米シンクタンク、中国の改正国防動員法に警鐘.
国会議事堂(ChatGPT AI 生成)

 米シンクタンクのコンシリウム研究所*(中国語名・神策智庫)の林暁旭(りん・ぎょうきょく)執行理事は9月14、15両日、日本の国会議員や外務省当局者と相次いで面会し、中国が10月1日に施行する改正「国防動員法」が、中国に滞在する日本人や現地に進出する日系企業にもたらしかねない新たなリスクを説明した。

 同研究所が同時期に公表した政策報告書によると、全国人民代表大会常務委員会(全人代常務委)が8月28日に可決した改正法は、動員発動の要件を従来の「主権と領土保全への脅威」から「発展の利益」という広範な概念にまで拡大した。宣戦布告がなくても、平時や軍事衝突に至らない摩擦の局面で動員を発動し、物資を統制したり、企業に生産転換を強制したりできるようになるという。報告書が特に問題視するのは、改正後の第3条と第17条だ。両条は、各級の動員委員会が中国共産党の集中的・統一的な指導を受けると明記し、地方政府や民間企業、商業団体までが党の指令に直接従うよう定めている。

 報告書は、中国にいる日本人が直面しうる具体的なリスクを列挙した。

 一つは出国制限と身柄拘束である。第73条により、動員当局は「動員実施区域」内で交通を統制する緊急権限を持つ。企業調査(デューデリジェンス)や物流、情報技術、重要鉱物の取引、サプライチェーン調査などに携わる外国人が、「発展の利益の保護」を理由に拘束されたり、出国を制限されたりする恐れがあるという。

 もう一つは電子機器の強制検査と没収である。第45~49条はデータシステムやソフトウェア、技術者、先端技術を動員の対象と定めており、出張者や駐在員のノートパソコンや携帯電話、企業のサーバー、暗号化通信機器が強制検査や没収の対象となりうる。

 企業への影響で報告書が最も警戒するのは、所有権を恒久的に奪う「収用」が、従来の一時的な「徴用」と並んで初めて条文(第63~67条)に盛り込まれた点だ。日系企業が中国国内に持つ工場や生産設備、原材料、精密機器が国家に恒久的に接収される可能性があるとしている。

 さらに同法は、民生用の生産ラインを軍需関連の生産に切り替えるよう命じる権限を当局に与えており、電子部品やロボット、自動車部品、化学原料などを手がける日系企業の生産ラインが、軍民両用品や軍需品の生産に強制的に転換される恐れがあるという。動員令が出れば、中国の調達先や物流企業は法律上、国家の防衛任務を優先せざるを得ず、日本向けの供給契約が「不可抗力」を理由に一方的に打ち切られる可能性もある。日系企業はサプライチェーンの運営権やデータの管理権、経営の裁量を実質的に失いかねないと指摘した。

 こうしたリスクを踏まえ、報告書は日本企業向けの予防策を示した。個人所有や未審査の電子機器を企業の基幹ネットワークに接続させないこと、中国への渡航時はデータを保存しない専用端末を使うこと、重要な知的財産や技術資料を中国大陸以外のクラウドサーバーに移し、中国国内のサーバーとの双方向の自動同期を停止することなどである。

 外務省に対しては、三つの政策提言を示した。①改正動員法を踏まえて海外安全情報(危険情報)を更新し、ビジネス関係者や研究者、在留邦人に対し、「発展の利益」の適用拡大や機器の強制検査、出国制限のリスクを注意喚起する②経済産業省と連携し、資産の収用や生産転換命令に備えた企業の事業継続計画(BCP)の指針を策定する③「経済安全保障推進法」の枠組みを活用し、主要7カ国(G7)や日米豪印の協力枠組み「クアッド」の各国と連携して、日本企業が中国への依存度を下げ、戦略物資や重要部品の生産を東南アジアやインドなど第三国へ移すための財政・保険面の支援を行う――である。

 今回の訪日は、日中間で外交摩擦が相次ぐ中、米国のシンクタンクが中国の国内立法に伴う対日リスクを日本政府と国会に体系的に伝えたものだ。「発展の利益」のような伸縮性の高い概念が動員法制に組み込まれたことで、中国で活動する外国企業や外国人が法令順守や身の安全の面で抱えるリスクは、今後高まる可能性がある。

*コンシリウム研究所(Consilium Institute):ニューヨーク州マウントホープに拠点を構える独立系シンクタンク。地域・国家・世界の各レベルで理性的な思考と寛容な政策を促すことを掲げ、緊急性の高い地球規模の課題について、実践を重視した戦略研究に取り組んでいる。

(文・黎宜明)