米トランプ大統領はこのほど、中国からの輸入品に対し145%の追加関税を課すと発表しました。これを受けて中国当局も対抗措置を取り、小麦、トウモロコシ、ソルガム(高きび)、大豆、豚肉などの農産物を含む一部の米国製品に対して、10%から15%の関税を上乗せすると発表しました。

 また、中国当局は4月4日、既存の関税に加え、すべてのアメリカ製品に対して追加で34%の関税を課すと発表しました。この結果、アメリカ産大豆には合計で125%もの高関税が課されることとなりました。

 こうした中国当局の一連の関税引き上げ措置により、国内の養殖業者にかかる経営負担が急増しています。特に、飼料の主原料である大豆ミールの価格が上昇傾向にあり、養殖業者の間では飼料コストの急騰への懸念が広がっています。一般消費者の間でも、肉類をはじめとする食品価格の上昇を不安視する声が高まっています。

飼料コストが急騰の可能性 養殖業者「もう耐えられない」と悲鳴

 中国政府の統計によると、昨年、中国がアメリカから輸入した農産物の総額は246億ドル(約3.5兆円)に達しました。業界関係者は、今回の追加関税措置により、中国国内の飼料および養殖業界に甚大な衝撃が及んでいると指摘しています。

 四川省で養豚業を営む孫軍さんは4月22日、ラジオ・フリー・アジアの取材に対し、次のように語りました。「長年にわたり輸入農作物に依存してきた大国として、中国がアメリカ産農産物に関税を課す措置は、すでに基層の養殖業者に確実な影響が出ている。大豆やトウモロコシは、政府がどこから輸入するかを決めるが、私たち一般市民には選択の余地がない。私は現在、毎月2~3トンの豚用飼料を購入している。子豚には高品質の飼料を、大きな豚には一般的な飼料を使用している。飼料代は月に1万3000~4000元(約25万6000円から27万6000円)ほどかかっている。飼料の主成分は大豆とトウモロコシであり、これらの価格が上昇すれば、養殖コストが直接押し上げられる。100斤(50キログラム)の飼料には、大豆ミールが20斤(10キログラム)、トウモロコシが35斤(約17.5キログラム)、それに小麦などが含まれている」

 業界関係者によると、大豆ミールは中国における飼料用たんぱく質の主要供給源であり、肉類生産チェーンにおいて重要な役割を担っています。中国の大豆需要は長年にわたり輸入に依存しており、その依存度は8割を超えています。2024年だけでも中国は1億トン以上の大豆を輸入しており、過去最高を記録しました。アメリカは世界最大級の大豆輸出国であり、昨年中国に輸出された農産物246億ドルのうち、大豆が5割以上を占めていました。現在、アメリカからの大豆輸入量が急減したことで、大豆ミール価格はすでに上昇し始めています。

 山東省臨沂市(りんぎし)の住民、盧さん(女子)も、飼料価格の上昇が肉類価格に波及していると語りました。彼女はラジオ・フリー・アジアの取材に対し、次のように述べました。「養殖業や畜産業はもともとコストが高いが、さらに経費が増加すれば、肉の値段が高すぎて誰も買わなくなる。肉の価格はすでに半月以上にわたって上昇し続けている。確実に値上がりする。追加された関税の負担は最終的に消費者に転嫁される」

 かつて農産物価格局に勤務していた山東省青島市の李強さんも、ラジオ・フリー・アジアの取材に対し、「中国本土で必要とされる食糧のうち、25%は輸入に依存しており、その大部分はアメリカからのものである。主に小麦と大豆である」と語りました。

 李さんはまた、大豆は主食ではないものの、食用油の原料や飼料用の大豆ミールに欠かせない作物であると説明しました。「大豆の最も重要な用途は油を搾ることである。アメリカ産の大豆は中国産よりも安く、しかも油の取れる量も多い」と述べています。

米中関税戦争が激化 中国が南米からの大豆調達を加速

 中国は長年にわたり、アメリカ産大豆の最大の輸入国でした。2024年には、アメリカから中国への大豆輸出総額が127.6億ドル(約1.8兆円)に達しました。しかし、関税戦争の激化に伴い、アメリカの農家は徐々に中国市場を失いつつあります。一方で、南米諸国、特にブラジルがその空白を急速に埋めつつあります。報道によれば、この10年間、中国はブラジルの港湾施設や鉄道インフラへの巨額投資を進め、大豆の安定供給と持続可能な調達体制の構築を図ってきたといいます。

 中国税関が最近発表した最新データによると、今年第1四半期における中国の大豆輸入総量は1700万トンでした。このうち、アメリカからの輸入は1160万トンで全体の約68%を占め、前年同期比で62%の増加となりました。一方、ブラジルからの輸入は450万トンで、全体の約26.3%を占めています。

 アメリカ産大豆の第1四半期における輸入量が大幅に増加した背景について、業界関係者は「トランプ大統領が再びホワイトハウスに戻れば、再度関税戦争が起きる可能性がある」との懸念から、中国の買い手がアメリカ産商品の先買いに動いたためだと指摘しています。
しかし、最近の米中関税対立の激化に加え、ブラジルで記録的な大豆豊作が見込まれていることから、専門家の間では「今年第2四半期には、ブラジルが中国市場で再び主導権を握る」との見方が広がっています。

 また、中国当局が今年4月にアメリカ産大豆に対して125%の関税を課した結果、アメリカ産大豆の到着価格は1トンあたり1026ドル(約15万円)に急騰しました。これは、ブラジル産大豆のおよそ580ドル(約8.3万円)という価格に比べて大幅に高い水準です。この大きな価格差を受け、中国のバイヤーは急速にブラジル産大豆の購入を拡大しており、ブラジルの大豆輸出量はこのところ大きく増加しています。

中国、米国産豚肉1.2万トンの注文をキャンセル

 中国は世界最大の肉類消費市場であり、2021年の肉類消費総量は約1億トンに達し、世界全体の27%を占めました。

 2022年7月、コンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニーは、中国の消費者を対象に肉類消費に関する調査を実施しました。その結果、中国人の食生活において肉類は主流であり、約6割の人が肉を好み、肉なしでは満足できないと感じていることが分かりました。中でも豚肉は中国人にとって最も人気の高い肉種であり、豚肉の購入頻度は欧米諸国と比べても圧倒的に高い水準にあります。豚肉は昼食や夕食といった食事だけでなく、スナックや副菜など幅広い用途に利用されており、調査では約6割の中国人が週に3~5回以上豚肉を食べていると回答しました。

 しかし、ウォール・ストリート・ジャーナル紙が4月24日に報じたところによると、アメリカ合衆国農務省(USDA)が発表した4月17日までの1週間のデータで、中国がアメリカ産豚肉の購入契約を1.2万トンも削減したことが明らかになりました。その結果、当該週のアメリカ産豚肉の対中総販売量はわずか5800トンにとどまり、前週比で72%もの急減となりました。

 中国がアメリカからの豚肉輸入を大幅に減らした今、果たして他国からの輸入によってその不足分を補うことができるのかについては、現時点では明らかになっていません。

(翻訳・藍彧)