刃のついた鉄条網が二重に積み上げられ、高さは大人の背丈に迫ります。刑務所や国境線、軍事制限区域でしか見られないような光景が今、中国の泰山の麓に広がっています。最近、「泰山を囲む135キロの鉄条網」という動画が中国のネット上で拡散し、大きな波紋を呼んでいます。全長135キロに及ぶ鋼鉄の障壁が、山東省の済南市と泰安市の境界にある泰山の非観光エリアを幾重にも封鎖しているのです。千年の歴史を持つ名山を囲い込んだ理由について、当局の説明は「防火と防虫」という簡単なものでした。

 麓を歩いた市民が撮影した映像には、ドラム状の螺旋鉄条網が二段に重なり、刃物のような鉄片がびっしりと並ぶ様子が映っています。公開資料によると、「泰山を取り巻く森林火災防止のためのゾーン」の整備を目的としたこの工事は全長135キロ、総工費はおよそ2519万元、日本円でおよそ5億円に上るといいます。

 泰山の管理委員会が示した理由は、防火・防虫に加え、未開発エリアへの観光客の無断立ち入りを防ぐためというものでした。2022年の時点で、管理委員会はこの鉄条網を「複数の防犯システム」の一部と紹介し、「800カ所以上の違法な入山ルートを封鎖した」と誇っていました。しかし、これに対して、世間から疑問の声が上がると、当局の態度は一転しました。地元メディアが電話取材を試みると、各部門は責任を押し付け合い、案内窓口は「相談業務のみを担当している」と答えるだけで、政策法規担当者は最後まで電話に応じませんでした。

 こうした「物理的に塞ぐだけ」の対策に、人々の怒りは収まりません。多くの市民やアウトドア愛好家は、この隔離網が野生動物の移動を妨げ、生態系を破壊するだけでなく、深刻な安全リスクを抱えていると懸念しています。万が一、本当に山火事が起きた場合、密集した鉄条網の中で救助隊はどうやって迅速に通行するのか、という根本的な問題です。

 さらに多くの人々は、「防火」は建前に過ぎず、本当の狙いは入場料の支払い逃れを防ぐことだと指摘しています。地元泰安市民の一人は、「泰山は数千年来、庶民の山だった。しかし、今では国境線並みの基準で、鉄条網で囲い込まれてしまった。これは、景観の破壊である。あまりにもやりすぎだ」と嘆きました。

 SNS上でも批判は高まる一方です。「太陽や月まで囲い込めるなら、彼らは必ず囲って入場料を取るだろう」という皮肉も見られます。さらに、5億円超が投じられた工事の背後に利権構造があるのではと疑う声もあり、「この工事費を回収するには、いくら入場料を集めればいいのか。つまり入場料収益ではなく、工事そのものを行うことが目的だったのだ」という鋭い書き込みもありました。今のところ、確たる不正の証拠はありません。しかし、これほどの公金を使ったことが全面的な反発を招いたということには依然として、多くの疑問が残されています。

 そして、こうした事態は泰山だけではありません。近年、本来は社会全体のものであるはずの自然景観を囲い込み、入場料を強制的に徴収するやり方が、中国各地で繰り返されています。

 2023年、中国第2の規模を誇る黄河の壺口瀑布では、陝西省と山西省の両側の幹線道路沿いに、高い鉄板とレンガの壁が築かれました。それまでは、道路が黄河に隣接しているため、通りがかりに滝の迫力を楽しめました。しかし、視界は壁が作られたことによって完全に遮られました。これに対し両省の当局は「観光客の安全」と「落石防止」を理由に挙げましたが、ネットユーザーは即座に「何故、落石防止に適していない、鉄板やレンガの壁を使うのか。これは明らかに『のぞき見防止の壁』だ」と反論しました。

 同じ2023年、雲南省の梅里雪山国立公園を通る国道沿いにも、巨大な「景観を遮断する壁」が築かれました。観光客は道路から梅里雪山を全く見ることができず、チケットを買って専用の展望台に入るしかありません。これに対し、地元の観光局は、入場料でインフラ費用を回収するためだと悪びれずに認めました。この理由は、まるで通行料を要求する山賊のようだと、大炎上し、管理者側は最終的に、通過する観光客への無料開放を発表せざるを得なくなりました。

 こうした前例があっても、囲い込みの風潮は止まっていません。2024年5月には、「東洋のモルディブ」と称される青海省の東台吉乃爾湖で、網状のフェンスが増設され、周辺に深い溝まで掘られていることが暴露されました。関係者は当初「鉱区の安全確保のため」と釈明しましたが、痛烈な批判を浴びた後にようやく謝罪し、無料の観光ルートを開設することを約束しました。壺口瀑布のレンガ壁、メイリ雪山の遮断壁、東台吉乃爾湖の深い溝、そして泰山の鉄条網。これらの根底にある考え方は全く同じです。「チケットを買わなければ、景色は見せない」。名高い山や大きな川は本来、自然が社会全体に与えた公共の財産です。維持管理や安全確保のために合理的な費用を徴収することは理解できます。しかし、それが強制的な収益の手段へと転じてしまっているのです。

 泰山では、歴代の皇帝が国の安泰と長久を祈る封禅の儀式で天を祭り、多くの文人が高みから遠くを眺めてきました。数千年の間、この山に壁は必要ありませんでした。しかし今、135キロの鉄条網が山を幾重にも縛り付けています。囲う必要のなかった名山が、大金を投じて厳重に守られる場所へと変わった時、失われるのは風景だけではなく、人々の親しみと信頼なのかもしれません。

(翻訳・吉原木子)