中国の不動産市場が絶頂期を迎えていた頃、雲を突き抜けるような超高層ビルは、地方政府にとって最も華やかな「都市の名刺」でした。しかし、不動産市場の低迷が長期化し、土地財政の時代が終わりを迎えつつある今、かつて数千億円もの巨費を投じて建設された「地域一の超高層ビル」は、次々と空中で工事が止まった未完成建築へと姿を変えています。それは、中国の土地財政バブルが残した最も衝撃的な実物の証拠となっているのです。
天津117大厦(てんしん117タワー)、正式名称「高銀金融117ビル」は天津市西青区に位置し、117階建て、高さ596.5メートルで計画されました。高さではドバイのブルジュ・ハリファに次ぐ規模で、中国国内では構造上の高さで第1位、全高では第3位を誇る超高層ビルでした。このプロジェクトは、オフィス、ホテル、商業施設、観光機能を一体化した複合施設として計画され、総投資額は約1兆6000億円(700億元)に上りました。2008年に着工し、当初は2017年の完成・引き渡しが予定されていました。
当時、このビルには大きな期待が寄せられていました。天津浜海新区の対外的なシンボルであるだけでなく、地方政府が「ランドマーク経済」を通じて土地価格を押し上げ、資本を呼び込むための切り札でもあったのです。土地財政という論理のもとでは、超高層のランドマークは周辺地価の上昇、税収の増加、都市格の向上をもたらす存在とされ、地方官僚にとっては重要な実績づくりの象徴でもありました。しかし、この巨大プロジェクトは最終的に未完成のまま頓挫しました。
施工を主導していた香港の高銀グループは、事業を進める中で資金繰りが行き詰まり、2015年に工事は全面停止されました。その後も長期間放置されたままとなり、現在に至るまで完成していません。かつて「北方一の超高層ビル」と称賛されたこの建物は、今では「世界一高い未完成ビル」と皮肉られる存在となっています。
この巨大ビルの停止は、単なる一企業の経営危機ではありません。天津市全体が抱える財政難の縮図でもあるのです。粤開証券が2023年4月に発表したマクロ経済研究報告によれば、2022年時点で天津市の地方政府債務残高は約20兆円(8645.5億元)に達し、債務率は295.1%と全国で最も高い水準でした。
近年、天津の債務負担は拡大を続けており、その財政圧力の深刻さは誰の目にも明らかです。未完成に終わった117タワーと、天津が抱える抜本的な解決が難しい債務構造との間には、切っても切れない関係があります。土地財政が潤っていた時代、地方政府は土地を信用の担保として巨額の資金を動員し、ランドマーク建設に投じてきました。しかし、不動産バブルが崩壊し、土地売却収入が急減すると、この資金調達の仕組みは突然行き詰まったのです。その結果として残されたのは、数千億円規模の埋没費用と、誰にも顧みられない巨大な鉄骨の塔でした。
天津117タワーは決して特別な例ではありません。ネット上で拡散された「未完成の高さ450メートル超の超高層ビル一覧」によると、中国各地には、現在も完成していない、工事停止中、あるいは未完成のまま放置された超高層プロジェクトが数十件存在しています。深セン、上海、広州、成都、南京、武漢、瀋陽、大連、福州、西安など主要都市に広がっており、これらのプロジェクトは最盛期には「中国一の高層ビル」「華中一の高層ビル」「北方一の高層ビル」といった看板を掲げ、大々的に投資を呼び込んでいました。しかし現在では、相次ぐ工事停止、高さの縮小、計画変更といった苦境に陥っています。
一覧を見ると、多くのプロジェクトは「工事停止中」「未完成のまま放置」「事実上放棄」といった状態にあります。正式に未完成案件とされていないプロジェクトであっても、市場需要の縮小、オフィスや商業施設の空室率の高止まり、資金調達環境の悪化などを背景に、長期間にわたって工事が遅々として進まない状態にあります。中には「基礎部分しか存在しない」ものさえあります。かつて地方の野心と不動産繁栄の象徴だった超高層ビルは、今や不動産バブル崩壊、土地財政の終焉、そして地方債務危機を最もわかりやすく示す歴史の遺物となりつつあります。
この未完成の超高層ビルが相次ぐ背景には、歪んだ論理が存在します。過去20年間、中国の多くの都市は土地売却収入に大きく依存しながら経済成長を続けてきました。その中で、超高層ランドマークは土地の価値を押し上げる重要な道具とみなされてきたのです。「地域一の高層ビル」が完成すれば周辺地価が上昇し、企業誘致が進み、GDPや都市ランキングも上昇する。不動産市場が絶頂期だった頃には、「高層ビル競争」は地方政府同士の異色の実績争いとなり、「どちらのビルが高いか」「どちらの都市の方が格上か」を競い合う歪んだ文化さえ生まれました。
『北京日報』はかつて、一部の地方政府が「地域一の高層ビル」や「都市のランドマーク」といった実績づくりに過度に執着し、その地域の産業基盤や人口規模、実際の市場需要を軽視していると指摘しています。しかし、「ランドマーク経済」を信奉する官僚たちは、超高層ビルがもたらす経済効果を過大評価していました。多くの都市では、すでに商業施設やオフィスの供給が需要を上回り、空室率も高止まりしていたにもかかわらず、新たな超高層ビルの建設が続けられました。その結果、「ビルが高くなるほど損失も大きくなる」という悪循環に陥っていったのです。
中国西部のある開発区管理委員会の幹部はこう語っています。「超高層ビルは建設時に莫大な人員、資材、資金を必要とするうえ、完成後も維持管理に高額な費用がかかる。ひとたび市場需要が弱まったり、景気が悪化したりすれば、こうしたプロジェクトは簡単に行き詰まり、未完成のまま放置されてしまう」。さらに深刻なのは、監督体制の機能不全とリスク評価の欠如です。
多くの地方政府は、投資誘致や認可の段階で、デベロッパーの実際の財務状況、将来的な市場需要、資金調達リスクなどを十分に審査していませんでした。中には、政策上の許可、航空管制上の承認、必要資金の確保といった重要な問題が整理されないまま、見切り発車で着工したプロジェクトも存在します。そうした無理な計画が、後の未完成案件の火種となり、最終的には巨額の債務の穴を生み出していったのです。
天津で工事が止まった超高層ビルから、全国に点在する未完成の超高層ビルまで、この20年に及んだ「超高層ビルブーム」は、いま避けられない終幕へと向かっています。かつて都市の野心をその高さで示していた巨大な鉄骨の建造物は、今では別の形で中国の都市風景を象徴しています。それは繁栄の象徴ではありません。一つの時代の終わりを静かに見届ける、沈黙の証人なのです。
土地財政という宴はすでに終わりました。残されたのは、宙づりになった鉄筋、埋めることのできない債務の穴、そして未完成マンションの「復活」を待ち続ける一般の住宅購入者や債権者たちです。この「コンクリートの遺産」をいかに処理していくのかは、今後、中国政府の統治能力そのものが問われる大きな課題となるでしょう。
(翻訳・藍彧)
