在中国欧州連合商工会議所(EUCCC、中国欧盟商会)は4月16日に発表した「中国製造2025:技術的リーダーシップの代償(Made in China 2025: The Cost of Technological Leadership)」という報告書の中で、中国当局が推進してきた10カ年計画の「中国製造2025」が、当初掲げていた主要目標を達成できなかったと指摘しました。

 この報告によれば、中国は同計画を通じて技術分野の自立を目指してきましたが、現実にはその目標を達成できず、中国当局による過度な産業介入がむしろ逆効果を招いているといいます。その結果、産業界では深刻な供給過剰と過当競争が発生し、中国自身の経済的利益を損なうだけでなく、国際的な安全保障や地政学的リスクを一層悪化させていると警鐘を鳴らしています。

「中国製造2025」計画は期待を下回る結果に

 2015年に中国当局が発表した国家戦略「中国製造2025」は、中国をローエンド製造業から脱却させ、技術大国への転換を図ることを目的として掲げられました。航空宇宙や高性能ロボット、電気自動車(EV)、先進的な鉄道技術、新素材、海洋工学、バイオ医薬品など、10の戦略的産業が対象とされてきました。

 EUCCCの報告によると、2015年に「中国製造2025」戦略が始動して以来、中国当局は補助金の提供、強制的な技術移転、地方政府による保護主義的措置、外国企業の排除的な調達制度など、市場のルールを無視したあらゆる手段を用いて国内企業を優遇してきました。こうした措置は公正な競争原則に反し、外国企業の中国市場に対する信頼を着実に弱めているとされています。

 この計画は当初から国際社会の批判を浴びており、「外資系企業の締め出しを狙っている」との懸念が広まりました。そのため、中国当局は後にこの計画に関する言及を控えるようになりましたが、政策自体が撤回されたわけではありません。むしろ近年、米国による技術封鎖が進む中、中国は自国のテック企業への支援を強化しています。

 EUCCCメンバー企業からの報告やフィードバックによると、中国が一定の成果を上げたのは造船、高速鉄道、電気自動車の3分野に限定されています。とはいえ、それらの分野でも課題は山積しています。

 たとえば、造船業は受注量で世界トップの座を維持していますが、液化天然ガス(LNG)船やクルーズ船を自力で建造する能力はいまだに備わっていません。高速鉄道についても、重要部品であるボルトや軸受けを日本などから輸入に頼っており、真の意味での技術自立には至っていません。

 電気自動車分野では販売台数が世界をリードしていますが、過剰な補助金政策により業界は価格競争に陥り、多くの企業が赤字に苦しんでいます。

 残りの7産業についても、ほとんどが目標を達成していません。例えば、航空分野では、自主開発とされるC919型旅客機の約90%の部品が欧米製であるとされ、技術的自立には程遠い状況です。2024年時点でも同機は商業運航の初期段階にとどまっており、より大型のC929型の試験飛行も完了していません。

 また、NC工作機械や(産業用)ロボットの分野では、2022年の時点で中国企業の市場シェアはわずか31.9%にとどまり、計画で掲げられた70%という目標には遠く及びませんでした。また、計画の中で設定されていた「製造業の付加価値の年平均成長率」も実現せず、2024年には6.1%と、2015年の7%を下回り、目標とされた11%からも大きく乖離(かいり)しています。

国家主導の産業政策が市場をゆがめるリスク

 同報告書は、中国が世界の製造業に占める割合を29%まで引き上げたことに一定の成果を認めつつも、その多くが市場メカニズムではなく国家補助金と政策によるものである点を問題視しています。中国当局は一部の企業に資源を集中させる一方、それ以外の企業を低価格競争に巻き込む構造を生み出し、業界全体に消耗的な激しい競争が広がっています。その結果、効率の低下と構造的な過剰生産が深刻化しています。

 米経済メディアCNBCによると、EUCCCの新会頭イェンス・エスケルンド氏は記者団に対し、「むしろ計画が実現されなかったことを喜ぶべきだ。もし中国製品がさらに多く市場を席巻していたら、国際競争はもっと過酷になっていた」と語っています。

 EUCCCは、「中国製造2025」は短期的な実験ではなく、2049年までに中国を製造強国に押し上げることを目指す長期戦略であり、近年中国当局が推し進める「新質生産力」も、この計画の延長線上にあると分析しています。

 米戦略国際問題研究所(CSIS)も、中国のハイテク製造業に対する輸出規制は短期的には一定の効果があるとしながらも、それが中国当局による研究開発投資を一層加速させていると指摘しています。例えば、通信大手の華為技術(ファーウェイ)は2024年、売上の20.8%を研究開発費に充てており、これはオランダのASMLや米国のNVIDIAを上回る水準です。

 一方で、EUCCCは補助金と政策誘導による技術振興には副作用もあると警告しています。これにより一部技術の開発は進んだものの、資源の最適な配分が妨げられ、生産能力の過剰という構造問題が深刻化しています。同報告は、「政策主導の産業転換は必ずしも健全な市場成長をもたらさず、むしろグローバルな供給網に混乱をもたらす」と強調しています。

 また、米国が実施している関税措置や先端技術の輸出管理も、「中国製造2025」に実質的な打撃を与えており、中国企業の国際競争力に影響を与えていると同時に、国際社会における中国の製造業の位置づけについて再評価を促す契機(けいき)となっていると報告はまとめています。

政策転換なければ「全面的デカップリング」の危機に

 報告書によると、欧州連合内には中国との関係をどう構築すべきかについて意見の分かれがあるとしつつも、一部の加盟国が現実的な協力継続を模索する姿勢を見せていると指摘しています。ただし、その前提として「中国側が本気で市場を開放する意思を示すことが不可欠である」と警告しています。

 米中間の新たな関税圧力や地政学的緊張の高まりを背景に、報告書は中国当局に対し、産業政策の抜本(ばっぽん)的見直しを迫らない限り、国際市場からのさらなる「デカップリング(切り離し)」が進行する可能性があると明確に警鐘を鳴らしています。

 EUCCCは、中国が再び「改革開放」の市場原理に立ち返り、国家主導の産業政策を見直すべきだと提言しています。その上で、中国国内外の企業が公平に競争できる経済環境を整備することが、国際社会との協調維持には不可欠であると強調しています。

 また、中国当局が「自国の力での発展(自力更生)」を名目に排他的な経済政策を強化し続けるならば、それは欧州との経済・貿易協力に深刻な打撃を与えるのみならず、中国自身の経済のしなやかさと国際的な信頼を大きく損なう結果につながると述べています。

 2000年に設立された在中国欧州連合商工会議所は、在中の欧州企業を代表する非営利団体であり、現在1700社以上の会員企業を擁しています。会員企業は多様な産業分野にわたり、同商会は公正かつ透明性のある市場環境の整備を目指して、政策対話、調査報告、提言活動を通じて、中欧経済関係の橋渡し役を果たしてきました。

(翻訳・藍彧)