中国当局は2021年以降、不動産業界に対する金融統制を強化し、バブルを抑制しようとしています。しかし、これにより不動産デベロッパーの資金循環が滞り、未完成物件が増える主な原因の一つともなっています。

 恒大集団(エバーグランデ)が米国で連邦破産法の適用を申請し、碧桂園(カントリーガーデン)が財務危機に直面するなど、中国における「未完成物件」の問題が再び注目を集めています。

 最近では、ドキュメンタリー映画「私は未完性物件に住んでいる」が多くのネットユーザーの注目を集めています。

「私は未完性物件に住んでいる」の視聴者が百万人超

 河南省鄭州市と陝西省西安市を舞台に、未完成物件の所有者たちの苦悩と悲惨な生活を記録したドキュメンタリー『私は未完成物件に住んでいる』が最近注目を浴びています。これは、香港を拠点に衛星放送事業を手がけるフェニックスTV傘下の「フェニックス・ニューメディア(鳳凰網)」が去年に制作したドキュメンタリーです。

 取材対象は、新婚夫婦や一人暮らしの老人、幼い子供を持つ家族など、全員が不動産デベロッパーから物件を引き渡しされず、毎月銀行ローンの返済に追われるという苦境に立たされています。取材に応じた対象者はそれぞれ悲痛な体験を語りました。

 2011年、西安市灞桥区の「易合坊」団地が販売され、デベロッパーは2015年に住宅を引き渡すと約束しました。しかし、2014年にデベロッパーが債務不履行に陥り、建物は未完成物件となりました。コロナの影響により収入が減少し、住宅ローンや賃貸料などの圧力に直面する約300人の住宅所有者が2022年3月、8年間も放置されていた「未完成物件」に自発的に引っ越ししました。

 その中で、2013年5月に家を購入した女性所有者は、当初、子供がまだ幼くて、家族全員で物件を見てから購入を決めたと述べました。彼女は「子供が学校に行く頃には、ちょうど家を引き渡してくれるだろうと思っていたが、数年待っても何の連絡もなく、2016年には未完成物件になってしまった」と語りました。家族の一員である67歳の李竹娥さんは、毎日4、5回も13階分の階段を上り下りしなければならないと訴えました。「水も電気もないし、エレベーターもない。本当に困っている。水や電気、エレベーターがあれば、こんなに疲れる必要はない」

 同じ団地に住む約50歳の男性所有者は、2013年6月に家を購入し、問題があることを知ってから毎晩不眠に陥っていました。その後、直接未完成物件に引っ越しました。彼は、建物内には何もないが、何と言っても自分の家だからと言って、言葉を詰まらせながら、「本当にどうしようもない。今はただ生きることができれば、それが最大の喜びだ」と述べました。

 また、6歳の娘を連れた父親もインタビューに応じました。彼は、無邪気な子供は何も理解しておらず、家の中が砂だらけであることを楽しんでいると述べました。その父親は涙ながらに、「実は私はとても強い人で、めったに泣かない。生活がどれだけ辛くても、自分ならなんとかやっていける。ただ、子供にだけは良い生活環境を提供したいのだ。その事の何がいけないだろう」と言いました。

 このドキュメンタリーは中国国内で放送禁止になりましたが、ユーチューブで公開され、わずか1日で100万回以上の視聴回数を記録し、5000人以上のユーザーからコメントが寄せられました。

 あるネットユーザーが率直に「最も高価な家を購入し、最も多くの嘘を聞き、最もキツイ仕事に就き、最も高価な墓を買い、最も高いローンを返済し、最も高価な医療を受け、最も低い給料をもらい、最も安全でない食品を食べ、最も多くの恩に感謝し、最も多くの幸福を編み出す!!」と述べ、これが今の中国共産党支配下の中国であるとコメントしました。

 「無邪気な女の子が電気の通っていない真っ暗な家で宿題をしたり、電気のない電子ピアノを弾いたりしているのを見て、そして、子供たちを不当に扱わせたと思って泣いている親たちを見て、2人の娘を持つ父親として、私も本当に悲しい気持ちになる」
 「動画を見て、本当に胸が痛む。台湾海峡を隔てているだけなのに、違いがこんなに大きい。実際、多くの中国人は非常に良い人たちで、悪いのは中国政府だ。皆さんが幸せで、世界が平和であることを心から願っている」
 「一つの国の国民が『生活』ではなく『生存』を求めているのは、どれだけ悲しいことだろう」
 「こんな政府の存在は、本当に人類の悲哀だ」
 「中国人が本当に目を覚ますことを心から願う」

 また、「中国国民が立ち上がり、自分たちの生活をより良くするために闘うことを願っている」というコメントは、1000人以上のネットユーザーから「いいね」が付いています。

 中国不動産情報集団(CRIC)研究センターの統計によると、河南省鄭州市だけでも106の問題物件が存在し、これに関連する購入者および住民は60万人を超えています。鄭州市の主要な都市部の総人口は約759万人で、これは約100人中8人が未完成物件を購入したことを意味します。また、2021年末までに鄭州市で成約した新築住宅のうち、2万5249戸が未完成物件であり、これは全体の約3割を占めています。

未解決の未完成物件は他の社会問題を引き起こす

 中国当局は2022年に未完成物件の建設再開を推進しましたが、資金不足などのさまざまな問題により、有効的な解決策を見つけることができず、再び苦境に立たされています。

 ニューヨーク・タイムズ紙は2023年1月、中国当局が不動産デベロッパーの過剰債務の取り締まりや、中国経済の減速の結果、不動産デベロッパーの資金繰りが困難になり、多くの建物が未完成物件となり、そして、住宅購入のために貯金を使い果たした被害者たちは、もはや人生に意味を見出せなくなったと報じました。

 英国のBBCも2023年7月に中国の複数の省・市で、未完成物件の所有者らに取材を行いました。そのうちの一人、河南出身の被害者は、2019年に約120万元(約2400万円)の貯金のほとんどを使って、結婚を控えた息子のために家を購入しました。不動産デベロッパーは元々2年以内で完成し、引き渡すと約束していましたが、工期が何度も延期され、2022年末までには工事がほぼ完全に停止しました。その結果、息子は別のアパートを借りながら、住宅ローンを支払わなければなりませんでした。彼は政府の関係機関に陳情書を提出しましたが、これまでに一切の回答がなかったと語りました。

 中国不動産情報集団が実施したサンプル調査によると、2022年12月末までに、調査対象となった290の未完成プロジェクトのうち、作業を再開したのは62件で、その割合は全体のわずか21%に過ぎず、126件がまだ工事停止中であり、102件が間欠的にまたは小規模に作業を再開しているとのことです。

 新築住宅の販売は不動産企業の主要な資金源の一つですが、2022年12月には中国の上位100の不動産デベロッパーの新築住宅の販売高が前年比30.8%減少しました。中銀国際の試算によると、すべての未完成プロジェクトの修復には1.6兆元(約32兆円)から1.8兆元(約36兆円)が必要とされています。

 これに対し、アメリカのメディアは、中国の不動産業界の問題が銀行にまで波及しつつあると分析しています。

 BBCも、中国の多くの地域で「未完成物件」の所有者が住宅ローンの支払いを拒否していることに経済問題が反映されているとの特集報道を取り上げました。

 日本経済新聞は、「未完成物件」が大量に出現したことで、新築住宅の購入意欲が低下し、中古住宅の購入へ転換する人が増え、これが中国経済の苦境に拍車をかけている可能性があると指摘しました。

(翻訳・藍彧)