預金保険制度

 預金保険制度は、金融機関が破綻した場合に預金者等を保護し、信用秩序を維持することを目的としています。この制度は単なる預金者の保護だけでなく、取り付け騒ぎの防止などシステミック・リスクに対応し、金融システムを保護するためのプルーデンス政策の一環です。通常、政府に支援された機関によって運営されています。

 米国は、世界で初めて正式な預金保険を導入した国であり、その起源は1934年の大恐慌時期の銀行危機にさかのぼります。この業務は連邦預金保険公社によって管理されています。

 日本では、1971年7月1日に預金保険機構が設立されました。利息のつく普通預金や定期預金などは1金融機関につき預金者1人あたり1000万円までとその利息などが保護されます。

 中国は2015年5月1日に預金保険制度を導入し、補償限度額は50万元(約1000万円)に設定されています。この制度は、中国国内の地方商業銀行、農村協同組合銀行、農村信用合作社(がっさくしゃ、地域の協同組合に相当)など、その他の預金取扱銀行・金融機関に適用されます。

 表面上では、中国でも預金保険制度が存在し、中国人が銀行にお金を預けることは安全であるとされています。

 しかし、有名な経済・金融ブロガーで、ハンドルネーム「老蛮(ろうまん)」さんがこのほど、中国の3つの農村商業銀行が破綻するだろうと予測し、中国共産党政権は預金保険制度を発動しないだろうと主張し、すべての農村商業銀行の預金者に対して早めに預金を引き出すよう忠告しています。

 老蛮さんが言ったことは本当に起こるでしょうか?

中国の経済現状

 今年に入って以来、弊社は中国の経済状況に関する多くの報道を行ってきました。これらの報道の見出しを簡単に振り返るだけでも、中国経済の現状を大まかに把握することができるでしょう。

4月7日、経済崩壊の兆しか?中国は60年前に戻るのか
4月17日、中国貴州「初の破産省」、債務のドミノ現象が全国に広がるか
5月4日、中国 一万近くの半導体企業が破綻
6月6日、中国のカフェで失業した「ホワイトカラー」急増中
6月12日、中国 外資系企業の撤退がもたらした社会問題
6月29日、中国の大型スーパーが大量閉店
8月21日、相次いで倒産する中小企業 中国は日本よりも深刻
9月15日、銀行も相次いで破綻か、富裕層も逃げられず
10月10日、中国 5年間で破産した自動車ブランドは40社以上
10月11日、中国各地方政府、巨額の債券発行を開始
10月11日、中国 恒大の経営破綻によって 銀行の「取り付け騒ぎ」が発生
10月26日、中国、不動産が破綻・株式市場が崩壊中
11月8日、恒大破綻が金融界に大打撃、民生銀行が嵐の目に

 明らかに、新型コロナウイルス(中共ウイルス、SARS-CoV-2)ゼロコロナ政策の大打撃を受けた後、中国の経済は雪崩のように崩壊しています。多くの外資系企業が中国から撤退し、大量の中小企業が倒産し、失業率が急上昇し、国民の購買力が急激に低下し、最終的には中国経済の支柱である不動産業界が深刻な債務危機に陥っています。不動産業界の債務危機は、土地財政だけに頼って経営を維持している地方政府の財政危機をも招きました。

中国当局の経済対策

 米国在住の華人エコノミストである程晓農(チェン・シャオノン)博士は、ラジオ・フリー・アジアの最近の記事で、中国の地方政府の債務がすでに80兆元(約1600兆円)に達し、この債務は雪だるまのようにますます大きくなっていると指摘しました。中国当局は銀行に地方債を買わせることで対応しているが、これは地方政府の債務を肩代わりし、銀行を不良債権の泥沼に引きずり込むことに等しいのです。中国の最高指導部は地方政府を救済するために各地方政府に資金を送るよう銀行に指示していますが、地方政府には銀行の融資を返済する能力はほとんどありません。銀行の主要な資金源は預金者の預金であり、地方政府の債務を返済できない場合、預金者は銀行から預金を引き出せなくなります。

 中国の地方政府が現在、財政危機に陥っている状況で、銀行業界の危機を誘発するのでしょうか?

