中国人観光客は半減したにもかかわらず、日本の観光収入は過去最高を更新しました。これは偶然なのでしょうか。それとも、北京の計算が完全に外れたのでしょうか。

 日本政府観光局が最新の発表で示した数字は、中国政府にとってかなり都合の悪いものかもしれません。高市早苗首相が「台湾有事は日本有事」と発言したことを受け、中国当局は日本への報復措置を打ち出し、国民の訪日旅行を徹底的に制限しました。その結果、2026年上半期の中国人観光客は前年同期比56.4%も激減し、205万8200人にとどまりました。6月単月でも、前年同月を下回るのは3か月連続となっています。

 本来なら深刻な打撃を受けているはずですが、実際はまったく逆でした。この期間、訪日外国人旅行者の総数は2.0%減の2108万4800人にとどまり、旅行消費額はむしろ1.3%増の4兆8469億円となって、再び過去最高を更新しました。

 では、その穴を埋めたのは、いったい誰なのでしょうか。

 答えは、韓国、台湾、東南アジア、そして欧米からの観光客です。2026年上半期の韓国人観光客は567万5100人で、前年同期比18.6%増となり、国・地域別で最多でした。台湾からの観光客は397万2200人で、20.9%増加しました。2026年第1四半期の消費額を見ると、台湾は3884億円に達し、長年首位を占めてきた中国を初めて上回り、すべての国・地域の中でトップとなりました。同じ時期、中国人観光客の消費額は50.4%も激減し、2715億円にとどまっています。一方、ベトナム人観光客の1人当たり消費額は56.6%増の38万円近くに達するなど、新興国からの伸びも著しく、アメリカやオーストラリアからの消費額も2桁の伸びを記録しました。

 ただし、訪日客総数が5年ぶりに減少したのは、中国人観光客の激減だけが原因ではありません。中東情勢の緊迫化による原油高や航空便の削減も、複数の国からの訪日意欲に影を落としました。それでも旅行消費額は、逆風の中で過去最高まで押し上げられたのです。

 もちろん、多様な国や地域から観光客が訪れる一方で、懸念がまったくないわけではありません。ベテランジャーナリストの矢板明夫は、ほとんどの旅行者は純粋な目的で訪れているものの、旅行や交流を名目に情報収集や統一戦線工作を行ったり、国外にいる反体制派に圧力をかけたりする人物も確かに存在すると警告しています。特に、日本以上に台湾が警戒すべきだと指摘しました。すべての人の善意を過度に信じることこそ、民主社会の最大の弱点だというのです。

 矢板明夫は、中国人観光客が激減したにもかかわらず、日本の観光収入が過去最高を更新した主な理由は、台湾、韓国、東南アジア、欧米からの観光客が急速に市場の穴を埋めたためだと分析しています。しかも、これらの観光客は滞在期間が長く、消費力も高い傾向があります。矢板明夫はこう述べています。「日本はようやく証明した。成熟した観光市場は、どこか一つの国に運命を縛り付ける必要はない」

 なぜ、この言葉は中国政府にとって耳の痛いものなのでしょうか。それは、中国共産党が長年用いてきた一つの論理を突き崩したからです。観光や貿易を武器として利用し、相手国に政治的な譲歩を迫るという手法です。訪日旅行の制限や水産物の輸入禁止といった措置は、北京が過去に台湾や韓国に対しても使ってきた手段です。

 2017年、韓国が高高度防衛ミサイルシステム(THAAD)を配備した際、中国は韓国への団体旅行を全面的に禁止しました。配備用地を提供したロッテグループも、中国国内で不買運動の対象となりました。この報復措置は6年間も続き、北京が団体旅行を正式に解禁したのは2023年8月になってからでした。韓国銀行の試算によると、この一件は2017年の韓国のGDPを約6750億円押し下げました。

 しかし、今回、日本が示した結果は、中国共産党が常用してきたこの手法の前提が崩れつつあることを証明しています。その前提とは、相手国の経済構造が中国に深く依存しており、中国から取引を断たれれば、その打撃に耐えられないというものです。 

 こうした変化は、観光業だけで起きているわけではありません。近年、中国で複数の日本企業幹部が突然拘束されたほか、北京は台湾海峡や尖閣諸島周辺海域で挑発的な行動を繰り返してきました。これにより、日本の経済界が抱いてきた「政治と経済は切り離せる」という幻想は完全に打ち砕かれました。日産は江蘇省常州の工場を閉鎖し、中国での生産能力を約1割削減しました。ホンダも合弁工場を閉鎖し、人員削減に踏み切りました。三菱自動車、トヨタ、ソニー、パナソニックなども、生産縮小や拠点移転を相次いで進めています。

 日本政府も補助金で、企業の国内回帰やインド、ベトナムなど代替拠点への移転を後押ししています。「チャイナ・プラスワン」は、いまや徹底した「脱中国」へと変わりつつあります。世論調査でも長年8割超の国民が中国共産党に否定的で、こうした社会的合意が政府や企業を後押ししています。

 韓国がTHAADをめぐる報復によって6年間も暗い影に覆われた事例と、日本の観光業が逆風の中で過去最高を更新した事例を比べると、その差は一つの明確な答えを示しているのかもしれません。訪日客の出身国・地域や産業構造の多様化を本気で進めれば、経済関係の切り離しを武器にした政治的圧力の効果は、いずれ限りなくゼロに近づいていくということです。

 しかし、中国共産党が今後も市場を武器として振り回し続けるなら、次に代償を支払うのは、いったい誰なのでしょうか。

(翻訳・藍彧)