上海市奉賢区で、11人の定年退職者と3人の若者が、数ヶ月にわたりタダ働きをさせられるという酒席での作り話から始まった信じがたい騒動が起きました。彼らは給料を1円も受け取れなかったばかりか、仕事を得るために自腹で金品を男に貢いでいました。事件発覚後ようやく、この「地下鉄駅での高給な仕事」という詐欺の真相が明らかになりました。
事の発端は、あまりにもお粗末なものでした。2024年6月、ある酒席で、ほろ酔い状態の男が、「自分の親戚が上海地下鉄5号線の外部委託業務を請け負っている。現在求人中だ。自分にはコネがあるから就職を斡旋できる」と吹聴し始めました。男にとっては単なる酒場のホラ話に過ぎませんでした。しかし、周囲の受け止め方は違いました。この話を聞きつけた14人の男女は、次々と男の元を訪れ、仕事の口利きをしてほしいと頼み込んだのです。
頼み込まれて引っ込みがつかなくなった男は、事実を明かすどころか、周囲からおだてられる心地よさに負け、嘘を突き通す道を選びました。彼はもっともらしくこの14人に仕事を与えました。それは、毎日地下鉄のいくつかの駅へ行き、駅構内のスタッフの勤務状況を監督し、乗客の荷物運搬を手伝うというもので、月給約14万円(6800元)という条件を提示したのです。
詐欺を本物らしく見せるため、男は滑稽でありながらも妙に手の込んだ入社プロセスを作り上げました。彼はこの新入社員たちに対し、毎日、駅の入り口にある監視カメラに向かって敬礼することを命じ、それを出勤確認の代わりとしました。さらにわざわざ入社試験を実施して一部始終を録画し、不合格なら本採用にはならないと思わせたのです。このような一見もっともらしい手順を踏ませた上で、男はこの仕事はなかなか手に入らないものだと頻繁にほのめかしました。すっかり信じ込んだ被害者たちは、便宜を図ってくれたことへの感謝として、次々と自発的に高級なタバコや酒、商品券、現金を男へ贈りました。
しかし、数ヶ月間真面目に出勤したものの、約束された給料は一向に支払われませんでした。疑念を抱いた被害者達が問い詰めたところ、事の露見を悟った男はついに真実を白状し、被害者たちの通報により事件は発覚しました。逮捕後、男は地下鉄の駅員など全く知らず、すべてはリーダーとして振る舞い、周囲からちやほやされる快感を味わいたかっただけだと供述しています。最終的に、男は騙し取った金品の一部を賠償し、自腹を切って給料の一部を補填しました。先日、裁判所はこの男に対し、詐欺罪で懲役6ヶ月、執行猶予1年、罰金刑の判決を言い渡しました。
こうして詐欺師は裁きを受けました。一見すると、これはどこか滑稽な詐欺事件に思えるかもしれません。しかし、背後にある社会の背景を踏まえると、この騒動は現代の中国社会を映し出す鏡のようでもあります。ここで浮き彫りになったのは、決して数人の個人や特定グループの悲劇ではなく、現在の中国全体が直面している失業、就職難、労働者の権利保障の欠如といった、構造的な問題そのものなのです。
まず注目すべきは、なぜ何の根拠もないホラ話一つに、14人もの人が群がったのかという点です。彼らが求めたのは決して高給なエリート職などではなく、地下鉄の駅で勤務状況を監督し、荷物を運ぶという現場の単純労働に過ぎません。中国全土で最も経済が発展し、機会に恵まれているはずの上海でさえ、こうした事態が起きています。特別なスキルを必要としない架空のポストに対して、家計の足しにしたい定年退職者が引き付けられただけでなく、本来ならばもっと広い世界で活躍できるはずの若者3人をも巻き込み、自腹を切ってまでコネに頼らせてしまったという事実があります。
上海でさえ単純労働にありつくためにコネが必要だとすれば、雇用機会が乏しい地方都市の現実はさらに過酷であることが容易に想像できます。この事件は図らずも、中国全土に広がる厳しい雇用環境を浮き彫りにしました。これは決して個々の求職者の努力不足といった問題ではありません。過酷な競争社会に置かれた一般の人々が経済全体が停滞する中で、直面している、社会構造そのものがもたらす生活への不安を示していると言えます。
さらに不可解なのは、数ヶ月にも及ぶ無給労働に対して、なぜ誰もすぐに見切りをつけて辞めなかったのかという点です。常識的に考えれば、働き始めて最初の給料日に支払いがなければ、警戒して疑問を抱くはずです。しかし、被害者たちがこれほどの長期間騙され続けた背景には、給与の遅延や未払いが、半ば暗黙の了解として社会に蔓延してしまっているという事実があります。
法治と契約のルールが中国国内で比較的守られている上海においてすら、周囲の厳しい社会環境に労働者は順応してしまい、無意識のうちに「今は世の中の景気が悪く、企業も苦しいのだから、給与の遅れは仕方がない」「とにかく仕事があるだけでいい、お金は遅かれ早かれもらえるだろう」といったあきらめや妥協を生み出しています。もはや特定業界における給与が保障されにくいという状況は、一時的な問題ではなく、無数の労働者が常に抱える脅威へと変化しています。立場の弱い人々にとってタダ働きが受け入れざるを得ない日常とみなされた時、労働者の尊厳を守るべき最低限の防波堤は、すでに決壊しているのかもしれません。
この一見すると荒唐無稽な詐欺事件は、現在の中国におけるマクロな社会の現実を映し出しています。それはすでに単なる詐欺事件の範疇を超え、深刻化する全国的な雇用不安、そして労働者の基本的な給与や権利を保障するシステムの脆さを証明しています。事件は幕を閉じ、判決も下りましたが、この背景にある重い社会的な課題は、一人の詐欺師を罰することよりも遥かに根深く、容易に解決できるものではありません。
(翻訳・吉原木子)
