中国の最高指導者、習近平氏は、妻の彭麗媛(ほう・れいえん)氏が人民解放軍内に築いてきた幅広い人脈に大きく頼っている可能性がある――。米情報機関の元高官がこう指摘した。中国の軍部でファーストレディーが果たしている、これまであまり知られてこなかった役割に光を当てる見方だ。

 米中央情報局(CIA)で中国分析官を務め、ジョージ・W・ブッシュ政権では国家安全保障会議(NSC)にも在籍したデニス・ワイルダー氏によると、彭氏は習氏自身にはない軍内のネットワークを持っているという。ワイルダー氏は「習氏は彼女の『人脈帳』に大きく頼っている。習氏には、彼女のような軍の人脈帳はない」と語った。

 彭氏は、習氏が共産党の最高指導者の座に就くまでの数十年間、中国で最も有名な軍所属の歌手の一人だった。各地の部隊を回って兵士の前で歌い、高級将校とともに式典などにも出席してきた。

 ワイルダー氏によれば、彭氏はこうした経歴を通じて何世代にもわたる軍幹部と直接の面識を得て、軍内部の人間関係や、誰が誰に忠誠を尽くしているかといった構図にも精通するようになったという。

■軍の中で築いたキャリア

 彭氏は若くして文芸兵として人民解放軍に入り、最終的には少将に相当する文職幹部の階級にまで昇進した。2012年には解放軍芸術学院の院長に就任。同学院はその後、習氏が進めた軍改革の過程で国防大学に統合された。学院を離れた後の彭氏の公式な役職は、はっきりしていない。

 2024年には、彭氏を中央軍事委員会幹部考評委員会の「専任委員」と紹介する写真がネット上に出回った。同委員会は軍高官の評価に関わっているとされるものの、実態はほとんど知られていない組織だ。当時の報道によれば、軍幹部の政治面での経歴、忠誠心、軍事的能力、個人の品行などの評価に携わり、中央軍事委員会政治工作部の組織局に人事の候補者を推薦することもあるという。

 この情報が正確なら、彭氏は軍高官の審査や昇進を左右し得る人事システムの内側にいることになる。ワイルダー氏は、彭氏の職務は軍指導部を精査する解放軍の幹部評価機構の一部にあたるようだと述べた。

 こうした可能性がとりわけ注目されるのは、習氏がここ数十年で最大級ともいえる軍上層部の大幅な入れ替えを進めるなか、昇進人事の掌握と政治的忠誠の確保がこれまで以上に重要になっているためだ。

■相次ぐ軍上層部の粛清

 2025年10月、中国当局は、何衛東・前中央軍事委員会副主席や苗華・前政治工作部主任ら軍高官9人の党籍と軍籍を剥奪した。当局は、9人に重大な規律違反と職務上の犯罪の疑いがあり、関与した金額は極めて巨額だと発表した。

 粛清は2026年に入って一段と拡大した。張又侠・前中央軍事委員会副主席と劉振立・前統合参謀部参謀長は、8月に同委員会委員を正式に解任され、9月には党籍と軍籍を剥奪された。当局は両氏に重大な規律違反と違法行為があったとし、国営メディアは政治的忠誠を欠いていた疑いも強調した。両氏の事件は軍の検察機関に送致された。

 相次ぐ解任により、習氏を取り巻く軍最高指導部の顔ぶれは一変した。中国指導部が軍幹部をどのように審査し、内部から登用しているのかに、海外から一段と厳しい目が向けられている。

 オーストラリア在住の中国人法学者、袁紅冰氏はさらに踏み込み、彭氏が軍高官の人事に「実質的な影響力を行使してきた」と主張する。かつては将校が昇進に際して彭氏の意見を仰ぐよう求められていたという。

 袁氏はこうした体制を「夫婦店(夫婦で切り盛りする店)」と呼び、それが軍上層部の司令官らの反感を招いたとしている。

 中国軍の上層部で粛清が繰り返されるなか、ワイルダー氏の見立ては、こうした人脈がなぜ重要になり得るのかを理解する一つの手がかりとなる。

(翻訳・竹内優子)