中国四川省では、ある人たちが約200億円(10億元)を投じ、内陸の川のほとりに実物大のタイタニック号を再現し、いわゆる没入型(ぼつにゅうがた)の歴史体験を売り物にしようとしました。
ところが今、その構想そのものが沈もうとしています。
2026年3月、プロジェクトの投資会社である永楽七星文化旅遊開発有限公司、(以下「七星公司」)が正式に破産を発表しました。四川省の郪江(しこう)の岸辺に係留され、11年以上にわたって工事が続けられてきたこの巨大な模造船は、これで完全な未完成プロジェクトになったと見られています。さびだらけの鉄の船体、誰もいない工事現場、そしてかつて大々的に掲げられた華やかな宣伝計画。その落差は、見る人に強いむなしさを感じさせます。
このプロジェクトは、当時の中国に特有の大きな夢と勢いに満ちていました。
2014年5月、タイタニック号を再現する工事は、郪江の岸辺で正式に始まりました。この事業は、地元の「ロマンチック地中海」景区の第1期中核プロジェクトとされ、七星公司が出資し、中国船舶重工集団傘下の武昌造船所に建造を委託しました。民間資本と国有造船企業の技術が組み合わさったこの体制は、当時、プロジェクト実現の強い後ろ盾と見られていました。
当初の計画では、この模造船は歴史上のタイタニック号を1対1のスケールで忠実に再現することになっていました。船体の全長は約269メートルから270メートル、幅は28メートル、キールからブリッジまでの高さは31.7メートルに達し、使用する鋼材の総量はおよそ5万トンに上るとされていました。
内部には宴会場、劇場、豪華な一等船室、展望デッキ、プールなどを設け、細部に至るまでヴィクトリア朝時代の雰囲気を再現するとされていました。
七星公司の蘇紹俊(そ・しょうしゅん)董事長は、プロジェクト開始当初、自信に満ちた様子でした。彼はかつて公の場で、鋼板の厚さから水洗トイレ、タイルの様式に至るまで、すべてを100年前の本物と一致させると語っていました。観光客に、まるで本当にあの伝説の豪華客船に乗り込んだかのような体験をさせるというのです。
プロジェクトの総投資額は約200億円(10億元)。当初の建設期間は2年で、2017年に完成し、一般公開される予定でした。主催者側は開幕式を「初航海」と呼び、メディアからも大きな注目を集めました。
しかしその後、完成時期は何度も先送りされ、明確な完成予定日は示されないままでした。
2024年になって、問題はついに表面化します。市民がプロジェクトの見通しについて地元政府に問い合わせたところ、大英死海観光リゾート区の管理部門は、かなり直接的な回答を出しました。投資会社の資金繰りが行き詰まったため、プロジェクトは一時的に工事を停止している、という内容でした。
2025年に入ると、工事停止の状況はSNS上で広く拡散されるようになります。市民が撮影した大量の空撮動画には、この「巨大客船」が郪江の岸辺のドック内に静かに停泊している様子が映っていました。船体の基本的な輪郭はできているものの、鉄の表面にはさびが広がり、腐食の跡がはっきり見えます。周辺の足場やクレーンも長く放置されたままで、広大な工事現場には人影がなく、荒れ果てた雰囲気が漂っていました。
世論の圧力が高まる中、蘇紹俊はなおもプロジェクトを支えようとしました。2025年5月、彼はメディアの取材に対し、プロジェクトが未完成のまま終わったという見方をはっきり否定し、工事は「再開に向けて準備中」だと主張しました。しかし、資金の出どころや工事停止の理由といった核心部分については、「明かすのは不便だ」として説明を避けました。
この発言の後も、プロジェクトに実質的な進展はありませんでした。
2026年3月、七星公司が正式に破産手続きに入り、すべては事実上決着しました。蘇紹俊はその後、会社が保有していた水力発電関連の資産をすべて売却し、ほぼすべての資金をこのプロジェクトに投じたものの、それでも事業を続けることはできなかったと認めています。
この船そのもの以上に考えさせられるのは、景区全体の計画が完全に頓挫したことです。
「ロマンチック地中海」景区の全体計画は、タイタニック号の模造船1隻だけにとどまるものではありませんでした。現場の状況を見ると、景区の入口付近に計画されていたヨーロッパ風の建築群は、その多くが今も完成していません。一部の建物は屋根さえ完成しておらず、典型的な「未完成工事」となっています。園内は管理も行き届かず、雑草が生い茂っています。
つまり、模造船そのものがどうなるか以前に、景区全体の観光開発構想がすでに失敗したということです。
未完成の実態が明らかになると、世論の反応は速く、かつ厳しいものでした。多くのネットユーザーは、そもそもの発想に疑問を投げかけました。
「沈没した客船を復刻して写真撮影スポットにするだけでは、長期的な魅力に欠ける」
「不現実な模倣にすぎない」
また、投資判断そのものを疑問視する声もあります。
「約200億円(10億元)は一体どこへ行ったのか。これほど多くの金を使って、結局何も残らなかったのではないか」
さらに、一部の評論家は、このプロジェクトを中国各地にある他の未完成大型事業と並べて論じています。こうした事業の本質的な問題は、十分な市場調査や持続可能な収益モデルがないまま、勢いだけで始めてしまう点にあります。最後は資金が尽き、プロジェクトが止まるという同じ結末を迎えるのです。
サウスチャイナ・モーニング・ポストの関連報道では、「四川タイタニック号」は、中国の過去の投資ブームを象徴する典型的な事例の一つとなっており、地方政府や企業が文化観光およびインフラ分野で過度な拡張を行った問題を浮き彫りにしていると指摘しています。
産業の視点から見ても、四川版「タイタニック号」の失敗には深い構造的な理由があります。
文化観光プロジェクトを長く運営していくには、安定した客足、ほかにはない体験、そして時間をかけて築くブランド力が必要です。一度見て驚かせるだけの視覚的なインパクトでは続きません。タイタニック号の模造船は、規模としては確かに人目を引きます。しかし、その核心的な魅力は、結局のところ「レプリカの船を見る」という一点にあります。開業直後の話題性が消えた後も、観光客を呼び続けることができるのかどうかは、最初から十分に検証されていませんでした。
アナリストの多くは、この事例は決して例外ではないと指摘しています。近年、中国各地ではテーマパーク、文官観光タウン、大型インフラ事業が、資金問題によって相次いで停滞しています。これらのプロジェクトの多くは、投資で成長を押し上げる政策環境のもとで生まれました。しかし、融資条件が厳しくなり、マクロ経済環境も変わる中で、隠れていた財務リスクが一気に表面化し始めたのです。
実物大タイタニック号の物語は、11年を経てついに終点にたどり着きました。この「巨大客船」は大西洋に沈んだわけではありません。しかし、四川省の郪江の岸辺で、静かに座礁したままになっています。
(翻訳・藍彧)
