西遊記(北京・頤和園の回廊絵画)(shizhao, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons)

4.佛影現る

 玄奘が那掲羅曷(ナガラハル)国で最も興味を持っていたのは石窟の中の仏影でした。聞くところによれば、ほら穴の中にはお釈迦様の佛影が現れると言われています。当時の社会は社会秩序の乱れから不安定な状態にあった為、盗賊が横行し、山道を歩くことが容易ではなかったので、2,3年の間仏影を見た人はいませんでした。皆はすでに興味を失って赴こうとする者はいなくなりました。玄奘はお供の者たちが制止するのを振り切り、自分ひとりで案内人の後について石窟に向かいました。

 道中やはり山賊に遭遇してしまい、強盗らは、「まさかこの辺りに山賊が出ると聞いたことがないわけじゃあないだろう?」と聞けば、玄奘は落ち着いた様子でこう答えました。「佛影を拝ませていただく為であれば、たとえ猛獣が目の前に現れようとも恐れはしない。ましてお前たちなどたいしたことではない」山賊らはその言葉を聞いてとても感動し玄奘のお供となってついて行くことにしたのでした 。

 彼らはある渓流のそばに石窟があるのを発見しました。玄奘は案内人の導きで歩いて行き、ま東の方向に何度も何度も頭を下げ続けましたが、何も見えませんでした。玄奘は願い通りにならないことで悲しい気持ちになりながらもおそらく自分の前世の罪業があまりに重いため佛影が見えないのだろうと思いました。

 玄奘は敬虔な気持ちで読経し、引き続き何度も何度も拝んでみたところ、ついに石の壁の上にお鉢ほどの大きさの光が現れました。しかし、その光は瞬く間に消え去ってしまいました。玄奘の仏を信じる気持ちはさらに強くなり、佛影が見えるまではここから離れまいと心の中で誓い、額を地に付けたままひれ伏して拝み続けるのをやめませんでした。玄奘はすでに400回以上拝んだであろうという時、石窟の中で突然大きな光明が出現し、お釈迦さまのお姿が岩壁上にはっきりと現れ、お釈迦さまの顔から眩しい光が辺り一面に放たれたのです。さらにはお釈迦さまの前後左右に数多くの菩薩や信者がおられるのをはっきりと見ることができました。

 玄奘はただちに案内人と山賊らを中へ呼び寄せました。彼らが火を持って洞穴に入ると、佛影は消えてしまいました。玄奘は急いで火を消すよう命令し、またも恭しくお釈迦さまの再現を求めました。するとお釈迦さまの佛影が再びお姿を現してくださいました。大勢の中で一人を除いてみんながお釈迦さまの映像を目にすることができました。そこにいた各々が皆感激してやまず次々と額を地に付けてひれ伏しました。しばらくして佛影は徐々に消えていきました。それらの山賊たちは石窟を出るとすぐ武器として持っていた包丁などを手放し、悪事から足を洗い、これからは仏門に帰依することを決心しました。

香港の大嶼島(ランタオとう、中国語では大嶼山)にある仏像(Pixabay CC0 1.0)

5.大勢の僧侶が同じ夢を見る

 玄奘は最初、迦湿弥羅(カシュミーラ)国の都の外にある護瑟迦羅(フシュカラ)寺に宿泊するつもりでした。

 夜、寺にいる僧侶たちは皆が同じ夢を見たと言います。夢の中で神様から彼らにお告げがあり、「夜この寺に宿泊するお客様は唐の国からインドへお経を取りに向かわれるそうです。佛の軌跡をたどって参拝されて途中ここにやって来られます。無数の善神のご加護を得ていらっしゃる方です。その方がいらっしゃるのはあなた達の前世での修行の賜物でしょう。必ず心を込めておもてなしをしなければいけません。けっして怠ってはなりません」僧侶たちは一斉に驚いて目を覚ますと、皆大慌てで起床し読経を始め、夜が明けて目の前の玄奘を目にするといっそう尊敬の気持ちが増したのでした。

6.ガンジス河の遭難

 玄奘一行は阿邪穆佉(アーヤムカ)国へ向かっていました。船に乗ってガンジス河を50キロメートルほど進んだ所ではからずも盗賊に遭遇してしまいました。盗賊たちは皆、突迦神の信者でした。彼らの金銭や所持品を強奪しただけでなく、盗賊たちは女神に捧げるために玄奘を殺害して血祭りにあげようとしました。

 盗賊の頭目は目下の者にまずは祭壇を設えるよう命令し、その後玄奘の両脇を支えて担ぐようにして祭壇に登らせるとすぐに祭祀を行う準備を整えました。玄奘は命乞いをしたり、罵ったりもせず、最初からずっと一言も発しない為、盗賊らは合点がいきませんでした。ただ最後に一言玄奘が要求したことは、「ほんの少しだけ待ってもらえないだろうか。気持ちを落ち着けて彼岸に行けるように心の準備をしたいのだ」ということでした。盗賊は彼の冷静かつ誠意のある態度に心を動かされ、彼の要求に応えました。

 玄奘は座禅して菩薩の法号を心の中で念じていると奇妙なことが起こりました。玄奘は自分の身体が軽くなったのを感じ、元神が身体から離れ、漂い浮かび上がり、一層一層と上昇して行き、菩薩やさまざまな天神を目にすることができました。彼には盗賊らの喧騒など耳に入りませんでした。突然、すべての樹林や天地が暗くなり台風が吹き荒れ、ガンジス河はたちまち大波が沸き上がり、河に浮かんでいた船は呑みこまれて消えてしまいました。盗賊らは非常に驚いて顔色が真っ青になって玄奘のお供の者に尋ねました。「あの人は一体どういう人なのだ?」そこにいた一人が、「彼ははるばる唐の国からお経を求めに来られた高僧でございます。彼を殺せば間違いなく天神の怒りを買う事でしょう」と言いました。

 盗賊たちはその言葉を聞くと次々と地面にひれ伏し、続けざまに懺悔しました。盗賊の一人が玄奘の縄を解くため傍に近づくと玄奘はやや驚いて目を覚まし、「そろそろ時間ですかな?」と聞くと盗賊たちは恐れおののき、すぐに「いいえ、いいえ、我々は絶対にあなた様を殺したりいたしませんのでどうか我々をお許しくださいませ!」とお願いしました。

 玄奘は盗賊たちの懺悔を受け入れ、さらに悪報の報いを受けないようにこれからは悪いことを止めるようにと諭しました。盗賊たちは武器を河に投げ捨てると、強奪した財宝を元の持ち主に返すことにしました。その後、盗賊は玄奘に五戒を授けてもらい、悪から足を洗い、さらに善を行うことを決心したのでした。

観音菩薩(イメージ:zhengjian.org/章翠英)

(つづく)

(文・古風/翻訳・夜香木)

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