中国では大都市の衰退が進んでおり、それは北京も例外ではありません。先月発表された北京市の経済データは厳しい現実を物語っており、ここ数年で最大の落ち込みを記録しました。消費者心理の冷え込みと購買意欲の著しい低下が、実体経済に大きな影響を与えています。

閑古鳥鳴く小売業

 北京市統計局が4月18日に発表したデータによると、2025年第1四半期の社会消費品小売総額は、前年同期比で3.3%の減少となりました。特に3月単月では9.9%もの急落となり、経済回復の道のりが未だ険しいことを改めて浮き彫りにしています。その背景にあるのは、所得の減少や雇用の不安定化、将来の見通しの悪さ、そして生活コストの上昇などが挙げられます。

 中国統計局のデータによれば、特に「商品小売部門」が前年同月比で10.6%減となり、消費総量の低下に最も大きく影響を与えています。かつて賑わっていた北京市内のショッピングエリアも、今では閑散としており、市内に住む銭さんは取材に対しこう語りました。

 「昔の北京は街中が人であふれていたが、今はもうそのような光景は見られない。閉店した店も多く、あちこちに“テナント募集”の看板が出ている。」

 営業を続けている店舗でも、売り上げは厳しい状況が続いています。多くの市民は、オンラインでのセール品や生活必需品以外の購入を控えるようになり、極力支出を抑える生活スタイルへと移行しています。

 銭さんは、「贅沢品は一切買わず、食料品も必要な物だけを買っている。外食もほとんどやめて、自炊に切り替えた。ずっと節約になるからね」と言いました。

飲食業界、止まらぬ萎縮

 飲食業界は、今や北京市内で最も苦しい業種の一つとなっています。今年3月、北京市の飲食業売上は前年同月比で3.1%減少しました。街からは馴染みのあった屋台が次々と姿を消し、中小規模のレストランは大量に倒産しています。

 北京市民の季風(きふう)さんによると、営業を続けられているのは、手頃な価格と長年の信頼を誇る老舗チェーン店がメインとのことです。季風さんは「老舗も儲けるなんて贅沢なことを考えていない。潰れなければ上出来だ。お昼でも並ばなくてもすぐ入店できるようになった」と語りました。

 一方で、高級レストランや流行の「映え」スポット型レストランは、次々と閉店に追い込まれています。高い家賃と人件費に苦しみ、来客数が激減。この三重苦に耐えられず、多くの店が撤退を選びました。

 今や北京市民にとって「節約」が常識となっています。取材に応じた複数の市民は、家計のやり繰りについて、口を揃えてこう語ります。

 「不要不急の支出は徹底的にカット。できる限り外出を控え、収入があればすぐ貯金に回す。」

 事実、消費支出が落ち込む一方で、中国国内の貯蓄額は増え続けています。2024年、中国の全国民の銀行預金残高は、前年比で14兆元(約270兆円)増加しました。この傾向について、専門家は、雇用や医療、老後の生活への不安感が強まっていることの裏返しだと分析しています。

 季風さんも、「前は外食するほうが楽だった。でも今は、そもそも外食に行くお金がない。みんな、おごりあうようなこともなくなった。収入が減って、経済の先行きも不透明なので、少し余裕があればとにかく貯金に回している」と語っています。

 厳しい経済状況の中、異例の伸びを見せた分野もありました。今年3月、北京市内の金銀・宝飾品の売上は、前年同月比で28.5%も増加しています。この現象について、アナリストは、一部の中産階級や富裕層が、通貨価値の下落リスクなどをヘッジするため、長期的な資産保全に有効とされる貴金属を買い求めていることが主な原因であると分析しています。

 消費低迷の波は、芸術界にも及んでいます。かつては中国屈指のアート拠点だった宋庄(ソンジュアン)アートゾーンでは、過去1年間で100人以上の画家が退去を余儀なくされました。取材に応じた地元住民は「絵がまったく売れず、ギャラリーも閉店ラッシュだ。みんな郊外の安い物件に移っていった」と語っています。この現象は、経済全体が落ちぶれる中で、生活に直結しない産業が真っ先にダメージを被っている現実を、如実に物語っています。

暴動鎮圧費用も「節約」
 さらに注目すべき兆候として、これまで「聖域」とされてきた中国共産党の治安維持費用、すなわちデモや抗議活動の鎮圧費用までも、今や削減の対象となっています。

 北京市民の季風さんは、政府内部の変化について、事細かに証言しています。 「今は政府の役人でさえ豪華な宴会ができなくなった。予算が足りず、治安維持活動に使う資金まで底をつく勢いだ。私の知り合いは国内安全保衛局、すなわち公安警察の一部門で働いているが、今では出張費の立て替えが当たり前で、しかも半年経っても精算されないことがざらだ。以前は、まず政府からお金を借りて、あとから精算することが許されていた。今は、先に自腹を切らないといけない。それに、精算できる保証もない。」

 治安部門の金欠は、もう一つの現象からも明らかになっています。季風さんによると、彼自身が中国共産党の監視対象になっており、ことあるごとに中国共産党の公安警察によって「ご飯会」の名目で事情聴取を受けていました。そして、中国共産党関連の祝日といった「センシティブな日」には、「旅行」の名目で強制的に北京から地方都市へと連行されました。

 しかし、今では経費の処理が厳しくなり、公安警察が任務を遂行した後に数日間遊ぶこともできなくなったといいます。出張は2〜3日で切り上げ、宿泊は上司の許可が必要で、報告書も細かく記載しなければならないとのことです。

 これらの細かな変化は、地方政府の財政が逼迫していることを如実に物語っています。これまで土地売却と不動産ブームによって潤っていた地方財政は、ここ数年で深刻な財政難に陥っています。にもかかわらず、中央政府からの支援は限られており、地方財政の赤字は今や全国的な問題となっています。

北京の街角の異変

 最近「X」で拡散された映像は、北京の繁華街「世貿天階(シー・マオ・ティエン・ジエ)」の異様な静けさを捉えています。画面に映るのは、ほとんどシャッターを下ろしたままの商店街で、一階から三階まで、かつては人波にあふれていた通路も、今はほとんど人影がありません。

 Xに投稿された別の動画では、北京市内でラーメン店を営む張さんが、厳しい現状を語っています。張さんによれば、この2年間で北京では飲食店の閉店が相次ぎ、貸し出しや売却に出される店舗が急増しているといいます。今年に入ってからは、全国各地から失業者が北京に流入し、飲食店を新たに開業する人も増えましたが、「開いては潰れる」の繰り返しだと述べました。

 消費者の購買意欲が戻らず、経済構造の調整も進まず、打開策となる新たな政策の効果が見えない中、北京の街は、目に見える速さで、静かに衰退へと向かっているのかもしれません。

 社会に広がる不安、企業の疲弊、政府の無力感。こうしたさまざまな要素が積み重なり、北京、さらには中国全体を覆う、より深刻な危機へと発展しつつあります。

(翻訳・唐木 衛)