毎年10月初め、中国では大型連休を迎えます。そんな連休を目前に、あるネットユーザーが自分の銀行口座の残高を公開しました。わずか約60円(2.5元)。そして、大まじめにこう問いかけました。「今の私の経済力なら、連休の旅行はどこに行くのがよさそうですか?」
この投稿は広く拡散されました。コメント欄には、笑いが止まらないという人もいれば、読んだあとに黙り込んでしまう人もいました。ひとしきり笑ったあとで、多くの人が気づいたのです。これは単なる冗談ではなく、自分の暮らしを映す鏡なのだと。
今年、中国の大型連休は、なぜこんな状況になっているのでしょうか。
10月1日から7日までは、中国では旧正月に次ぐ大型連休で、例年、全国で旅行客が最も増える時期の一つです。今年は9月25日から27日までが中秋節の3連休で、10月の連休との間には平日が3日しかありません。9月28日から30日まで有給休暇を取れば、最大13連休にすることができます。
これだけ休みが長ければ、旅行に出かけたいと思う人も多いはずです。ところが今年、多くのネットユーザーが真っ先に考えたのは、「ちょっと待とう。まず銀行のアプリを開いて、残高を確認しよう」ということでした。
こうして人々が次々に公開した「大型連休の旅行資金」は、笑えると同時に、胸が痛むものでした。残高が約60円(2.5元)しかないという人には、親切にも旅行プランを考えてくれた人がいました。1日目はリビング、2日目は寝室、3日目は台所、4日目はベランダ、5日目は自宅の集合住宅の敷地内。それまで無駄遣いをしなければ、6日目には「豪華なプラン」も組めます。近所の生鮮食品市場へ出かけるのです。
「6桁の暗証番号で、2桁の預金残高を守っている」という人もいました。さらに、「大型連休に旅行すれば消費を刺激できる」という話を聞いて、すぐさま反発する人もいました。「俺に足りないのは刺激か?金だよ!」「こっちは立場が弱いだけで、頭まで弱いわけじゃない」
どれも冗談のように聞こえますが、なぜ今年は特に、こうした言葉が広まりやすいのでしょうか。笑いながら自分の残高に目を落とし、「笑っている場合ではなかった。これ、自分のことだ」と気づく人が多いからです。現実を変えることが難しいとき、人はまずユーモアで受け止めようとするものです。
中国国家統計局が発表したデータによると、今年1月から8月までの小売売上高は、前年同期比でわずか1.1%の増加にとどまりました。8月単月では伸び率がわずか0.4%と、ほぼ横ばいです。こうした数字からも、単に人々が急にけちになったという話ではなく、社会全体で消費が伸び悩んでいることがうかがえます。
若者の状況も見てみましょう。8月、中国の16歳から24歳の若者の失業率は、在学生を除いて18.9%に上昇しました。25歳から29歳の失業率も7.5%に達しています。しかも、これはあくまで公式に発表された数字で、実際の状況はさらに厳しいのではないかと広く受け止められています。卒業したばかりで仕事も決まらず、収入の見通しも立たない若者に、休みだから「思い切りお金を使って」と言っても、無理な話です。だからこそ、「大型連休の旅行で消費を刺激できる」と言われると、ネットユーザーは「そのお金はどこにあるんだ?」と問い返すのです。
さらに現実的な問題として、旅行から帰ってきても生活は続きます。家賃をはじめ、さまざまな支払いが待っています。SNSの投稿は充実しても、銀行口座は空になってしまうかもしれません。そのため今、多くの人はまったくお金を使わないのではなく、何かにお金を払うたびに、「本当にそれだけの価値があるのか」と考えるようになっています。
一方、大型連休に旅行しない理由を、こう説明する人たちもいます。「なぜわざわざこの時期を選んで、余計なお金を使わなければならないんだ?」
