長い間、中国では「ロマンチック」を売るビジネスは、確実にもうかる、極めて利益率の高い商売でした。

 20万円(1万元)を超えることも珍しくない有名な観光地でのウェディング撮影や、豪華な結婚式場が、巨大な消費至上主義の神話を作り上げてきました。その神話の中で、「一生に一度しかない」という言葉は、どんな高額請求も正当化できる切り札となっていました。「結婚」という看板さえ掲げれば、どれほど価格が上乗せされていても、若者たちは黙って財布を開くしかなかったのです。

 しかし、盤石に見えたこの巨大ビジネスにも、すでに津波が静かに押し寄せています。

 中国の企業情報サイト「天眼査」の最新データによると、過去3年間に、中国全土で結婚式関連、ウェディング写真、有名な観光地でのウェディング撮影を手がける企業のうち、8万6000社近くが企業登録から完全に姿を消しました。これは同じ期間に新たに登録された業界全体の企業数の、実に4分の1に相当します。

 「結婚式業界のエルメス」と呼ばれたGALLERIA(グレリア)では最近、各地で店舗の閉鎖が相次ぎ、利用者が返金を求めても応じてもらえない事態が起きています。エレベーター内で繰り返し広告を流し、知名度を高めたウェディング撮影会社の「プラチナ・トラベルフォト」も、給与の引き下げや支払いの遅延によって、深刻な信用危機に陥っています。

 かつて莫大な利益を上げた大手企業は、なぜ一瞬にしてその座から転落したのでしょうか。この「ロマンを売る業界の大量倒産」の裏には、いったいどのような残酷な時代の現実が隠されているのでしょうか。

 2000年以降、中国の結婚式業界は、20年にわたる黄金期を迎えました。その背景には、二つの追い風がありました。一つは、人口の多い1980年代生まれと1990年代生まれが結婚適齢期を迎えたことです。もう一つは、中間所得層が急速に拡大したことです。

 この時期、「有名な観光地まで出向いてウェディング写真を撮る」というサービスが登場しました。「海南省三亜市で波と戯れ、雲南省大理市で蒼山と洱海を眺めよう」という宣伝文句が、洗練された雰囲気を求める若い世代の心を的確につかみました。ウェディング写真の平均料金は、6万~7万円(2000~3000元)から、60万~70万円(数万元)へと急騰しました。2017年前後には、中国の結婚式関連市場の規模は、約36兆円(1兆5000億元)を超えました。

 巨額の利益に目を付けた業者は、客から徹底的にお金を引き出す仕組みを作り上げました。まず、約12万円(4999元)という低価格を掲げて客を店に呼び込みます。撮影が終わると、写真を選ぶ担当者が「青春に後悔を残してはいけない」と心理的に揺さぶります。さらに衣装や化粧品をランク分けし、上位ランクのカメラマンに変更する場合も追加料金を取るなど、契約時には分からない追加費用が次々と発生しました。

 莫大な利益を求めて資本が殺到し、大手企業は急速な事業拡大に乗り出しました。しかし、この無秩序な成長の陰で、すでに崩壊の火種が埋め込まれていたのです。

 ビジネスの仕組みから見ると、結婚式や有名な観光地でのウェディング撮影業界は、治すことのできない「ビジネスのがん」を抱えていました。その経営モデルには、致命的な問題があります。新規顧客を獲得するための費用が極めて高く、多額の設備投資が必要である一方、同じ客が再び利用する可能性は、ほぼゼロなのです。

 一般的に結婚は一生に一度しかないため、企業が生き残るには、常に新しい顧客を探し続けなければなりません。業界関係者によると、大手企業の中には、新規顧客を獲得するための広告宣伝費が、顧客一人当たりの売上の30%から40%を占めるところもあるといいます。約21万円(1万元)を支払ってウェディング写真を撮影した場合、そのうち約8万4000円(4000元)は、業者の広告費に充てられていることになります。

