米中間の関税戦争が激化する中、中国経済はこれまでにない厳しい試練に直面しています。工場の閉鎖、労働者の失業、消費の冷え込みといった現象が広がり、一般市民の生活は大きな打撃を受けています。

 米政府が中国からの輸入品に対する関税を145%に引き上げたことを受け、中国も対抗措置として米製品に125%の報復関税を課しました。これにより、両国間の貿易摩擦はさらに激しさを増しています。

かつての製造業都市、今や工場閉鎖と労働者の困窮が深刻化

 貿易戦争の激化に伴い、中国当局は国内市場での中国製品需要を拡大せざるを得なくなっています。しかし、関税が本格的に発動される以前から、経済学者たちは内需拡大の目標が容易ではないと指摘していました。背景には、深刻な不動産市場の低迷が経済成長を長期にわたり足を引っ張っている現状があります。

 安徽省蕪湖市(ぶこし)はかつて中規模以上の工業企業が2000社以上立地し、比亜迪(BYD)や奇瑞汽車(チェリー・オートモービル)、海螺セメント(アンキ・コンチ・セメント)などの有名企業も拠点を置いていました。しかし、3年に及ぶコロナ禍の封鎖措置を経た中国経済は下降傾向を続けています。さらに、米中間の関税戦争の影響でアメリカ向け輸出が急減し、輸出に依存していた企業の多くが受注を失い、破産や閉鎖に追い込まれました。

 蕪湖市で労働者派遣業に従事する李さん(仮名、河南省出身)は、現在の雇用環境について「今は多くの業界の状況が悪く、工場も次々と倒産している」と肩を落とします。「工場が休業に入り、労働者は収入を得られず、生活必需品の支出さえ切り詰めざるを得ない」と話します。

 李さんによれば、数年前までは工場側が人手不足に悩み、労働者の月給はおおむね5000~6000元(約10万~12万円)、場合によってはそれ以上だったといいます。ところが現在では、多くの工場が「週4日勤務・週3日休み」という体制に移行し、労働時間も1日8時間に制限され、月収はわずか2000~3000元(約4万~6万円)に落ち込んでいます。正社員でさえ生活の維持が難しく、臨時雇いの労働者にはほとんど仕事の機会がないのが実情です。

大都市でも就職競争が激化 若者たちが二の足を踏む現実

 広州市では、23歳のハードウェアエンジニアリング専攻の専門学校卒業生、張さん(仮名)が、過酷な就職活動の現実に直面しました。今年3月中旬、張さんは希望に胸を膨らませて広東省を訪れ、一線都市・広州市でのキャリア形成を目指しましたが、待ち受けていたのは想像をはるかに超える厳しい就職市場でした。

 「今の広州市は仕事を見つけるのが本当に難しい。できるなら、こっちには来ないほうがいいよ。広州市の基本給は他都市と大きく変わらないものの、競争があまりにも激しい」と張さんは率直に語ります。

 張さんは広東省内のある電子工場への就職を試みましたが、そこで目にした光景に衝撃を受けました。わずか2人の採用枠に対して、50人以上が面接に押し寄せ、単純作業であるはずの「ネジ締め」のような業務ですら高い人気を集めていたのです。「面接に来た人は皆、私と同じくらいの年齢で、ほとんどが2000年代生まれであった。なぜこのような状況になったのか、よく分からない」と張さんは戸惑いを隠せません。

 広州市は、かつて中国の製造業とハイテク産業の中心地として、若者たちが夢を追い求める場所でした。しかし、米中間の関税戦争により輸出企業の受注が減少し、多くの企業が規模縮小や生産停止を余儀なくされています。その影響は、すでに就職市場にも深刻な打撃を与えています。

失業の波が女性求職者を直撃 将来への不安が広がる

 浙江省杭州市では、女性の陳さん(仮名)が半年以上失業状態にあり、いまだに適職を見つけられずにいます。彼女は、「今年はどの業界でも求職が非常に難しい。今はもう完全に将来が見えなくなった。最も底辺の仕事をするしかないと感じている」と吐露しました。

 生計を立てるため、陳さんは電動バイクの購入も諦め、シェアサイクルを使って出前のデリバリー業務をこなしている状況です。生活は厳しさを増し、日々の暮らしも困難に直面しています。

 陳さんの体験は、関税戦争を背景とした中国の雇用市場における構造的問題を浮き彫りにしています。経済成長の鈍化により企業は採用予算を削減し、高度なスキルを要するポストは減少する一方、低スキル労働者を受け入れるだけの雇用の受け皿も十分には存在していません。

 一部の分析では、中共当局が貿易戦争による経済への影響を過小評価しようとしていると指摘されています。しかし、実際には工場の操業停止や企業のリストラが相次ぎ、失業率は上昇しています。特に一般労働者層が、その影響を最も強く受けているのが現状です。

政府部門でも人員削減 経済学専攻の若者が借金を背負う現実

 貴州省貴陽市では、大学で経済学を学んだ楊さん(仮名、女性)が、政府機関での勤務から失業へと転落する苦しい経験を味わいました。彼女は、政府部門でおよそ1年間勤務しましたが、人員削減の方針により契約途中で職を失いました。

 「契約期間が満了する前にリストラされた。職員への補償を避けるために一方的に減給され、それを受け入れることができず退職した」と楊さんは語ります。失業してから半年が経過した今、彼女は数万元(数十万円)の借金を抱え、生活は困窮の一途をたどっています。

 かつては高待遇を謳うネット通販のライブ配信販売員(ライバー)職にも応募しましたが、内定の連絡は一向に届かず、今では「何もかも投げ出したい気持ちになっている」と打ち明けます。それでも仕事への未練は断ち切れず、「政府機関での1年間の仕事が、私をうつ病寸前にまで追い込んだ」と苦笑しながら語りました。

 楊さんのケースは、関税戦争が公共部門の雇用にまで間接的な影響を及ぼしている現実を映し出しています。輸出減少と経済減速により地方政府の財政は悪化し、リストラや給与削減はすでに日常的な光景となりつつあります。

関税戦争がもたらす中国経済停滞の深層

 米中間の関税戦争は、中国の輸出産業に大打撃を与えただけでなく、経済全体に連鎖的な影響をもたらしています。工場の閉鎖による労働者の収入減少は消費力の低下を招き、内需不足をさらに深刻化させています。若年層は企業内の激しい競争に晒され、就職先の選択肢も狭まっています。一方で、高学歴層の失業が目立つなど、労働市場の構造的な歪みも顕在化しています。

 SNSプラットフォーム「X」では、こうした社会不安を反映する投稿が相次いでいます。あるユーザーは「関税戦争の影響で中国の失業人口は3億人を超えた」と書き込みました。この数字の正確性は不明ですが、少なくとも市民の間に深刻な雇用不安が広がっている現実を物語っています。

 安徽省蕪湖の労働者派遣業者、広州市で職を探す大学卒業生、杭州市でデリバリー業務に従事する女性、貴陽市で失業に苦しむ若者――彼ら4人の物語は、米中関税戦争下における中国経済の停滞と国民生活の困窮を象徴しています。工場閉鎖、雇用市場の過剰競争、失業の波、これらすべてが一般庶民の生活を圧迫しています。

 中国当局は政策面での調整を通じて経済の圧力を緩和しようとしていますが、現時点では効果は限定的であり、就職市場の厳冬はしばらく続くと見られています。

(翻訳・藍彧)