米国による対中関税引き上げの影響で、中国からの輸出品の注文が相次いでキャンセルされ、各地の港ではコンテナの滞留が深刻化しています。こうした事態を受け、中国江蘇省に位置する蘇州港はこのほど、外貿企業に対してコンテナを3か月間無料で保管するサービスを開始すると発表しました。

 蘇州港管理委員会事務局は、4月18日に発表した公告の中で、外貿企業(輸出企業)の苦境を乗り切るため、即日より蘇州港内のすべてのコンテナターミナルにおいて、市内の外貿企業が取り扱う輸出入コンテナを無料で保管すると明らかにしました。無料期間は2025年4月18日から7月17日までとされています。

 蘇州市政府の公式サイトによれば、蘇州港は長江の河口付近という要衝に位置し、東南には上海市、西南には蘇州市、無錫市、常熟市といった工業都市が広がっています。蘇州港は中国沿岸地域における重要な港湾の一つであり、同時に上海国際航運センターの中核を成す施設でもあります。

 上海航運取引所の発表によると、2024年には蘇州港の貨物取扱量が6億トンを突破し、年間コンテナ取扱量が初めて1000万TEU(20フィートコンテナ換算)を超えた中国初の内陸港となったといいます。

「会社はもう死んだ」──輸出企業から悲鳴

 蘇州港の無料保管措置が発表された背景には、滞留する輸出用コンテナの増加と、製造業を直撃するコスト圧力の高まりがあります。中国のSNS上では、耐えきれず悲鳴を上げる輸出企業の経営者たちの投稿が相次いでいます。

 江蘇省丹陽市のあるアパレル会社は、4月10日に動画を投稿しました。動画では、工場の作業員たちがトラックから大量の貨物を次々と降ろす様子が映されており、投稿には「6万着のダウンジャケットの出荷がすべて停止した」と説明されています。

 また、広州市に拠点を置く「バークレーサプライチェーンテクノロジー」社の代表者は、4月11日に自身の会社の現状を撮影した動画を公開しました。かつて年商2億元(約40億円)、60人の従業員を抱えていた同社は、今や数人しか残っていないといいます。動画のタイトルには、「過剰競争、人口急減、関税で商品が出荷できず、会社は死んだ」と悲痛な言葉が並んでいました。

 代表者は涙をこらえながらこう語っています。 「飲食業を始めたがつぶれ、鉱山事業にも手を出したが倒産した。笑われるかもしれないが、20年かけて積み重ねた努力が一夜にして水の泡となった。自分は龍だと思っていたが、実際は虫だった。今はもう何をすればよいのか分からない。現実として、会社は完全に倒産した」

 また、輸出が盛んな浙江省でも同様の悲痛な声が上がっています。台州市(だいしゅうし)の起躍電子機械メーカーの担当者は、会社の様子を映した動画を投稿し、「貿易戦争で中小企業が犠牲になったなら、どうか私たちの企業名を記憶してほしい」と書き添えました。動画には、出荷できず倉庫に山積みとなった大量の輸出用製品が映し出されています。「海外から注文を受けた商品がすべて出荷停止になった。これだけの製品が倉庫に積み上がっている。今回の関税をめぐる貿易戦争では、私たち中小企業が真っ先に直撃を受けている」と担当者は無念さをにじませています。

「輸出から国内販売へ」──激化する価格競争と内需市場の限界

 関税戦争に対応するため、中国ではアリババ、ティックトック、快手(クアイショウ)など、10を超える電子商取引プラットフォームが、外貨向け製品専用ゾーンや特別な流通ルートを設けるなど、輸出製品を国内市場に転換させる試みを進めています。しかしながら、輸出企業の多くは国内販売ルートに乏しいうえ、中国市場自体がすでに深刻な「過剰競争」に陥っており、激しい価格競争に巻き込まれています。限られた消費市場の中で、国内メーカーもまた苦境を訴えています。

 例えば家電業界では、輸出注文の国内回流により供給が急増し、もともと過当競争にさらされていた市場がさらに厳しい状況に追い込まれています。中国家電網の報道によると、中国家電協会のデータでは、2024年の中国家電業界の累計輸出額は1124.2億ドル(約1.75兆円)に達し、そのうち約18%が米国向けでした。輸出先の一部は他の海外市場に振り分けることができるものの、相当数の生産能力が国内市場への転換を余儀なくされています。

 報道では、浙江省慈渓市(じけいし)に拠点を置くある小型家電メーカーの声も紹介されています。同社は米国向け輸出が売上の約30%を占めており、「長期にわたる出荷停止で在庫が積み上がるなら、国内市場向けに値下げして処分するしかない」と苦しい胸の内を明かしています。

 また、中国メディア「中厨号(チャイナキッチン)」が掲載した「輸出から国内販売へ移行する企業が増加、厨房・衛生設備メーカーは価格競争の激化をどう乗り越えるか」という記事でも、厳しい現状が報告されています。今年の旧正月以降、海外からの注文が減少した厨房・衛生設備メーカーが次々と国内市場に転向しているといい、記事では「一目見ただけで、価格競争がさらに熾烈になることは明らかだ」と警鐘を鳴らしています。

国民の所得増えず 内需拡大は困難か

 中国の李強首相は4月15日、北京市内を視察した際、「より一層の消費促進と内需拡大に取り組み、国内循環を強化する」ことを強調しました。しかし、現実の内需市場では、すでに激しい価格競争が繰り広げられており、そこに輸出企業まで参入してくれば、市場規模を拡大できるのか疑問視されています。

 湖北省武漢市に住む田さんは、「財布にお金がないのに、いくら刺激策を打ち出されても意味がない。もしお金があれば、刺激策がなくても自然に消費する。なぜいつも『内需刺激』と言うのか。国民は搾取されて、手元にお金がないのだ」と率直に語りました。

 中国の独立系経済学者である賀江兵氏は、ラジオ・フリー・アジアの取材に応じ、「米国の消費市場は約19兆ドルに達し、世界最大規模である。欧州連合(EU)も約10兆ドルの消費力を有しているが、中国はそれに遠く及ばない」と指摘しました。  賀氏によれば、中国では外食産業に参入する人が多いものの、マクロ環境を正しく理解できておらず、多くの飲食店が開店から3か月以内に倒産してしまうといいます。中国の一人当たり消費支出は限られており、これでは内需拡大を実現するのは難しいと分析しています。

 実際、米国では消費支出がGDPの約69%を占め、欧州連合では約51%を占めています。一方、中国の消費支出総額は約6.7兆ドルにとどまり、GDPに占める割合は38%にすぎません。欧米諸国との間には依然として大きな開きがあります。

 2023年12月に中国政府が発表した「中国所得分配年次報告書2021」によれば、中国の人口約14億人のうち、月収2000元(約4万円)未満の人が9.6億人を超えていることが明らかになっています。これにより、中国社会の所得構造は中低所得層が中心であり、大多数の人々が生活のぎりぎりのラインで暮らしている現状が浮き彫りになりました。

 こうした国民の所得水準を踏まえれば、中国国内の内需市場の限界も容易に想像がつきます。

(翻訳・藍彧)