 高額な料金に見合うサービスを演出するため、業者は二つ目の弱点である大規模な設備投資へと向かうしかありませんでした。一等地の土地や施設を借りるため、数億円(数千万元)もの資金を投じ、豪華な撮影セットを作り上げました。しかし、流行は約2年ごとに変化します。今年はフランス風が流行しても、翌年には中国伝統風が流行します。巨額の費用をかけて作った撮影セットはすぐに時代遅れとなり、企業は古いセットを壊し、再び資金を投じて新しいセットを作らなければなりません。

 こうして、新しい顧客から受け取った手付金を、既存店舗の家賃や新店舗の内装費に回すという、極めて不安定な資金繰りが続くことになりました。新規顧客が突然減れば、莫大な固定費に圧迫され、重い設備投資を抱えた企業は一気に経営破綻へ追い込まれます。

 さらに致命的な打撃となったのが、結婚する人の減少と、消費者意識の変化です。

 中国民政部のデータによると、中国の婚姻届の件数は、2013年に1347万組でピークを迎えた後、減少を続けています。ここ数年は、全国の婚姻届の件数が700万組を下回り、ピーク時のほぼ半分にまで落ち込んでいます。

 それでも結婚を選ぶ若者たちは、以前よりはるかに冷静に判断するようになりました。かつての「彼女を愛しているなら、最高に豪華な結婚式を贈るべきだ」という宣伝文句は、今の若者にはまったく通用しません。業者が巧みに作り上げた「特別な儀式」という価値を、若者たちは消費至上主義が生み出した、ただの無駄な出費だと容赦なく見抜いています。

 今の若者は、周囲の目をますます気にしなくなっています。「結婚式用の車なし、花嫁を迎えに行く儀式なし、新郎新婦の付き添い役なし、長々としたスピーチなし」というシンプルな結婚式が、新たな流行となっています。新郎新婦は、本来なら結婚式会社に支払うはずだった数十万円を節約し、親しい友人だけを招いて、屋上でバーベキューパーティーを開いたり、小さなバーで集まりを開いたりしています。

 ウェディング写真も同じです。若者たちは、流れ作業のように量産される、どれも同じような写真に嫌気が差しています。それよりも普段着のまま、二人が出会った学校や、よく通った屋台で、飾らない瞬間を撮影し、本当の愛情を記録することを選んでいます。こうした「日常を記録するドキュメンタリー風」の写真が広がったことで、有名な観光地でのウェディング撮影を手がける大手企業は、最大の売りを一瞬にして失いました。

 さらに深刻なのは、今の若者が徹底した節約型の結婚準備を実践し始めたことです。通販サイト「1688」で約6300円(300元)のウェディングドレスを購入し、撮影後にはフリマサイトで約4200円(200元)で売ります。通販サイト「淘宝(タオバオ)」で数千円程度の背景用の布や風船を買い、親しい友人と一緒に手作りします。個人向けサービスの仲介サイトでカメラマンを探し、時間単位で依頼すれば、わずか数千円で物語性のある写真を撮影できます。

 若者たちが理性というはさみで、あらゆる価格の上乗せやバブルを容赦なく切り落としたとき、巨額の利益に慣れきった結婚式関連の大手企業が、資金繰りに行き詰まるのも無理はありません。

 8万6000社の倒産は、大きな警鐘を鳴らしています。

 時代の流れが変わり、この世代の若者が冷静にお金を使うようになれば、資本によって無理やり「なくてはならないもの」に仕立て上げられた商品は、真夏の太陽の下に置かれた氷の彫刻のように、急速に溶けていきます。

 若者たちは、愛することをやめたわけでも、ロマンチックな時間を必要としなくなったわけでもありません。ただ、画一的な流れ作業の中で操り人形のように扱われることや、他人に見栄を張るために重い借金を背負うことに、うんざりしただけなのです。

(翻訳・藍彧)