矢板明夫氏が台湾で襲撃された 台湾は中国の越境弾圧を強く非難.
インド太平洋戦略シンクタンクの矢板明夫代表(ネット動画のスナップショット)

 インド太平洋戦略シンクタンクの矢板明夫代表は、7月6日に台中で講演を終えた後、黒ずくめの男に暴行を受けた。

 犯人は同日午後、台中国際空港から出国しようとしたところを警察に身柄を確保され、逮捕された。容疑者は香港のパスポートを所持する中国籍の廖港発(リャオ・ガンファ)であると判明した。

 廖港発は犯行後、直ちに「任務成功」と報告し、「できるだけ早く台湾を離れろ」という指示を受けた。その後、着替えを行い、犯行時に着用していた服を捨て、空港へ逃走して出国しようとした。

 警察は大量の監視カメラ映像を分析し、迅速に彼の身元と逃走経路を特定した。特別捜査班は同日午後3時52分に彼の身柄を確保、逮捕したうえで、犯行に使用された黒い服やズボン、携帯電話、パスポートなどの証拠品を押収した。捜査の結果、廖港発は当初、翌日に飛行機で香港に戻る予定だったが、犯行後、急いで同日午後4時に韓国・釜山行きの便に予約を変更し、韓国を経由して出国しようとしており、あわやその企てが成功するところだった。

 矢板明夫氏は襲撃を受けた後の取材に対し、イベントは2日間にわたるもので自身の講演の具体的な日程は事前に公表されていなかったと説明した。そのため犯人は事前に入念な準備をしていたとみていると述べた。その後、同氏は投稿で、いかなる形の暴力や脅迫にも屈することなく、今後も台湾の自由と民主主義のために声を上げ、台湾と日本の友好関係を推進していくと表明し、「台湾は、誰も発言できなくなるような社会になってはならない」と強調した。

 『鏡週刊』の報道によると、この事件の黒幕は香港の暴力団「和勝和」の幹部である陳偉豪であり、彼は5万香港ドルで廖港発を雇って台湾へ行かせ、暴行を実行させたほか、資金の手配や人員の配置を担当し、自らは海を隔てて指示を出していた。廖港発は5人の共犯者を連れて台湾へ赴き、WhatsAppのグループチャットを通じて任務を割り当てるなど、現場の下見から実行、逃走に至るまで綿密に計画を練っていた。

 6人は入国後、講演会の会場となるホテルで個室を予約し、その機会を利用して会場のレイアウトやイベントの動線を把握した。犯行の前日、共犯者のうち4人は先に台湾を離れ、廖港発と見張り役の1人だけが台湾に残った。犯行後、見張り役は現場に残って警察の捜査の進捗を観察し、発見されることはなかった。その後、グループチャットで「警察の捜査は神速だ」と報告した。

 台中地方検察庁は、廖港発が計画的かつ金銭で雇われて国境を越えて暴行を加えたと認定し、その背後に中国共産党当局の指示があった可能性も排除していない。本件は高度な越境弾圧の性質を有しており、逃亡、証拠隠滅、共犯者や黒幕との共謀の恐れがあるとして、台中地方裁判所は廖港発に対し、面会禁止付きの勾留を認めた。本件は、中国共産党の『民族団結促進法』が7月1日に施行されてから1週間も経たないうちに、台湾で発生した初の越境弾圧事件と認定されている。

 国立成功大学の王宏仁教授はBBCに対し、以前から台湾社会では『民族団結促進法』がもたらす可能性のある影響について議論されていたが、今回の事件をきっかけに、「長腕管轄」に対する国民の懸念が一層高まったと述べた。同教授は、矢板明夫氏が台湾社会から大きな注目を集める公人であり、過去の発言の多くは台湾の立場に立っていたことを指摘し、事件発生後、社会全体で「今後、反中・親台の発言をすれば、同様の攻撃を受けることになるのではないか」という疑問が広まっていると語った。

 台湾大陸委員会は、本件は台湾在住の香港人・湯偉雄氏への赤いペンキかけ事件と性質が類似していると述べた。矢板明夫氏自身も、本件は数年前に台湾で香港人が暴力攻撃を受けた事件と多くの共通点があると見ている。台湾大陸委員会はプレスリリースを発表し、「政府は加害者を厳罰に処し、国境を越えた弾圧事件に効果的に対抗する。国民は安心してほしい。政府は国民に対し、中国共産党の最終目標が中華民国の消滅であることを認識するよう呼びかけるとともに、社会全体で中国共産党による台湾への越境弾圧を非難し、共に中国共産党に『ノー』と言うことを望んでいる!」と強調した。

 近年、台湾では、中国共産党およびその代理人が、著名な反体制派や香港人を攻撃、嫌がらせ、あるいは脅迫する事件が度々発生している。

 2017年、中国のオーディション番組「中国新歌声」が台湾大学でイベントを開催した際、陸上競技場が破壊され、授業妨害が行われた。抗議に駆けつけた台湾大学の学生が、中華統一促進党(略称「統促党」)と関係のある人物から、伸縮棒で頭部などの急所を攻撃される流血事件が発生した。

 2019年9月、香港の芸能人ホー・ユンシーが、反極権活動を支援する台湾・香港合同デモに参加した際、統促党と関係のある2人の男に頭、背中に赤いペンキをかけられた。

 さらに、香港・銅鑼湾書店の台北店店長である林栄基氏、亡命した香港人の就職を支援する台北のレストラン「保護傘Aegis」、そして「送中法案」反対運動の参加者である湯偉雄氏が台北に開設したムエタイ道場も、近年、正体不明の人物による赤いペンキの投げつけ、放火、あるいは意図的な破壊行為の被害に遭っている。

(翻訳・文遠)