イメージ:shimanto / PIXTA(ピクスタ)

 世の中の多くの夫婦にとって、結婚生活を如何に維持するかという問題に直面することもあるでしょう。日常の些細なことも、塵も積もれば山となるように、愛し合っている二人の間にも揉めごとは起こりやすく、離婚まで考えてしまうこともあるようです。

 これは、海外のベッキー(Becky Zerbe)さんが書いた自分の物語です。ベッキーは夫と離婚しようとした時の母のある行動で、その心境が一変したのでした。

 ベッキーは、「この結婚生活はもう限界」と言いながら、夫のビルが会社に行った後、荷物をまとめ、1歳2か月の息子を連れて実家へ向かいました。

 母に会った途端、涙が止まらなくなったベッキーは激怒しながら、「絶対離婚して、自由を取り戻す」と誓い、心の靄を一気に発散しようとしました。

 母は、ベッキーのヒステリーを静かに受け止めてから、「ビルさんと別れる前に、私のために次のことをやってほしい」と言いました。

 母は一枚の紙を持ち出して、ベッキーに紙の真ん中にラインを描かせて、その左側に、ビルの全ての欠点と過ちを書かせました。

 ベッキーは「無駄なこと。後できっと、右半分にビルの長所を書かせるつもりね。」と思いました。

 それでも、ベッキーはどうしても我慢ならない欠点をさんざん書き並べました。まるでビルは何もできないろくでなしであるかのように。

 「洗濯は一切しない。出かける時に行き先を言わない。教会でうたたねをする。鼻をかむときいつも大きな音を出す。街中で唾をはく。プレゼントを一切買ってくれない。貧乏でしょうがない。服や靴下の片づけを一切しない。家事の手伝いもしてくれない。開き直って私と話そうとしない。私のやることに一切関心を持たない」等々。これは氷山の一角に過ぎず、まだまだあるとベッキーは思いました。

 書き終わって、どんな女性もこんな最低な男に我慢できるはずがないと確信したベッキーは、興味のない様子で、「次は長所を書くんでしょう、母さん?」と聞きました。

 しかし母はそれを否定し、「いいえ。もう十分わかったから次はこうしましょう。ビルはこれらの過ちを犯してしまったとき、あなたはどのような反応をしたか、どのような対応をしたか、そしてその時の心境を書いてみて。」

 ちょっとだけ驚いたベッキーは頑張って思い出し、そして書きました。「怒った顔。嫌悪の顔。泣く。ヒステリー。恥ずかしい。大声を出した。ビルと別れたい。ビルは私の夫にふさわしくない…」

 書き終わるまでに、ずいぶん時間がかかりましたが、母は書き終わった紙を真ん中のラインに沿って切り分けて、「反応・対応」の方をベッキーに渡しました。

 「今日のところはもう寝ましょう。明日の朝、自分が何を書いたかを読んで、ビルさんに会いに行ってきなさい。しばらくの間、息子の面倒は見るから心配しないで。その紙に書いた反応や対応じゃない方法で、ビルさんに会ってみて。それでもビルさんから離れたいなら、うちに帰っておいで。いつでも味方になるから。」と母は言いました。

 翌日の朝、ベッキーは「反応・対応」の紙を繰り返し読んでみました。ビルの欠点や過ちに対する自分の反応はこんなにもネガティブで、中には驚くほどひどい考えもあると、ベッキーは改めて感じました。

 ビルが見ていた自分の姿が見えてきたベッキーは、「ビルの我慢できない欠点を忘れることはできないが、それと同時に、我慢ならない自分の姿も見えた。」と言いました。

 ベッキーはここ最近、自分はずっとネガティブな気持ちに囚われていたことに気づきました。ビルは確かに完璧な人ではないけれど、かつては結婚するほど愛していた人です。「私は急に怖くなりました。私はこの縁を断ち切ろうとしていたのです。息子の人生から父親を奪おうとしていたなんて、信じられない!」とベッキーは言いました。

 ベッキーは悟りました。肝心なのは、ビルの犯したミスではなく、自分の対応だということを。自分から態度を変えないと何も始まらないし、相手も変わるはずがないと。

 ビルは相変わらずすごく嫌な欠点を持ち、どうしようもない過ちを犯すけれど、ベッキーの態度は徐々に変化し、視点を変えたことで、ビルにもいい影響を与えました。二人はまだ落ち着いて話すことができるのだと、ベッキーは気づいたのでした。

 「私はすごく感激しました。母の知恵で私の家庭が救われました。その方法はすごく簡単でつまらない方法でしたが、意外とちょうどいいタイミングでちょうどいいアドバイスをしてくれました。」

 ビルとベッキーは仲直りをし、二人の結婚生活もだんだんと正常になっていきました。しかし、ビルは49歳になった時、アルツハイマー型認知症と診断されたのです。ビルはこの世界から消えつつあるのだと、ベッキーは感じました。

 ある日、家でビルの介護をするベッキーに、息子が聞きました。「母さん、もしいつの日か、父さんが僕たちのことを忘れてしまったらどうする?」

 ベッキーは「構わないわ。私たちが、父さんのこと、父さんを愛していること、父さんが私たちのためにしてくれたこと、父さんが私たちを愛していたことを、ずっと覚えていればそれでいいのよ。」と答えました。29年間の結婚生活を共に歩んで来られたことが、「すごく幸せ」とベッキーは言います。

 いつも話し合いをすることが、揉めごとをなくす最善の方法です。人差し指で人を指している時に、その他の4本の指が自分のことを指していることを忘れないでください。

 揉めごとは、必ずしも一方的な過ちではありません。自分を省みることは、人生の永遠の課題なのです。

(翻訳・常夏)