中国メディアの報道によると、北京テレビが深刻な経営難に陥り、生活チャンネルやドキュメンタリーチャンネル、青少年向けチャンネルの放送が近日中に終了するとのことです。この影響で、約1,000人のスタッフが職を失う可能性が高まっています。

 かつて放送業界は、「鉄飯碗(ティエファンワン)」と呼ばれる安定した職業の象徴であり、多くの中国人が憧れる職業のひとつでした。中国共産党にとってメディアは重要なプロパガンダツールであり、政府の手厚い支援を受けながら発展を遂げてきました。特に1990年代から2000年代にかけて、人気キャスターや記者は映画スターやスポーツ選手に匹敵するほどの影響力を持っていました。

 しかし、こうした現象はテレビ業界の特殊な運営体制に大きく依存するものでした。中国の放送業界は、政府からの巨額の財政支援を受けられるだけでなく、莫大な広告収入を得ることができます。たとえば、中国中央テレビ(CCTV)のゴールデンタイムの広告収入は、年間数百億円規模に達していると言われています。そのため、テレビ局は新卒の大学生にとって「夢の職場」であり、若者たちがスターを目指す舞台でもありました。

 しかし、近年の経済不況の影響を受けて、放送業界の状況は一変しました。広告収入の激減により、テレビ局の経営は苦境に立たされ、かつての栄光は見る影もありません。地方テレビ局では給与の未払い、チャンネルの統廃合、賃金の引き下げ、そしてリストラが相次いでいます。

 中国国家広播電視総局(NRTA)の最新データによると、2024年3月時点で144のテレビチャンネルと、52のラジオ周波数が廃止されており、この流れは今後も加速するとみられています。中国メディアの報道によれば、新型コロナウイルスの流行前までは主に都市レベルのテレビ局がチャンネルの削減を行っていましたが、2020年以降は省レベルのテレビ局でもチャンネルの統廃合が進んでいます。

 海外の中国語メディア「大紀元」は昨年8月、中国国内のブログを引用し、中国では県レベルのテレビ局がかつてない危機に直面し、大規模な閉鎖が発生する可能性があると報じました。2023年末時点で、中国国内ではすでに約700の県レベルのテレビ局が閉鎖または放送停止となっており、さらに全国で約2,000の県レベルのテレビ局が存続の危機に瀕しているとされています。

 中国の官営タブロイド紙「新京報」のメディア研究院はこのほど、「テレビ局の現状はどれほど厳しいのか?」という記事を発表しました。それによると、2024年8月10日には、1990年代に設立された深圳テレビの公共チャンネルとエンターテイメントチャンネルが放送終了を発表しました。これに先立ち、北京の大手テレビ局は複数のチャンネルの放送停止を発表し、天津の大手テレビ局も一度に6つのチャンネルを閉鎖しました。

 また、多くのテレビ局ではチャンネルの統廃合が進んでいます。例えば、浙江省のテレビ局は映画・エンターテインメントチャンネルと教育・科学チャンネルを統合しました。上海の大手テレビ局もエンタメチャンネルとファッションチャンネルを統合し、子ども向けチャンネルとアニメチャンネルを統合しました。

 中国共産党にとって、テレビ局は長年にわたり重要なプロパガンダ手段として機能してきました。しかし近年、その影響力は急速に低下し、業界全体が深刻な苦境に陥っています。その主な要因は、「視聴率の大幅な低下」と「収益性の急速な悪化」という二つに集約されます。

 中国のシンクタンク「前瞻産業研究院」が発表した《2024年中国スマートテレビの新たなインタラクティブトレンドに関する報告》によると、中国では2016年以降、テレビの平均起動率(電源を入れる割合)が急激に低下しており、かつて70%だった起動率が2022年には30%未満にまで落ち込みました。視聴率が低迷すれば、当然ながらテレビ局の広告収入も減少し、業界全体の給与水準にも影響を与えています。

