中国恒大集団の債務問題は、依然として波紋を広げ続けています。今年4月には、グループの許家印会長が違法な資金調達や詐欺など8つの罪に問われて深センの裁判所に出廷しました。その一方で、深センから2000キロ離れた海南省儋州市では、かつて彼が挑んだ「世紀の大博打」の舞台がすっかり色褪せていました。総額1600億元、日本円で約3兆4000億円を投じ、ドバイのパーム・アイランドに対抗して建設された人工島である「世界的な海上新都市」海花島です。

 資金繰りの悪化に伴い、島内では多くのプロジェクトの工事がストップしました。夜になると広大な住宅群は真っ暗に沈み、明かりが点くのはごくわずかな部屋だけです。かつて「世界が憧れるリゾート地」と宣伝されたこの人工島は、今や中国北部などからやってくる定年退職者たちの季節限定の滞在によって、辛うじて人気を保つ状態です。そのため、いつしか季節に合わせて移動する「渡り鳥の島」と呼ばれるようになりました。

 振り返れば、海花島には当初、極めて高い期待が寄せられていました。当初の計画では、メインとなる1号島を「国際レベルの大型総合観光エリア」と位置づけ、国際会議センターや複数の博物館、子供向けテーマパーク「童世界」などを建設する予定でした。そして、その1号島から両翼に広がる2号島と3号島を居住エリアとして計画されていました。地元である儋州市政府もこの事業に大きな期待を寄せていました。10万人の雇用と年間200万人の観光客をもたらし、海南省西部の経済を牽引すると見込んでいたのです。

 しかし現実は、その青写真とは全く異なるものでした。現在、島内では数々の巨大建築物が、未完成のまま放置されています。全国最大規模を謳っていた免税ショッピングモールは未だ正式に開業していません。固く閉ざされたガラス扉越しに、室内で積み上げられたままの内装材が見えます。「世界最大の童話テーマパーク」と宣伝された「童世界」も、一年中ゲートが閉ざされたままです。従業員によると、園内のアトラクションはもう何年も動かされておらず、祝祭日などに正面ゲート前の大通りでちょっとしたイベントを開き、なんとか体裁を取り繕っている状態だといいます。さらに深刻なことに、一部の従業員は昨年から給与が未払いのままで、その請求先すら分からず泣き寝入りを強いられています。

 観光を主力とする1号島は島の顔であるだけに、理想と現実の落差がより顕著に表れています。5月のメイデー労働節連休のような短い繁忙期が過ぎると、商業エリアはあっという間に閑散としてしまいます。恒大が多額の資金を投じて作り上げた、中国の伝統的な水郷らしさあふれる風情ある街並みも、結局のところ安定した人出と活気を生み出すには至りませんでした。店舗の家賃は歩合賃料を採用しているため、閑散期は収入が激減します。そのため、多くのテナントは普段は店を閉め、繁忙期にだけ辛うじて営業するか、中にはそのまま賃貸契約を解除して撤退してしまうケースもあります。

 この厳しい現状を最も如実に物語っているのが、ランドマークでもあり「中国最大の単一ホテル」を謳うキャッスルホテルです。このホテルは5000室以上の客室を有していますが、開業から今日に至るまで、一度も満室になったことがありません。平日は時折やってくる観光バスのツアー客頼みで、個人客の姿はまばらです。ある売店の店員は、一晩中待ってもお客さんが一人も来ない日すらあるとこぼしていました。長期にわたる客数不足により、ホテルの従業員数は開業当初の2000〜3000人から、今では数百人にまで激減しています。

 とはいえ、海花島は完全に機能停止したわけではありません。当初の設計図とは全く違う形で息づいているのです。車で2号島に入ると高層マンションが建ち並ぶエリアになります。しかし、入居率は驚くほど低迷しています。夜になっても、マンション一棟の中で明かりが点いているのは十数戸だけということも珍しくありません。街路には「賃貸・売買」のチラシが所狭しと貼られた不動産仲介店が点在しています。その前を高齢者用の電動シニアカーが行き交っています。家賃は閑散期になると驚くほど値崩れします。22平方メートルのワンルームの家賃は月額500〜600元日本円で約1万円強にまで下がり、室内から海が見えるオーシャンビューの民宿でさえ一晩100元日本円で約2000円にも満たない価格で泊まれます。そして、まさにこの破格の安さが、毎年冬になると寒さを逃れてやってくる中国北部の「渡り鳥の様に季節ごとに住居を変える」人たちを大量に惹きつけているのです。

 湖南省からやってきた定年退職者の汪さんは、月額1300 元日本円で約3000円で3LDKのオーシャンビューの部屋を借りています。彼女がここに避寒目的で訪れるのは、今回で2度目だそうです。ただ、こうしたシニア層の消費が支えられている賑わいには季節性があります。気候が暖かくなると、渡り鳥たちは次々と北へ帰る様に、この広大な島から、人影自体がほとんど見えなくなってしまいます。

 こうして、海花島は数奇な運命をたどることになりました。本来は中国のドバイになるはずが、最終的に高齢者たちが冬を越すための避寒地になってしまったのです。設計者たちが思い描いた、世界中の観光客で溢れ返る海上新都市は実現しませんでした。その代わりに現れたのが、湖南省や中国東北地方などからやってきた高齢者たちです。彼らは冬の間、わずか千数百元日本円で約1万円強で「海辺の景色」を借り切り、数ヶ月滞在した後、季節の移り変わりとともに島を去っていきます。許会長が賭けた1600億元、日本円で約3兆2000億円という巨額の資金は、結局のところ、彼が望んだ幻の都市を手に入れることはできませんでした。

(翻訳・吉原木子)