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 多くの貿易専門家は、米中貿易戦争が中国政府の大きな重荷になっており、輸出部門にマイナスの影響を与えると予測している。しかし、「より大きな問題」を見過ごしていないだろうか――すなわち、不動産市場における深刻な落ち込みだ。過剰債務とバブルによって拡大を続けていた不動産のマーケットでは、実際に貿易戦争によって悪影響が出始めている。

不動産マーケットに危機が訪れている

 中国の家計資産の3分の2は不動産が占めていると言われているが、金融業界の専門家たちは、最近の不動産価格の上昇はバブルであると考えている。また、不動産開発業者の資金はひっ迫しており、今後数ヶ月にわたってリスクはさらに高まる可能性がある。

 ブルームバーグ(米国大手総合情報サービス会社)は、中国の建設業者が今後12ヵ月間に貸付金の支払い不履行に陥る確率は高いと推定している。

 2019年、中国の建設業者には総額約900億ドルの借入金支払期日が訪れると予想されている。運転資金が少ない多数の建設業者では、借入金を返済することができない状況に陥るだろう。

 ある中国の格付け会社のアナリストは、ブルームバーグとのインタビューで次のように見解を述べた。
「投資家は、多くの負債が発生している企業の財務状態に注意を払う必要があります。それだけでなく、短期借入金額の上昇や資金流動性の悪化にも注目すべきです」

中国政府が抱えるジレンマ

 中国経済は2018年の後半に深刻な経済危機に直面する可能性が高い。国家発展改革委員会(NDRC)の主任である何立峰氏は、ロイター通信社に対し「経済成長、雇用、インフレ、輸出入の目標は努力によって達成できる」「消費、債務、可処分所得の目標達成については大きな努力を要するだろう」と述べた。

 中国政府は、不動産部門の大量の資金調達を制限し、債務の増加を食い止め、経済が危機に直面するのを防ごうとしている。そのために、政府は不動産事業者が利用する資金を枯渇させることを目的とした法律を可決させた。

 サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙(南華早報)は、格付け会社ムーディーズのアナリストによる次のようなコメントを紹介している。
「規制の厳格化に加え、資金調達コストの増加や投資マインドの鈍化が重荷となり、不動産開発のための資金調達は厳しい状況にあります」

 こうした政策は不動産市場に減速をもたらす。中国政府は、不動産会社が過度の負債を抱えないよう、このような政策を実行してきた。しかし米国との貿易戦争によって、中国政府の方針は転換を迫られている。

 貿易戦争はすでに輸出部門に悪影響を及ぼし始めており、輸出関連企業は今後も厳しい時期に直面するだろう。このような状況では、不動産部門に制限をかけて経済の雇用見通しを低下させるのは望ましくない。

 結果として、中国政府は、不動産市場での資金調達の制限を緩め、さらなる債務の増加を見過ごさざるを得なくなる。これは中国政府にとっては難問だ。今後、不動産マーケットのコントロールと国内経済の成長維持とのバランスをどう取るか、重大な決断を迫られるからだ。

 言うまでもなく、こうした状況は米国に大きな利益をもたらす。米国が今後もカードをうまく切れば、中国は要求を飲まざるを得ない状況に追い込まれ、米国は貿易戦争で勝利できる可能性が高まるだろう。

(翻訳・今野 秀樹)