 中国国家広播電視総局が発表した報告書《全国広播電視業界統計報告》によると、2013年には1119億元(約2.4兆円)だった全国のテレビ広告収入は、2023年には583.6億元(約1.25兆円)とおよそ半額にまで落ち込み、2010年当時の797億元(約1.7兆円)をも下回る水準になっています。

 では、なぜ視聴率がこれほどまでに下がったのでしょうか。中国共産党内のメディア研究機関はその原因として、テレビ業界の人材の老朽化を指摘しています。テレビ業界の黄金期を築いた人材の多くは1970年代生まれですが、彼らはインターネットプラットフォームの革新に適応できておらず、技術や制作スタイルが時代遅れになっています。そのため、彼らが手掛ける番組は新世代の視聴者を引きつけることができず、ショート動画や新興メディアとの競争に敗れています。

 現在の経済状況も、テレビ局の経営を悪化させる一因となっています。中国経済は深刻な低迷に直面しており、政府の財政赤字も拡大しています。すでに公務員の給与すら支払えない状況が発生しており、多くの企業が経費削減を迫られています。企業がテレビ広告に多額の予算を投じる余裕はなく、広告主の撤退が相次いでいます。

 北京市の財政状況も厳しさを増しています。2024年の北京市一般公共予算収入は6,372.7億元(約13.7兆円)で、前年比3.1%の増加にとどまりました。一方、支出は8,396.5億元(約18兆円)に達し、5.3%増加しました。この結果、財政赤字がさらに拡大していることが明らかになりました。

 公式データによると、北京市の歳入の大部分は税収によるもので、罰金などの割合は比較的低い状態です。しかし、それでも北京市の財政状況は悪化しており、テレビ局を維持することすら困難になっています。

 米国メディア「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」の報道によると、中国の地方政府は深刻な負債問題に直面しており、空き家はすでに9,000万戸に達しているとのことです。これは1世帯3人と仮定すると、ブラジルの総人口に匹敵する規模です。主要都市の住宅価格が17カ月連続で下落するなか、不動産の資産価値は月を追うごとに減少し続けています。

 不動産市場の崩壊は、地方政府の財政に直接的な影響を及ぼしています。地方政府はこれまで、土地売却を主要な財源としてきましたが、地価の下落と開発の停滞により、その収入源が枯渇しています。WSJの報道では、中国の地方政府の累積債務は数十兆円規模に達しているとされています。

 コンサルティング会社のロジウム・グループの分析では、2023年に評価した約2,900の地方政府の融資プラットフォームのうち、短期債務と利息の支払いに必要な資金を確保できていたのはわずか20%に過ぎませんでした。

 中国の経済学者によると、中国の地方政府が企業に支払うべき未払金の総額は12兆元(約257兆円)に達しています。昨年10月、中国財政部長の藍佛安(らん・ふつあん)氏は、政府が1.2兆元(約25.7兆円)を地方政府に配分し、企業への未払い債務の返済を支援すると発表しました。しかし、この額は総額のわずか10%にすぎず、実際に企業に支払われるかどうかも不透明な状況です。地方政府が債務を支払わなければ、企業の資金繰りはさらに悪化し、当然のことながら広告費を捻出する余裕などありません。

 テレビ業界の不調は中国共産党の最高指導部にも影響を及ぼしています。現在、党のプロパガンダ部門を統括している蔡奇(さい・き)政治局常務委員は、党内での影響力を低下させつつあります。1月初めに開催された全国宣伝部長会議で、蔡奇氏は「中国経済の明るい未来を引き続き強調する」と表明しました。しかし、北京市のテレビ局の厳しい経営状況は、蔡奇氏が主導する宣伝部門の機能不全を浮き彫りにし、党内での評価を低下させる要因となっています。

 1月9日に開催された政治局常務委員会では、蔡奇氏が主導する中央書記処の活動に対して批判が寄せられました。さらに、アメリカのトランプ陣営は、蔡奇氏を米中首脳間の交渉担当者として指名しましたが、これを習近平が拒否したと伝えられています。こうした動きからも、蔡奇氏の立場が厳しくなっていることがうかがえます。

(翻訳・唐木 衛)