上海に住むある女性は、銀行口座に約6000万円(300万元)の預金がありました。しかし亡くなった後、自分を埋葬するための墓地すら購入できませんでした。民政部門は「費用を出すことはできるが、前例がない」と説明しています。
その一方、四川省のある小さな県の葬儀場では、大型スクリーンに次々と表示される死者の多くが、白髪の高齢者ではなく、20代や30代の若者でした。この二つの出来事が、ますます多くの中国の若者を同じ場所へと向かわせています。遺言書を作成するため、公証役場へ向かっているのです。
杭州市のインターネット公証役場を最近、26歳の姜(きょう)さんが訪れました。誕生日を迎えたばかりの、ネット業界で働く若者です。
姜さんは、不動産の名義変更や財産の公証手続きのために来たのではありません。自ら遺言書を作成したいと申し出たのです。理由は単純でした。身近な友人が突然事故に遭い、事故や災難は年齢を選んではくれないと気づいたからです。
これは決して一部の人だけに見られる現象ではありません。中華遺言バンクが発表した最新の白書によると、中国本土で遺言書を作成する人の平均年齢は、13年連続で低下しています。30歳未満で遺言書を作成した人は、前年より42.3%増加しました。わずか1年間で、登録を終えた「2000年代生まれ」の遺言書は200件を超えています。
中国の年配世代にとって、死後のことを口にするのは、ほとんどタブーでした。不吉だと考えられてきたからです。しかし、現在の若者にとって遺言書の作成は、消極的で悲観的な行為ではありません。保険に加入するのと同じような、合理的なリスク管理なのです。
杭州市にあるこの公証役場の潘偉珠(はん・いしゅ)副所長は、2006年から遺言書の公証業務を担当しています。潘偉珠によると、当時、遺言書を作成しに訪れる人は、ほとんどが70代や80代の高齢者でした。目的も単純で、不動産の相続方法を決め、将来、子どもたちが遺産分割をめぐって裁判を起こすことを避けるためでした。しかし現在では、18歳になったばかりで、法律上、完全な民事行為能力を持つ若者が、自ら遺言書について相談に訪れることも珍しくなくなっています。
潘偉珠は、一つの転換点があったとみています。2015年以降、中年層や若年層が、徐々に遺言書を作成する中心的な世代になりました。特に、高齢の親を支えながら幼い子どもも育てている世代が目立ちます。同時に、晩婚や未婚、離婚が増え、再婚家庭も一般的になったことが、より多くの若者が遺言書を通じて、自分の財産を誰に残すのかを自ら決めたいと考える理由になっています。
中国の大都市や地方の主要都市では、住宅価格が数千万円単位に達することも珍しくなく、若くても自分名義の不動産を持っている人が少なくありません。未婚のうちは、多くの人が遺言書に「両親に残す」と記します。その住宅は、多くの場合、両親が長年の蓄えを使い果たして購入してくれたものだからです。
ある30歳の女性は、結婚前に遺言書の公証手続きを済ませ、万が一、自分の身に何かあった場合、所有する不動産と預金のすべてを両親に相続させると明記しました。女性はこう話しています。「この家は両親が苦労して手に入れてくれたものだ。たとえ自分に何かあっても、両親が生活の保障を失わないようにしたい」。しかし、結婚して子どもが生まれると、状況は変わります。遺言書の内容も変更され、財産を配偶者や子どもに残すようになるのが一般的です。
ここで、こう考える人もいるかもしれません。もし今日、自分が遺言書を書くとしたら、財産を誰に残すでしょうか。上海の蒋(しょう)さんのように、自分が亡くなった時、きちんとした葬儀すら行えない事態になることはないのでしょうか。
ここで、冒頭の話に戻ります。
2025年10月、上海で一人暮らしをしていた蒋さんが、突然、脳出血で倒れました。両親はすでに亡くなっており、未婚で子どももいませんでした。手術には家族の署名が必要だったため、蒋さんは年に一度会う程度の遠縁の従弟、呉(ご)さんに連絡するしかありませんでした。
呉さんは義理堅く、手術の同意書に署名しただけでなく、会社とともに約60万円(3万元)の医療費も立て替えました。しかし、誰も予想していなかった事態が起きます。12月14日、蒋さんの容体が急激に悪化し、そのまま亡くなったのです。蒋さんには法定相続人がいなかったため、規定により、遺産は民政部門に帰属することになりました。
呉さんと蒋さんの生前の友人たちは、約6000万円(300万元)の遺産の一部を使って墓地を購入し、葬儀を行い、せめて最後は尊厳を保って見送りたいと考えました。しかし、地元の住民委員会は、即座に拒否しました。「それは不可能だ。国が提供できるのは、海洋葬か自然葬だけだ」
上海市虹口区(こうこうく)の民政部門は、これまでこのような事例を扱ったことがなく、この遺産を使うには裁判所の判決を待たなければならないと説明しました。最終的に墓地の購入が認められたとしても、その後の墓地の維持費は、呉さんが自分で負担しなければならないというのです。
一方では、約6000万円(300万元)の預金が銀行口座に手つかずのまま残されています。もう一方では、亡くなった人を土に還して安らかに眠らせることさえ、難しい問題になっています。
中国の「民法典」では、相続人のいない遺産は、公益事業のために使わなければならないと定められています。しかし、一人の人間を尊厳ある形で見送ることも、最も基本的な公益の一つではないのでしょうか。
こうした出来事に加え、近年、ソーシャルメディアで相次いで伝えられる突然死の情報が、若者の心の防線を崩す最後の一押しになっています。あるネットユーザーは、自分の友人が小さな県の葬儀場で働いていると明かしました。その友人によると、葬儀場が死者の情報を表示する大型スクリーンには、若者の名前が圧倒的に多く並んでいるといいます。
X上で拡散された別の動画には、ある地域の葬儀場に掲示された、その日の出棺予定者を知らせる案内が映っていました。最年少の死者は、わずか15歳でした。70歳以上の死者はわずか数人で、それよりも多かったのは、30代や40代の中年層でした。動画を投稿した人物は、ただ一言、こう書き残しています。「怖すぎる」
職場の同僚や親族、友人だけでなく、インフルエンサーや著名人まで、相次いで突然死したとの情報が伝えられる中、多くの中国のネットユーザーは、ある言葉で互いを慰めるようになりました。「明日と不慮の事故、どちらが先に来るかは誰にも分からない」
多くの人にとって、できることは、必要なことをあらかじめすべて手配し、できる限り後悔を残さないようにすることだけなのです。現在、若者の遺言書には、不動産や預金だけでなく、ゲームアカウント、ペットの世話に関する取り決め、公益団体への寄付、臓器提供の意思、さらには自分の葬儀や埋葬方法まで記されるようになっています。若者にとって遺言書は、もはや単なる財産分配の一覧表ではありません。自分の思いを託し、人生の記憶を残しておく場所になっているのです。
26歳の若者が公証役場を訪れ、最初に作成した法的文書は、住宅の購入契約書でも、婚前契約書でもなく、一通の遺言書でした。この選択の背景にあるのは、この世代が親の世代よりも早く、人生の無常と向き合うことを学んだからなのでしょうか。それとも、この土地が沈黙のうちに、すべての人にこう警告しているのでしょうか。不慮の出来事は、想像しているよりも身近に迫っているのかもしれない、と。
(翻訳・藍彧)
