2019年、中国のSNS「微信(ウィーチャット)」上である広告が突如として拡散され、大きな話題を呼びました。その内容は、北京の解放軍総医院(301医院)が先端医療技術を用いて、中国共産党の高官らの寿命を150歳まで延ばす計画を進めているというものでした。
「981首長健康プロジェクト」と名付けられたこの広告は、すぐに当局の手で削除されましたが、ネットユーザーの間でキャプチャ画像が拡散され、波紋を広げました。
なぜ、中国共産党の高官だけが特権的な医療を受けられるのでしょうか。そして、特権の陰で犠牲となっているのは、一体誰なのでしょうか。
981首長健康プロジェクト
問題となった「981首長健康プロジェクト」は、実は突如現れた新たなプロジェクトではなく、その前身は、中国共産党政権の成立後に始まった共産党高官向けの特別な医療保健制度に遡ることができます。数十年にわたって、この特殊な制度は中共高官の健康と長寿を目的として、秘密裏に運用されてきました。
「981首長健康プロジェクト」の広告によれば、2008年時点で中共高官らの平均寿命はすでに88歳に達しており、アメリカやイギリスといった先進国の指導者と比べても非常に長寿でした。「981首長健康プロジェクト」は中共高官の寿命をさらに延長するために計画されたもので、「150歳長寿プロジェクト」もその中に含まれています。
資料によると、「981首長健康プロジェクト」は2005年から正式に始動しました。301医院や軍事医学科学院をはじめとする最先端の国家医療機関が参画し、200名以上の専門家からなる統合医療チームが組織されているとのことです。
中共高官「長寿の秘密」
中国共産党の高官らは、一般の中国人と比べて極めて長寿であることが知られています。毛沢東は83歳、周恩来は78歳、軍総司令官を務めた朱徳は90歳まで生きました。当時の中国人の平均寿命はおよそ65歳だったため、これは「奇跡」とも言える長さでした。
近年では、長寿化の傾向がますます顕著となっています。鄧小平は93歳、国務院副総理を務めた万里は99歳、元宣伝部長の鄧力群は100歳を超え、元鉄道部長の呂正操(りょせいそう)らに至っては104歳を超えました。
香港メディアの評論によれば、こうした長寿は決して「健康法」や「良好な生活習慣」の賜物ではなく、実際には「コストを度外視した国家医療資源の集中投入」によるものであるとされています。
香港の雑誌『動向』は2008年と2014年に、引退した中共高官に対する国家の医療関係支出について数多くの報道をしました。それによると、2014年当時、退職した高官らの医療および生活費に当てられた国家予算は、年間で675億元、日本円でおよそ1兆3千億円にも達していました。
2015年、当時101歳だった元中央軍事委員会副主席の張震が亡くなった際、香港メディア『東網』は、「彼の本当の健康法は『元高官という地位』だった」と皮肉を交えて報じました。
しかし、人間の体は精密機械のようなもので、年を取れば内臓や体の節々(ふしぶし)が衰え、劣化していきます。それでもなお、中共高官が並外れた長寿を保ち続けている背景には、恐ろしい秘密が隠されているのです。
「長寿の秘訣」ー臓器移植
米国の研究機関「人口問題研究所(PRI)」の所長であり、中国の人口問題を長年にわたって研究してきたスティーブン・モッシャー氏は、かつてニューヨーク・ポスト紙に寄稿した記事の中で、中共高官らが若者の血液を輸血する方法で若さを保っていたと記しています。そして、輸血による健康法は、1960年代から行われていたとのことです。
医学が進歩し、1980年代になると、新たな「延命措置」として臓器移植が行われるようになりました。その頃から、中国共産党が死刑囚の臓器を利用したり、臓器摘出目的で死刑を行ったりするという指摘がされるようになりました。
1995年、障害を持つ20歳の若者・聶樹斌(じょう・じゅひん)さんが強姦殺人事件の実行犯として拘束され、異常な速さで死刑を執行されました。当時、中共高官だった章含之(しょう・がんし)は臓器移植手術を受けており、タイミングが一致したため、様々な憶測を呼んでいました。
章含之の娘であり、ジャーナリストの洪晃(こう・こう)氏は、臓器移植が聶樹斌と無関係であると否定しました。しかし、洪晃氏は「私たちはその臓器がどこから来たのか、知りたくなかった。恐ろしいことが起きていたかもしれないから」と語っています。
臓器はどこから?語られぬ犠牲者の声
「981首長健康プロジェクト」のプロモーションによると、中共高官らの平均寿命は2000年代に入ってから飛躍的に伸びました。2000年時点では、中共高官らの平均寿命はアメリカの政府高官の寿命を2〜3年上回る程度でした。しかし、2010年頃には、中共高官の平均寿命がアメリカより10年以上も伸びていました。
この不自然な寿命の伸びは、ある事実とぴったり一致しています。それは、1999年以降に始まった法輪功学習者への大規模な迫害、そして強制的な臓器摘出です。
国際的な調査では、1999年以降、数多くの法輪功学習者が理由もなく拘束され、そのまま消息を絶ったことが確認されています。カナダの元国務大臣デービッド・キルガー氏と人権派弁護士デービッド・マタス氏は共同で報告書を発表し、中国共産党が法輪功学習者から臓器を強制的に摘出するという、国家ぐるみの人権侵害を行っていると指摘しました。
米国の中国問題専門家イーサン・ガットマン氏は、少なくとも6万4千人の法輪功学習者が強制臓器摘出の犠牲になったと推定しています。さらに『アメリカ生命倫理学ジャーナル』や『アメリカ移植学ジャーナル』といった著名な学術誌も、
中国における移植用臓器の出どころが不明瞭であること、そして移植に用いられた臓器の数があまりにも多すぎることを繰り返し疑問視してきました。
2019年には、中国共産党による臓器狩りの実態を暴くため、イギリス・ロンドンにおいて民間団体「中国での臓器移植濫用停止ETAC国際ネットワーク」が「民衆法廷(China Tribunal)」と呼ばれる独立調査機関を設立しました。元検察官ジェフリー・ナイス卿が議長を務め、様々な証拠や証人を検証しました。その結果、中国共産党が法輪功学習者やウイグル人に対して「人道に対する罪」を犯していると判断しました。
判決文では、「中華人民共和国において長期にわたり組織的に行われてきた臓器強制摘出の実態において、法輪功学習者は確かに臓器提供源の一つであり、そして非常に高い確率で『主要な供給源』である」と明記されています。そして、中国共産党は今日も人権侵害行為を続けていると結論づけました。
未だ続く人権侵害
「981首長健康プロジェクト」は、表向きには中共高官らの寿命を延長する高度な医療プロジェクトとされていますが、その実態は、一部の特権階級が国家資源を独占する略奪システムに他なりません。
さらに、この医療体制の背後では、何の罪もない一般市民が命を奪われ、生きたまま臓器を摘出されるという、おぞましい人権侵害が続いていると指摘されています。
人類が長い歴史の中で築いてきた道徳と倫理を根底から踏みにじる行為が、私たちのすぐ隣の国で、今日も続いているのです。
(翻訳・唐木 衛)