2024年以降、中国では賃貸住宅の需要が急速に縮小しています。北京や上海といった一線都市の家賃は、すでに2015年前後の水準にまで下落し、広州や天津などの二線・三線都市では、2010年頃の価格帯に後戻りしています。家賃相場の下落は、不動産市場の冷え込みだけでは語れない、中国経済の深層に横たわる危機の表れとなっています。

 家が余り、人が消える——。賃貸市場の失速は、かつて世界の成長エンジンと呼ばれた中国経済の構造的疲弊を、この上なく鮮明に映し出しています。

需給バランス崩壊

 シンクタンク「中国指数研究院」のデータによると、2024年1月から11月にかけて、中国の主要50都市の住宅平均賃料は、累計で2.72%下落しました。なかでも、二線都市の下落幅が最も大きく、平均で3.56%の下落となっています。一線都市と三・四線都市では下落幅がやや緩やかで、いずれも2.82%でした。これらの数字は、住宅市場において賃貸住宅の需要が急激に縮小していることを明確に示しています。その背景には、若年層や流動人口の大幅な減少があると指摘されています。

 たとえば、深圳市の商業エリア「福田中央ビジネス区」にある3LDKのマンションは、2024年初めには月額1万6,000元(約31万円)で貸し出されていましたが、2025年初めには1万元(約20万円)にまで下落し、下げ幅は約38%となりました。上海の南匯新城鎮(なんわいしんじょうちん)では、賃料が1平米あたり40.26元(約785円)から34.4元(約670円)に下落し、下落率は15%に達しています。

 北京市内の富力城(ふりきじょう)にある2LDKの家賃は、2024年には1万2,000元(約23.5万円)から9,500元(約18.5万円)に下落しました。三環路(さんかんろ)内の50平米のワンルームでは、2021年の募集価格が7,200元(約14万円)だったのに対し、2024年7月には6,000元(約12万円)にまで下がっています。しかし、それでも借り手は見つからないとのことです。

 大手不動産プラットフォーム「58安居客」のデータによると、2025年1月の北京における賃貸物件の成約件数は前月より明らかに減少し、物件の掲載から成約に至るまでの平均日数は8.8日延びたということです。これは単なる価格の問題ではなく、根本的に需要不足が深刻化していることを示しています。

 注目すべきなのは、北京市における若年層の賃貸需要が大きく減少している点です。特に25歳から35歳の年齢層の減少が目立っています。2024年、北京市の外来常住人口は前年比で21%減少した一方、賃貸用物件の供給量は43%も増加しています。つまり、借り手が減少する一方で、物件の供給は増えており、市場では供給過剰の状態となっています。結果として家賃はさらなる下落に追い込まれています。

 さらに、北京市内の古い団地でも空室が目立つようになっています。2024年12月には、北京市内の古い団地の3割以上で、過去3カ月の間、一度も内見者が訪れていないという状況が関係者によって明らかにされました。

 このような状況からわかるのは、中国の不動産市場の低迷は、単なる価格の問題にとどまらず、経済全体の停滞と労働人口の流出による、需給バランスの崩壊が根底にあるということです。

商業用不動産も大打撃

 商業用不動産の賃貸市場も深刻な打撃を受けています。最新のデータによると、2024年末時点で、北京市と上海市のオフィスビルの空室率はすでに20%を超えています。さらに、2025年には、深圳の高級オフィスビルの空室率が45%を突破する可能性があるとされています。

 この傾向は、二線都市にも広がっています。たとえば、湖北省の武漢市では、グレードAに分類される高級オフィスビルの空室率が33%に達しました。湖南省の長沙市では37.1%、広西チワン族自治区の南寧市では39.1%、浙江省杭州市でも26%という高水準となっています。

 このような価格の急落は、中国全土でオフィスに対する需要が大幅に減少していることを浮き彫りにしています。とくに、コロナ禍以降、企業の働き方が変化し、オフィススペースの需要が根本から見直されるようになったことが背景にあると考えられています。2024年第4四半期には、主要都市の高級オフィスビルの賃料が軒並み下落しました。

 飲食業や小売業でも業績不振が続き、不景気を増幅させています。2024年には、中国国内の飲食業の倒産件数は300万件に達し、倒産率は50%を超えました。業界関係者によると、かつて平均500日とされていた飲食店の営業寿命は、現在わずか360日にまで短縮しています。新規開店よりも閉店のスピードがはるかに早いというのが現実です。

 北京市内のある食器回収業者の社長は、「2024年は、ひと月あたり約200店舗の閉店に携わった」と語りました。これは前年と比べて約270%の増加です。

 小売業界では、2024年上半期だけで、少なくとも6882の店舗が閉店しました。その中には、小売大手のウォルマートや永輝超市、大潤発(ダーユンファ)、盒馬(フーマー)のほか、瑞幸(ラッキン)コーヒーや蜜雪氷城(ミーシュエ)などの有名カフェ・飲料チェーンも含まれています。

就業市場が直面する困難

 失業率の上昇、工場の閉鎖、不動産市場の崩壊といった複合的な要因が重なり、中国経済はこれまでにないほどの苦境に追い込まれています。大学を卒業したばかりの若者たちの多くが定職に就けず、2024年には新卒者のおよそ半数が就職先を見つけられなかったと報告されています。

 同時に、2億人とも言われる農民工の多くは、依然として安定した住居を持っておらず、工事現場や橋の下、コンテナハウスなどの仮設住居での生活を余儀なくされています。

 中国政府は「保障性住宅」と呼ばれる低所得者向け住宅の供給を推進しており、2024年には全国で172万戸の保障性住宅が新たに建設されました。しかし、こうした施策は不動産市場の回復につながるどころか、かえって賃貸市場の供給過剰を招き、住宅の空室率をさらに悪化させているとの指摘もあります。

 中国経済の低迷を加速させている重要な要因として指摘されているのが、人口問題です。出生率の低下と急速な高齢化が同時に進行する中で、中国社会は深刻な人口減少局面に入りつつあります。特に、都市と農村の中間に位置する「都市近郊地域」では「空洞化」が進み、若年層の流出が顕著となっています。このような状況は、住宅需要の縮小に直結し、賃貸市場の活力を大きく奪っています。

 新型コロナウイルスの影響も、社会の見えないところで深刻なダメージを与え続けています。中国共産党は感染症による死者数の実態を公表していませんが、全国的に火葬場の拡張工事が相次ぎ、葬祭業が活況を呈していることから、多くの人々が亡くなっている可能性が指摘されています。こうした死亡数の増加も、住宅需要の低迷に大きな影響を及ぼしていると見られています。

 このように、中国経済の苦境は単なる不動産不況にとどまりません。失業者の増加、人口の急減、実体経済の崩壊といった多重の要因が同時に進行しており、中国経済は今、かつてない深刻な衰退局面へと突入しつつあります。

(翻訳・唐木 衛)