先日終了した「メーデー」の大型連休中、中国の公式メディアは相次いで観光データを発表し、旅行者数が過去最多を更新し、観光収入が大幅に回復したと強調するなど、「にぎやかで繁栄する」経済の姿を描き出そうとしました。しかし、現実には輸出の減少、製造業の停滞、雇用不安、そして消費の冷え込みなど、複合的な経済的圧力が顕在化しており、政府が描く「復活の光景」と国民の実感との間には大きな隔たりが生まれています。
まず、米中間の関税戦争が再び激化したことにより、外需依存型の貿易業界に深刻な打撃が広がっています。自由アジア放送が5月5日に報じたところによると、広東省深圳市(しんせんし)のある貿易会社の責任者である陳暁琴(ちん・ぎょうきん)氏は、アメリカが中国製品に対する輸入関税を大幅に引き上げた結果、多くの関連企業が正常に業務を継続できない状態に陥っていると語りました。
特に電子製品の分野では、例年であればアメリカからの春季注文が7月まで埋まっていたものの、今年はそれらの注文がほとんどベトナムに移ってしまったといいます。「仮に注文が入っても、実際の生産はベトナム工場に外注しなければならず、広東省内の多くの工場ではすでに生産ラインが止まっています」と彼女は語り、会社のオーナーがすでに事業売却を検討していることも明かしました。
また、浙江省温州市(おんしゅうし)の企業経営者・方志(ほう・し)氏も、「最も大きな影響を受けているのは、広東省や福建省といった外需主導型の経済圏です。工場の操業停止、市場の閑散化、商店の閉鎖が相次いでおり、非常に寂しい状況です」と述べています。「もし近いうちに米中間で妥結できれば望みはありますが、そうでなければ製造業の中心が東南アジアに完全に移転し、いったん出て行ったサプライチェーンは二度と戻ってこないかもしれません」との危機感も示されました。
外需の縮小は物流と航空貨物にも直接的な打撃を与えています。各航空会社の貨物取扱量は平均して約30%減少し、ロサンゼルス港の推計によれば、5月4日からの週では輸送量が前年同週比で3分の1減少し、5月全体では25万個以上のコンテナ輸送がキャンセルされる見込みです。
さらに、雇用市場の冷え込みも長期化しています。ゴールドマン・サックスが最近発表したレポートによると、アメリカが中国製品に対して145%の追加関税を継続した場合、中国国内では約1000万~2000万人分の雇用が失われる可能性があり、これは全国の労働人口のおよそ3%に相当します。
中国政府の統計では、2025年3月の全国都市部の調査失業率は5.2%とされていますが、16〜24歳の若年層の失業率は16.5%に達しており、特に深刻です。例年であれば五一連休の時期は採用活動が活発になるはずですが、今年はむしろ多くの求人が突然キャンセルされるなど、異例の状況が見られました。
SNS(微博・小紅書・抖音)では、多くの若者たちが「就職できない」状況を共有しています。あるネットユーザーは、「私は2025年卒業予定の文系修士です。昨年の秋から今年の春まで就職活動を続けてきましたが、これまでに約8000通の履歴書を送っても、いまだに内定が一つも取れていません」と書いています。四川省南充市(なんじゅうし)の農民工・李芳林(り・ほうりん)氏も、「こちらでは失業者が非常に多く、50歳を超えた男性は仕事を見つけるのがほぼ不可能です」と語ります。江蘇省のネット商人・祝(しゅく)氏は「今は本当に商売になりません。列車で旅行した際、まわりでは共産党に対する不満の声が飛び交っていました。稼げない、物価は高い、政府は腐敗している。それなのに、反腐敗運動は結局、政府に逆らう官僚だけがターゲットにされているのです」と語っています。
こうした経済的な逆風の中でも、中国当局は「メーデー観光ブーム」を盛んに報道し続けています。新華社通信によると、今年の五一連休には全国で延べ2億9500万人が旅行し、前年同期比で28.2%増加、観光収入は1668億元に達し、2019年水準にまで回復したとしています。
しかし、多くの市民はこうした数字に対して懐疑的です。実際には観光地が「人山人海(人混みであふれる)」であっても、旅行者の支出はきわめて抑えられており、全体として消費行動は冷え込んでいるのが実態です。北京市(ぺきんし)の銀行員・劉暁婷(りゅう・ぎょうてい)さんは、「友人と河北省邯鄲市(かんたんし)にドライブで出かけましたが、費用はかなり安く済みました。ホテルも1泊300〜400元で十分手頃です」と話しています。
また、百度指数によると、連休期間中は「緑皮車(各駅停車の普通列車)」の検索数が大きく伸びました。高速鉄道の料金が高騰したことで、所要時間は長くても、より安価な列車を選ぶ旅行者が増えています。このような「休暇はあるが予算はない」という現実は、「消費が活発化している」という政府の主張と大きく食い違っています。
たとえば重慶市(じゅうけいし)の観光地・洪崖洞(こうがいどう)では、観光客が写真を撮った後にすぐ立ち去り、買い物はほとんどしていなかったという声が小紅書に投稿されています。「春節のような人混みだったけど、みんな写真を撮るだけで、水一本すら買っていなかった」とのことです。
さらには「特種兵式旅行」と呼ばれる超節約型の旅行スタイルも流行しており、ホテル代を節約するために24時間営業のファストフード店などで一夜を過ごす人や、香港などでは日帰りで本土に戻る旅行者も多く見られました。
武漢市(ぶかんし)の住民・張さんは、「今年の五一は雰囲気がまったく違います。近所のウォルマートも人が少なかったし、有名だった王府井通り(中山大道)も店が撤退してガラガラでした。物価も上がっていて、薬ですら高騰しています。とても消費する気にはなれません」と話しています。
総じて言えば、五一連休の「にぎわい」の裏側には、深刻な消費意欲の低下と国民生活の不安が色濃く影を落としています。旅行者数がいくら増加しても、購買力の低下という事実を覆すことはできません。真に市場の活力を引き出し、国民の信頼を取り戻すためには、数字や宣伝だけに頼らず、根本的な構造問題と制度的課題に正面から向き合うことが不可欠です。
(翻訳・吉原木子)