2025年10月13日午前3時18分、四川省成都市の天府大道(てんぷだいどう)で、シャオミSU7 Ultraが時速167キロで前を走る車に衝突しました。その後、中央分離帯の植え込みを突き抜け、炎上しました。

 現場の映像には、複数の通行人が駆け寄り、拳や足、手にしていた物を使って必死に窓を割ろうとし、ドアを開けようとする様子が映っています。しかし、ドアは全く動きませんでした。

 後に公表された司法鑑定の結果から、その原因が明らかになりました。衝突から9秒後には車両の低電圧電源システムが停止し、電子システムによるドアハンドルの制御も機能しなくなっていました。この車には外側から開けるための機械式ドアハンドルが装備されていませんでした。車内には緊急時用の機械式レバーが設けられていましたが、濃い煙と高温の中で、運転者はそれを見つけられなかったとみられます。

 31歳の運転者は衝突そのものではなく、炎にのみ込まれて命を落としました。成都市警察は、著しい速度超過と飲酒運転の疑いがあったとして、事故の全責任は運転者にあると認定しました。しかし、開かなかったドアの存在によって、この事故は単なる交通事故の枠を超え、EVの安全設計に対する関心を集めることになりました。

 ある人は、こう語りました。「テクノロジーの電源が切れた時、人間に残されるのは素手だけだ」

 この言葉が人々の胸に突き刺さったのは、より大きな問題を言い当てているからです。中国の新エネルギー車業界で繰り広げられる異常なまでの競争の中で、同じような危険が、すでにどれほど潜んでいるのでしょうか。

 今年1月から5月までに、中国市場では542車種の新車が発売されました。1日平均3.6車種です。この数字の裏には、限界まで短縮された開発期間があります。ガソリン車の時代には、一般的に36カ月以上の検証期間が必要でした。しかし現在では、多くのメーカーが開発期間を約18カ月にまで短縮しています。

 業界関係者は『中国汽車報』に対し、新エネルギー車のプロジェクトでは、立ち上げから完了までを、わずか半年以内で終えるよう求められることも珍しくないと明かしました。

 この異常なスピードに、業界内部からも懸念の声が上がっています。今年7月に開催された中国自動車フォーラムで、北京現代の李鳳剛(り・ほうごう)総経理は、一部のメーカーが発売を急ぐあまり、必要な試験工程を削減し、事実上、消費者を「テストドライバー」にしていると率直に指摘しました。BYDの何志奇(か・しき)副社長は、さらに直接的な言葉でこう語りました。「完全に狂っている。これは自動車なんだぞ」

 問題は、すでに表面化し始めています。小鵬(シャオペン)X9は、猛暑の中で多数の車両が走行不能になり、一部の所有者からは「発売前に本当に酷暑環境での試験を行ったのか」と疑問の声が上がりました。また、特定の型式のバッテリーを搭載した営業用車両でも、バッテリー故障が集中的に発生しています。

 自動車分野のコンテンツ制作者「車漫部落(しゃまんぶらく)」は、長文の記事で次のように指摘しました。ガソリン車が全盛だった時代、新車は企画の立ち上げから量産まで、通常4年から6年かけて作り込まれていました。極端な環境下での調整や信頼性試験だけでも1年から2年を要し、累計100万キロを超える走行試験を終えてから、ようやく発売に踏み切っていました。

 しかし現在では、本来何度も改良を重ねるべき車両全体の電子制御プログラムが、わずか2週間で慌ただしく車に搭載されています。従来は30万キロから40万キロ行われていた耐久走行試験も半分に削減され、多くの車種が出荷前に2万キロから3万キロしか走行試験を行わないまま、生産ラインから送り出されています。本来なら実験室で解決すべき問題を、所有者に実際の道路上で「検証」させているのです。

 「車漫部落」は、現在の「短期間で開発された車」によって、メーカーは発売の速さや月間販売台数を手に入れましたが、目に見えないリスクは最終的にすべて所有者が負担することになり、その一つ一つが命を脅かす可能性があると批判しています。

 短縮された時間と削減された費用によって、自動車メーカーが価格競争を勝ち抜いてきたことは事実です。しかし、その削減された費用は、人々の目には見えない別の場所、つまりバッテリー管理システムに組み込まれたコードにも、ひそかに影響を及ぼしているのでしょうか。

 「バッテリー制限」とは、自動車メーカーが所有者の同意を得ず、OTAによる遠隔アップデートや販売店でのソフトウエア更新を通じて、バッテリーの充放電上限を一方的に引き下げることです。

 複数の所有者によると、深夜に行われたシステム更新の後、カタログ上では510キロとされていた航続距離が、実際には300キロ未満にまで減少し、急速充電にかかる時間も明らかに長くなったといいます。これに対し、自動車メーカーは通常、「冬の低温」や「システムの最適化」が原因だと説明しています。

 今年3月、中国の消費者相談窓口「全国12315プラットフォーム」には、1カ月間で1万2000件を超える関連する苦情が寄せられ、前年同月比で273%増加しました。この数字については、複数のメディアが事実であることを確認しています。

 しかし、これをめぐって情報が食い違う事態も起きました。ネット上では一時、「バッテリー制限をめぐり自動車メーカー8社が当局から聴取を受け、3社が立件された」との情報が広がりました。これに対し、中国汽車工業協会は、ネット上の情報は「事実と大きく異なる」と否定しました。その一方で、同協会は、自動車メーカーに対し、バッテリー管理システムを最適化する際には透明性を保ち、所有者の知る権利と選択する権利を保障するよう呼びかけています。

 バッテリー制限は、単に大手メーカーが優位な立場を利用して、消費者に不利益を押しつけているというだけの問題ではありません。業界関係者によると、バッテリーの充電と放電の範囲を制限することで、過充電や過放電による発火の危険性を抑えられるという、技術的に合理的な側面もあります。

 しかし、その一方には、明確な経済上の理由もあります。規定では、新エネルギー車のバッテリーについて、8年または12万キロの保証期間内に容量の劣化が20%を超えた場合、自動車メーカーは無料で交換しなければなりません。

 バッテリー制限を行えば、実際に使用できる容量が小さくなり、劣化の進行も自然に遅くなります。年間100万台を販売する自動車メーカーにとって、これによって削減できる保証費用は、年間で数百億円(数十億元)規模に達する可能性があります。

 今年3月、中国工業情報化部と国家市場監督管理総局は共同で文書を発表し、新エネルギー車のOTAアップデートを規制しました。規制の考え方も、「発売前の審査」から「自動車が使用される全期間を通じた追跡管理」へと変わりつつあります。ハンドルの向こう側、コードの中に隠されたこの駆け引きには、今のところ結論が出ていません。

 成都市で開かなかったあの車のドアは、最終的に「バッテリー制限」や「発売を急いだこと」とは直接関係がないと認定されました。速度超過と飲酒運転による事故に、電源が切れた瞬間に機能しなくなるドアロック設計が重なった悲劇でした。

 しかし、だからこそ、この事故は一枚の鏡のようにも見えます。新車開発がますます加速し、航続距離や故障率までもが、一行のコードによって人知れず書き換えられる可能性がある時代に、EVを自分でコントロールする力は、所有者にどれほど残されているのでしょうか。

(翻訳・藍彧)