毎年、大型連休にはどんな光景が広がるでしょうか。高速道路は大渋滞し、カーナビの地図は渋滞を示す赤い線で埋まります。人気の観光地では何時間も並び、ようやく中に入れても、山も水辺もよく見えません。一番よく見えるのは、目の前の人の後頭部です。「美しい大自然と自分」を撮るつもりが、出来上がったのは「見知らぬ3000人の後頭部と自分」の写真です。「これのどこが旅行なんだ?金を払って観光地の人数を増やしに行っているだけじゃないか」と不満をこぼす人もいます。
しかも連休中は、ホテル代が普段より高くなり、食事にも並び、トイレにも並び、車で出かければ高速道路で渋滞に巻き込まれます。お金はかかるし、いらいらすることも多く、景色さえまともに見られるとは限りません。そこで、こう割り切る人もいます。「お金がないなら出かけない。お金があっても、大型連休に出かけるとは限らない」。せっかく数日休めるのに、なぜさらにお金を払って、人混みに飛び込む必要があるのでしょうか。
今年の連休も、旅行に出かける人は多いかもしれません。しかし、人が多いからといって、誰もが気兼ねなくお金を使えるわけではありません。
まず、昨年の公式データを見てみましょう。2025年10月の大型連休は8日間で、国内旅行者数は延べ8億8800万人、旅行中の支出総額は約19兆円(8000億元)を超えました。数字は大きいものの、旅行者1人当たりの支出は約2万1000円(911元)で、前年より約120円(5元)減っています。前年より休みが1日多かったにもかかわらず、1人当たりの支出は増えるどころか減ったのです。
こうした傾向は、今年のほかの連休でも見られます。中国文化観光省のデータによると、今年6月19日から21日までの端午節の3連休では、国内旅行者数が延べ1億2400万人となり、1人当たりの支出は約8000円(約358元)でした。同じ3連休だった4月4日から6日までの清明節と比べると、約2000円(100元近く)少なくなっています。こうした現象を、「人でにぎわっても、お金は落ちない」と表現する分析もあります。
今年の大型連休も旅行への需要は依然として高いものの、消費が伸び悩み、収入が増える期待も持ちにくい中、人々はますます、払うお金に見合う価値があるかどうかを重視しています。ホテルは安いところを選び、宿泊費を節約しようとテントを持参する人もいます。食事の前には共同購入サイトなどで割引を確認し、飲み水も持参できるなら自分で持っていきます。観光地の入場料が高すぎれば、入り口で写真を1枚撮って、それで「行ってきた」ことにします。以前の旅行は「買って、買って、また買う」ものでしたが、今は「見て、見て、また見る」ものに変わりました。観光地は相変わらず人であふれているかもしれませんが、誰もが競うように財布のひもを締めています。これこそが、今年の大型連休で最も目を引く光景です。
さらに、考えさせられる対比もあります。有給休暇を使って13連休にし、遠くへ旅行する人がいる一方、銀行口座に約60円(2.5元)しか残っておらず、家にいるしかない人もいます。同じ国の、同じ休みでありながら、過ごし方はまったく違います。その背景には、収入の格差と、先行きへの見通しの違いがあります。
では、結局、旅行には出かけたほうがいいのでしょうか。
今年は一部の地域で、豪雨や山間部での突然の洪水、土砂崩れ、地震が相次ぎ、出かけるにも不安がつきまといます。そこでもう一度、自分の銀行残高を見て、高速道路の渋滞や観光地の行列、人混みを思い浮かべると、家で過ごすのも案外楽しいのではないかと思えてきます。渋滞に巻き込まれず、入場券を買う必要もなく、気楽に過ごせて、お金も節約できます。
多くの人に足りないのは、「さあ、お金を使おう」という呼びかけではないのかもしれません。必要なのは、より安定した仕事と、安心して暮らせる収入、そして今日お金を使っても、明日の生活を心配せずに済むだけの安心感です。それがあれば、誰かに勧められなくても、人々は自然と家を出ていくはずです。
(翻訳・藍彧)
