法学部党委副書記・易育氏が病気により45歳で亡くなりました。

 こうした一連の若い命の喪失は、突発性疾患だけでなく、過度な仕事のプレッシャーや不規則な生活習慣といった要因に対する社会的議論を呼び起こしています。

火葬リストに若年層が増えている

 葬祭業界の現場からも、1980年代・1990年代生まれの若年層における死亡者の増加が指摘されています。

 ある葬儀業者はティックトックでの投稿で、「2024年に自身が担当した1980年代・1990年代生まれの遺体告別式が、過去3年間と比べて倍増している。その中でも、突然死の割合が顕著に高まり、心臓疾患によるものが大半を占め、末期がんも一定の割合を占めている」と語りました。

 別の同業者も、「本来は死亡リストに名を連ねるような年齢ではない若者が、火葬予定者名簿に多く見られるようになっている」とし、「なぜこんなにも1980年代・1990年代生まれの若者が多いのか」と困惑の声を上げています。そのほとんどが心筋梗塞などによる突然死だと強調しました。

 江蘇省の徐州市腫瘍医院で循環器内科の主任医師を務める張瑶俊医師も、3月24日に自身のティックトックで「まさか、20代の若者たちにまで心血管疾患が及ぶとは思わなかった」と動画で語りました。

 医師ブロガーである「健行者JiangOn」も、自身の動画で「突然死の年齢がどんどん若くなっている。しかも、ほとんど誰も救命できていない」と述べました。

ネット上でも関心高まる

 こうした若年層の突然死の増加は、ネット上でも大きな議論を呼んでいます。

 「1990年代生まれの私たちはもっと深刻な状況になるかも」
 「周りの80年代生まれの同級生が、すでに何人も亡くなっている」
 「働き盛りの世代の死亡率が高いのは、社会として健全ではない」
 「病気で死ぬか、過労で死ぬか」
 「死亡者の多くは社会の底辺で苦しんできた80年代生まれの人たちだ」

80年代生まれの死亡率」データが論争と検閲を引き起こし

 今年2月、中国の大手ポータルサイト「捜狐網」が発表した記事によると、第7回国勢調査の補足データに基づき、2024年末までに中国の80後(1980年代生まれ)世代の生存率が94.8%に低下し、死亡率は5.2%を超え、つまり、20人に1人が不幸にも亡くなっているといいます。
記事によると、80後の総人口は約2億2300万人とされ、そのうち1000万人以上がすでに死亡しているとのことです。この数字は、中国の人口統計史上、かつてない衝撃的な内容とされました。

 記事ではまた、「10歳年上の70後(1970年代生まれ)よりも死亡率が高い」という常識を覆すような事実も示され、読者の間で大きな驚きを呼びました。

 しかし、この報道はすぐに削除され、公式には否定されました。それにもかかわらず、SNSでは記事のスクリーンショットや要約が急速に拡散され、削除の動きに対する反発と疑問の声が相次ぎました。

 多くのネットユーザーは「否定されたデータこそ真実に近いのでは」と主張し、「決してとっぴな数字ではない」とする見方を示しました。

危機に瀕する中国

 中国疾病予防管理センター(CDC)は4月29日、「5月ゴールデンウィークに向けた健康注意情報」を発表し、国内で複数の感染症が同時多発的に流行している現状を警告しました。新型コロナウイルス、ノロウイルス、手足口病、サル痘、動物由来感染症が併発的に広がっており、当局は国民に対し予防対策の徹底を呼びかけています。

 こうした状況の中、中国各地の医療機関では外来患者が殺到し、診療のひっ迫が続いています。また、一部の都市では火葬場にも遺体を待つ列ができるなど、社会不安をさらに煽るような事態も報じられています。

 しかし、国民の間で最も深刻な懸念を呼んでいるのは、感染そのものではなく、情報の不透明さです。中国当局は「現在の感染者の99%がインフルエンザA型である」と公式に発表しつつも、病院には新型コロナウイルスのPCR検査を引き続き実施させ、発熱外来の拡充を各地に指示しています。

 こうした矛盾した対応に対し、国民の間では「再び新型コロナの流行が始まっているのではないか」「またもや真実を隠しているのでは」といった疑念が広がっています。新型コロナ初期と同様に、当局が感染状況を正確に開示していないとの不信感が根強く、「最大の脅威はウイルスそのものではなく、真実を隠す体制だ」との声も少なくありません。

(翻訳・藍彧)