「中国色」隠すマーケティングでヒット

 アメリカメディアの報道によると、中国の人気フルーツティーブランド「喜茶(HEYTEA)」は、2025年のバレンタインデーにバージニア州タイソンズ(Tysons)に新店舗をオープンしました。タイソンズは、アメリカの首都ワシントンD.C.からわずか20kmほどの距離に位置するバージニア州北東部の商業エリアであり、首都圏の住民にとって主要なショッピングと娯楽の拠点となっています。

 「HEYTEA」は2012年に広東省江門市で誕生し、現在では4,000店舗以上を展開しています。特に2023年から2024年にかけて海外進出を本格化させ、アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、マレーシア、韓国などに続々と出店しました。

 また、2024年には、一部の国で2号店、3号店をオープンするなど、急拡大を続けています。そして、2025年にはその勢いをさらに加速させ、大阪で初出店するとともに、アメリカ・バージニア州タイソンズに新店舗をオープンしました。

 バージニア州在住のレイモンド・フォン(Raymond Fong)さんは、「HEYTEA」タイソンズ店の開業3日目に足を運び、現地での人気ぶりを目の当たりにしました。彼は、「友人は朝9時から並んでいた。私は9時20分に到着したが、長い待ち時間を予想して折りたたみ式の椅子を持参した。結局、11時に正式にオープンするまで待つことになった」と話しています。

 レイモンドさんが注文したドリンクは、税込価格は7.88ドル(約1,200円)のフルーツティーでした。多くの人にとって、アメリカの食品は一般的に甘すぎると感じられていますが、「HEYTEA」についてレイモンドさんは「甘さ控えめでちょうどいい。珍しく甘すぎない飲み物だ」と評価しました。

中国外食ブランドに「海外進出ブーム」

 「HEYTEA」と同様に、中国の外食ブランドは次々と海外市場に進出し、「海外進出ブーム」を巻き起こしています。

 河南省鄭州市発祥のアイスクリームとティーを融合させたブランド「蜜雪冰城(ミーシュエ・ビンチェン)」も、積極的に海外で新店舗を開拓しています。2022年から2023年にかけて、マレーシア、シンガポール、韓国、日本、オーストラリアなどで次々と出店し、特にベトナム市場では大きな成功を収めています。現在では海外11か国に展開し、そのうち海外の店舗数は7,000店舗に達しているとされています。

 さらに、2020年に財務スキャンダルで海外進出計画が頓挫した「ラッキンコーヒー(Luckin Coffee)」も、再び海外市場開拓を加速させています。2023年3月、瑞幸珈琲は海外進出の第一歩としてシンガポール市場を選択し、現在ではシンガポール国内に45店舗を展開しています。2024年末には香港に5店舗をオープンし、さらに2025年第1四半期にはマレーシアで1号店を開業する予定だとしています。

 中国の大手火鍋チェーン「海底撈(ハイディラオ)」は、2012年という早い段階から海外市場に進出しており、現在では世界に1,000店舗を展開するグローバルブランドとなっています。2024年5月、海底撈はアメリカ・NASDAQに上場し、同年11月には、海外に展開する121店舗が、初めて黒字化したと発表しました。

 中国の飲食業の急速な海外展開に対し、中国国内メディアは2023年を「飲食ブランドの海外進出元年」と位置付け、そして2024年を「海外進出加速の年」と位置づけました。

 アメリカの国際コンサルティング企業フロスト&サリバン(Frost & Sullivan)の予測によると、2026年には海外における中国系飲食産業の市場規模は4,098億ドル(約61兆円)に達する見込みとのことです。

海外進出の裏にあるビジネス戦略

 ニューヨークの投資家エリック・ウォン(Eric Wong)氏は、中国の「HEYTEA」のような企業が海外進出を加速させる理由について、アメリカのメディア「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」の取材に応じました。エリック・ウォン氏は「国内市場の成長が鈍化し、競争が激化しているため、海外市場を開拓しているのだ。 また、中国企業は海外市場においてコスト面で優位性を持っており、現地の競争相手より運営コストを低く抑えることができるのも、海外展開を進める理由の一つとなっている」と指摘しました。

 北京のマクロ経済研究者・姜力(ジャン・リー)氏は、外食産業の海外進出は政治的な要因に影響されにくく、リスクが比較的低いと分析しています。

 「飲食業は政治的に敏感な分野ではない。欧米で店舗を開く場合、確かにコストは高くなるが、それでも利益を出すことができる。コストが高い分、参入障壁も高くなり、その結果、利益率も高くなる。ただし、市場の規模はそれほど大きくない。なぜなら、主なターゲットは華人市場だから。」

 さらに、姜力氏は、近年の中国企業の海外進出は、以前と比べてより「賢明」になっていると指摘します。

 「国有企業であれ民間企業であれ、またテクノロジー企業であれ消費財企業であれ、最近の中国企業の海外進出には共通した特徴がある。すなわち、進出のやり方が大きく進化したことだ。 以前は、現地の法律に適応できず失敗することがよくあったが、現在は法規制への対応が進み、市場調査やブランディング、投資戦略もより熟達したものとなっている。」

ブランド国際化、消える「Made in China」

 アメリカ在住で、中国企業のIPO(新規株式公開)や成長動向を長年観察しているエリック・ウォン氏は、最近の中国企業の海外戦略について、もう一つの特徴を指摘しています。それは、「中国企業であることを前面に出さない」という手法です。

 例えば、TEMUは2022年9月にアメリカ市場へ参入し、投資機関Earnest Analyticsのデータによると、アメリカの約18%の家庭がTEMUで商品を購入したことがあるとされています。

 2023年のTEMUのアメリカ市場での売上は180億ドル(約2.7兆円)に達し、2024年上半期にはすでに200億ドル(約3兆円)に達しました。2023年末時点で、TEMUは世界48か国・地域に展開しており、大きな影響力を持っています。

 エリック・ウォン氏は、「多くの中国企業は、自社を中国企業として認識されることを避けたがっている。なぜなら、中国企業というだけで様々な問題に直面する可能性があるからだ。 そのため、一部の中国企業は本社を中国国外に移転し、より国際的な社名を採用し、現地の人材を雇用している。そうすることで、あたかも中国企業でないかのように振る舞っている。」

(翻訳・唐木 衛)