安倍晋三元首相とマイケル・ピルズベリー(イメージ:Wikimedia Commons / Hudson Institute / CC BY

 近日、米シンクタンクのハドソン研究所の中国戦略センター責任者マイケル・ピルズベリー氏が、256ページに及ぶ「トランプ政権の対中戦略手引き」をまとめ、7つの分野における米国の対中政策の劇的な変化を詳述した。

 ピルズベリー氏は序言で、「米国の対中政策は、現代において最も重要な戦略問題である。過去数年、米中関係は40年間における最大の変化を見せた。この手引きは2020年7月23日までの対中政策についてまとめたものである。200近くの声明を含む、私と大統領や上級顧問との議論において最も重要だと考えた7つの分野を網羅している。各文書、インタビュー、ツイートにはハイパーリンクを付け加えている」と書かれている。

 トランプ政権はすでに数千ページもの対中政策を発表してきたが、同手引きでは米国歴代政権の政策と大きく異なる声明のみを厳選抜粋しており、声明に関する多くの高官の意見も盛り込まれている。

 手引きには2つの目次がある。1つの目次は政策分野別に分類され、トランプ大統領がインタビュー中に自らの言葉やツイートで語った60以上の発言を皮切りに、7つのカテゴリーに分かれている。ほかの6つのカテゴリーは、内閣大臣とその補佐官が直面する多くの課題に応じて記録されている。具体的には、不公正な貿易障壁の排除、米国経済のグローバル優位性の維持、宇宙における米国主導的地位と米国宇宙部隊の維持、技術移転の脅威に対応するためのグローバルな同盟関係の構築、主要な資材への米国の依存度の低減、インド太平洋地域における米軍の再建、中国共産党の人権侵害を「世紀の汚点」として扱い、中国共産党が推進する「一帯一路」の拒否、中国共産党が世界貿易機関を遵守させる新たな対策、北極・南太平洋・アフリカに対する新たな措置、世界保健機関が中共ウイルス(新型コロナウイルス)の不適切な対応後に当該組織からの脱退などが挙げられた。

 ピルズベリー氏:米国はかつて中国共産党の野望を過小評価していた

 トランプ政権における中国問題の権威であるピルズベリー氏(75)は流暢な中国語が話せる。過去40年間において、米国の対中政策の変遷をよく理解し、中国の政治的脈動と政策思考に熟知しているアメリカ人と言えば、ピルズベリー氏の右に出る者は見つからないだろう。

 ピルズベリー氏はコロンビア大学政治学博士であり、ワシントンのシンクタンクであるハドソン研究所中国戦略センターの責任者を務めるほか、米国防総省顧問を務め、かつてレーガン政権時期において国防次官補を担当した。2015年に、彼は『China 2049:秘密裏遂行される「世界覇権100年戦略」』という本を発行した。本の中で、中国共産党が40年以上にわたって米国に対して戦略的な欺瞞行為を行ってきたと指摘した。いわゆる「中国の夢」とは、一世紀に及ぶ国家屈辱を覆し、グローバルな覇権を果たす夢であり、一撃もなしに世界の政治・経済の主導権を握ろうとする中国の姿であり、対応策を講じなければ2049年には米国が中国共産党の植民地になりかねない。米国は中国共産党の世界征服の野望を深刻に過小評価していたとし、中国共産党がマラソンで勝利した場合、直ちに抑止行動を執らなければ、米国は挽回するチャンスを失ってしまう。

 ピルズベリー氏はメディアとのインタビューで、トランプ氏は貿易戦争問題に関して、明確な目標と適切なやり方で実行していると述べた。ブッシュとオバマをはじめとする歴代大統領は、中国共産党の不公正な取引慣行について繰り返し不満をこぼしたが、口先だけで、実際の行動に移していなかった。また、ピルズベリー氏は米国が貿易交渉で最終的な勝利を収めると予測した。軍事対抗において米軍が頼りにしている高度な技術は成功の鍵であり、米国は科学技術的な先進性を維持しなければならない。中国共産党率いる中国は世界最大の経済大国になろうとしているのみならず、軍事大国をも目指しているため、トランプ大統領は中国共産党が米国の科学技術分野に侵入するのを防ごうとしているということだ。

 「共産党と協力」から「共産党に対抗」への移行

 ピルズベリー氏は1975年に博士号を取得してから、アメリカンランドグループに就職し、『フォーリン・ポリシー』誌に、ソ連と戦うために、中国と軍事的・情報的協力を主張する論文を発表した。彼の主な提案はレーガン政権の公式見解・政策となった。

 しかし、30年後、中国経済が飛躍的に発展し、中国の総合力が急速に米国に近づいていく中で、ピルズベリー氏は当時の自分の主張を覆した。すなわち経済的に発展してグローバルに融合した中国が必然的に米国の民主政治を模倣し、米国の同盟国になるという予想だ。これは米国の上流階級の数十年にわたる共通な認識でもある。「中国の夢」が最終的に米国に取って代わることを意味する場合、米国は中国に対し、より競争力のある新しい戦略で対抗する必要がある。これは、米国が21世紀に直面する最大の国家安全保障上の課題であるとピルズベリー氏は述べた。

(看中国記者・肖然/翻訳・北条)