今年、中国本土を襲った中で最も強い台風9号「バービー」が、中国東部の沿岸地域に巨大な傷痕を残しています。わずか24時間で沿岸部の交通網はほぼ全面的にまひし、200万人を超える住民が自宅を離れ、安全な場所への緊急避難を余儀なくされました。

 この巨大台風は、いったいどれほどの被害をもたらしたのでしょうか。沿岸部の住民は、どのような恐怖の一夜を過ごしたのでしょうか。そして専門家たちは、なぜこれがさらに大きな災害の始まりにすぎない可能性があると警告しているのでしょうか。今回は、実際のデータと現地の記録をもとに、一国の国土にも匹敵する超巨大台風の猛威に迫ります。

 まずは、息をのむような数字をご覧ください。

 台風9号は、最も広い部分で驚異の1000キロに達しました。1000キロとは、どれほどの大きさなのでしょうか。フランス本土の東西の幅に匹敵します。この巨大な台風は、7月12日の日曜日、中国東部の沿岸地域に猛烈な大雨をもたらしました。その進路上には、人口1000万人を超える巨大都市が次々と並んでいます。これほどの自然の脅威を前に、人々に残された選択肢は、逃げることしかありませんでした。

 現在までに、この台風によって240万人を超える住民が緊急避難を余儀なくされました。最も大きな影響を受けた浙江省では220万人以上が避難し、浙江省の南に位置する福建省でも約20万人が避難しました。その北側に位置する上海市と江蘇省でも、数千人が深夜に起こされ、緊急に安全な場所へ移されました。240万人という規模は、ヨーロッパの中規模都市の住民全員が一斉に移動するほどの人数です。

 台風が陸地を本格的に襲ったのは、11日土曜日の午後11時12分でした。まず浙江省沿岸部の台州市に上陸し、その後、日付が変わる前後には温州市を激しく襲いました。上陸時、中心付近の最大風速は時速108キロから117キロに達していました。その後、内陸部へ進むにつれて熱帯低気圧へと勢力を弱めましたが、あまりにも巨大なため、すぐに消滅することはありませんでした。

 「昨夜、上陸した時の風は非常に強かった。屋根の瓦や木の枝が落ちる音が聞こえた」

 これは、浙江省楽清市の住民、李良興さんがロイター通信の取材に語った言葉です。海辺で育った住民たちは台風には慣れていましたが、それでも台風9号の猛威には恐怖を感じたといいます。

 李良興さんは、自宅の住宅団地のそばを流れる増水した川を指さし、これほど水位が上がったのは生まれて初めてだと語りました。住民が散歩に利用していた川沿いの遊歩道は、今では濁流の中に完全に沈んでいます。

 現在までに確認されたデータによると、楽清市だけで1300本を超える木が暴風によって倒れ、そのうち700本以上が根元から引き抜かれました。市街地では、最も深い場所で浸水が車のタイヤの半分ほどの高さまで達しています。さらに楽清市北部の山間部では、状況は一層深刻です。土砂崩れによって巨大な岩が激しい音を立てながら落下し、山道をふさぎました。急激に増水した川は、岸辺の木々を瞬く間にのみ込みました。

 地上の被害だけではありません。この台風は交通網にも壊滅的な打撃を与えました。

 台風が上陸した土曜日の午後8時までに、各航空会社は安全上の理由から、2800便以上を欠航させました。

 国際的な航空拠点である上海市では、浦東国際空港と虹橋国際空港の2つの空港で650便以上が欠航しました。これは、両空港の運航能力の3分の1が一瞬にして失われたことに相当します。浙江省杭州市では、主要な2つの鉄道駅がすべての運行を停止し、杭州蕭山国際空港でも296便が欠航しました。長江デルタ地域全体の交通網は、台風が到達する前からほぼまひ状態に陥っていました。

 台風が上陸して勢力が弱まれば、もう安心だと思っているなら、それは大きな間違いです。専門家たちは、内陸部での本当の危機はこれから始まると警告しています。

 香港城市大学エネルギー・環境学部のベンジャミン・ホートン学部長は、ロイター通信の取材に対し、次のように明確に指摘しました。

 「台風が上陸後に勢力を弱めても、巨大な雲の渦は残り、数百キロ離れた内陸部でも被害をもたらす異常気象を引き起こす可能性がある」

 中国中央気象台の警報によると、浙江省の西に位置する安徽省では、南部の一部地域で24時間の降水量が250ミリから350ミリに達する可能性があります。つまり、これらの地域では、場所によっては半月分、あるいは数か月分に相当する雨が、わずか1日のうちに降ることになります。

 大雨は安徽省、浙江省、江西省、福建省を襲うだけでなく、さらに北上し、江蘇省、山東省、さらには中国東北部の一部地域にまで広がる見通しです。この大雨は、少なくとも7月14日まで続くと予想されています。豪雨によって、内陸部では洪水や土砂崩れ、都市部の浸水が発生する危険性が一気に高まっています。

 同時に、東シナ海の一部海域と中国東部の沿岸地域では、中国の風力階級で12級に達する猛烈な突風も吹いています。沿岸部の海運業や水産養殖業は、深刻な影響を受けています。

 なぜ近年の台風は、これほど異常で予測しにくくなっているのでしょうか。

 専門家たちは深刻な警告を発しています。今後、エルニーニョ現象の発生が予想される中、異常気象はさらに増えていくとみられています。エルニーニョ現象は世界の気温を上昇させるだけでなく、台風の進路を全体的に西へずらし、中国東部沿岸の人口密集地域を、これまで以上に直接、そして頻繁に襲う可能性があります。

 ホートン教授は、現在の台風にはもう一つ恐ろしい特徴があると指摘しています。それは、短時間で急激に勢力を強めることです。これにより、地域住民や防災担当者に残された準備時間は大幅に短くなり、災害への対応は毎回、一刻を争う生死を懸けたものになります。

 フランスの国土にも匹敵する巨大台風を前に、避難した240万人の住民は、いつ自宅へ戻ることができるのでしょうか。内陸部の洪水被害は、いったいどこまで広がるのでしょうか。今後も最新の動きを追っていきます。

(翻訳・藍彧)