 老蛮さんは11月9日、上海票据交易所の10月31日までの為替手形の手形不渡りリストに関する記事をネット上に投稿しました。その1か月前と比べて、農村商業銀行の手形不渡り件数が5件から9件に増加し、そのうち3行が9月と10月に2回連続手形不渡りしています。その3行はそれぞれ、湖北省の黄石農商銀行、河南省の洛陽農商銀行、寧夏回族自治区の賀蘭農商銀行です。

 老蛮さんは、これらの3つの銀行が破産することは疑いようがないと述べました。なぜなら、中国当局が現在導入しているすべての経済政策は、あらゆる債務の不履行に対して銀行に最終的な責任を強制的に負わせており、銀行はその能力を持っていないため、大規模な破産が確実だからです。そして、農村商業銀行が最初に破産することも確実だとされています。

 農村商業銀行の預金者は、一銭も残さず、速やかに預金を引き出すよう、老蛮さんが勧めています。国内のどの農村商業銀行も信頼できないと述べました。誰かがまだ銀行が破産した場合に50万以内の預金に対して預金保険があると信じている場合、はっきりお伝えましょう、「あなたは永遠に預金保険を得ることはできない。中国体制の特色により、実際に破産を宣言しない限り、あなたはお金を永遠に手に入れられないだろう」と老蛮さんが述べました。

 作家の崔成浩氏は、盛京銀行と煙台恒豊銀行がすぐに破産するだろうと付け加えました。

銀行の金融対策

 昨年、中国有銀行、中国建設銀行、中国工商銀行などの国有銀行が、預金者の銀行カードを一時凍結したことがあり、これにより預金者はお金を預けることはできても引き出すことができない状況が生じました。

 中国工商銀行、中国農業銀行、中国銀行、中国建設銀行、郵貯銀行、招商銀行(しょうしょうぎんこう)、上海浦東発展銀行など、北京の複数の銀行関係者が、銀行カードの1日の取引限度額は、カードを作る際に顧客の個人状況や取引チャンネルに応じて設定していると、中国経済網が2月25日に報じました。

 銀行預金の引き出し難という問題は香港にも広がっています。ここ半年間で深セン市などの地域でも同様な状況が続発しています。

 7月、深セン市の銀行には多くの香港市民が預金を引き出そうと押し寄せました。しかし、その手続きは非常に「煩雑(はんざつ)」、前日までに予約を取らなければならないばかりか、銀行のロビーには大勢の人が長蛇の列を作って待っていました。さらに、一部の銀行では一回に引き出すことができる金額が10万元(約200万円)に制限されていました。

 老蛮さんが農村商業銀行の預金者に預金を急いで引き出すよう呼びかけた同じ日に、米国の学者である李恒青氏は、河北省の滄州(そうしゅう)銀行で発生した取り付け騒ぎの写真を公開し、中国国内で問題を起こした銀行の名前を挙げました。具体的には、遼寧省の平安銀行、雲南省の農業銀行、江蘇省の郵政銀行、浙江省麗水市(れいすいし)の中信銀行、吉林省長春市の華夏銀行、四川省の達州建設銀行、山東省青島市の農業銀行などが、預金を引き出すことができず、引き出し限度額が設定されています。さらに、中信集団傘下の中信信託など11の信託銀行も債務不履行に陥ったと報告されました。

 今年の上半期に、程晓農博士は、不動産業界が中国経済で最初に倒れるドミノであり、2番目は不動産業界と密接な関係にある銀行業界であると述べました。そして、今、中国当局が最も恐れているのは、この2番目のドミノが倒れることです。なぜなら、銀行破綻して、預金者が預金を引き出せなくなれば、経済危機は政治危機に変わる可能性があります。

 経済を救うために預金者の預金を使うことは、中国共産党による中国国民に対する最後の「ニラ刈り(金融的搾取)」かもしれません。その結果、全国民の激しい抵抗や中国共産党の崩壊を招くことに果たしてなるのでしょうか?

(文・黎宜明/翻訳・藍彧)