3月23日の深夜、ガソリンスタンドの計量器で跳ね上がる数字を見つめ、ガソリン価格が正式に「9元時代」に突入したことにため息をついている時、この高価な一滴の燃料が、数千キロ離れた中国の製造現場で最大級の嵐を巻き起こしているとは、誰も想像すらしていないでしょう。
中東情勢の悪化による強烈な逆風は、グローバルな石油化学サプライチェーンを混乱させただけでなく、もともと利益率の低い中国の製造業に対し、マクロ環境の激変がもたらす容赦ない打撃をまざまざと見せつけています。
この異常な価格高騰の波の中で、最も常軌を逸した動きを見せているのが「臭素」です。聞き慣れない名前かもしれませんが、私たちの身近にある難燃剤、農薬、日常の医薬品などに欠かせない物質です。中国国内の需要の半分以上をイスラエルからの輸入に頼っている上、昨年は山東省の主要産地が生産停止に追い込まれたため、普段は目立たないこの脇役の価格は急騰し、1トンあたり2万2000元から一気に5万3000元を突破しました。山東省のベテラン商社マンも見積書を見て首を横に振ります。「今は臭素だけでなく、石油や石炭に関連する原料はすべて、歯止めが効かない状態で値上がりしています」。
価格の急騰以上に現場を追い詰めているのは、市場の異常な混乱です。価格が日替わりで変動するのを目の当たりにし、川上の原料メーカーはあからさまな「売り惜しみ」を始めました。契約済みの注文は一方的に破棄され、現物を求めても在庫はないと突き返されます。広東省で潤滑油や加工液を製造する複数の経営者は、少数の川上大手企業が重要材料を独占して手放さず、4月に価格がさらにピークに達したところで暴利をむさぼろうと狙っているのを、ただ指をくわえて見ているしかありません。生殺与奪の権を握るかのような強引な手法が、多くの中小企業を容赦なく崖っぷちへと追い詰めているのです。
「川上の企業は電卓を叩いて利益を計算し、川下の工場は胃薬を握りしめてため息をつく」。これが、板挟みになった川中や川下の製造業が直面している偽らざる実情です。
第1四半期を終え、多くの企業が年末に歯を食いしばって確保した安値の在庫はすでに底をつき、今は高値で仕入れるしかありません。広東省でTPE(熱可塑性エラストマー)を製造する企業のトップは、苦渋の試算を行いました。現在、中核原料は1トンあたり約1万元も暴騰しており、もし川下の顧客が値上げを受け入れなければ、工場を稼働させるだけで月にポルシェ1台分、約120万元もの赤字が出るといいます。しかし、川下の顧客もまた苦境に立たされており、「1千元、2千元の値上げでも耐えられない」と悲鳴を上げています。値上げもできず、かといって赤字も抱えきれないため、少しでも傷が浅いうちに取引を停止し、設備の電源を落として生産を止めるしかないのです。
同じような事態は、江蘇省や浙江省の紡績工場でも起きています。ナイロン、ポリエステル、羊毛の価格が日替わりで高騰しており、現在業界内では自嘲気味な冗談さえ飛び交っています。苦労して機械を動かし布を織っても、最終的な利益は、年末に原料を買いだめしてそのまま転売した場合の利益にすら及ばないというのです。さらに致命的なのは、原料の仕入れには現金決済が求められる一方、製品の販売では売掛金の回収に時間がかかるため、常に資金繰りがショートしかねない危機に瀕していることです。
この嵐がプラスチック製品や化学繊維のアパレルにとどまっていると思ったら、大間違いです。このドミノ倒しは、現在中国で最も猛烈な勢いで成長を続けている最先端の製造業、すなわち新エネルギー車(EV)産業をも容赦なく直撃しています。
「EVはガソリンで走るわけではないのに、原油価格の高騰がどう関係するのか」と、不思議に思う方も多いかもしれません。
実際のところ、EVはガソリンこそ使いませんが、車両そのものは石油化学のサプライチェーンに大きく依存して作られています。車体を軽くし、航続距離を伸ばすため、各社は必死に軽量化を図り、その結果、エンジニアリングプラスチック、複合材料、ポリウレタン製のシート、合成ゴムのタイヤなどが大量に使用されています。前述したプラスチックや化学原料の暴騰は、そのまま車両の内外装、さらにはセパレーターや溶剤といったバッテリー部材の製造コストの急激な上昇へと直結しているのです。
状況をさらに悪化させているのは、中国のEVメーカーが現在、血みどろの価格競争を繰り広げており、市場に「EVはガソリン車より安い」という宣伝文句が溢れかえっていることです。この重要な局面で川上の化学原料が暴騰しても、市場シェアを維持したい完成車メーカーは簡単に値上げに踏み切れません。完成車を破格の安値で売る一方で、法外な高値で原料を買わざるを得ないため、もともとごくわずかだったメーカーの利益幅は容赦なく削り取られています。資金力が乏しく、サプライチェーンを自社でコントロールする能力に欠ける新興のEVメーカーは、一歩間違えれば川中の化学工場と同じ末路を辿ることになります。
製造コストが上昇しただけでなく、物流も大きな難題となっています。中東の紅海危機が引き起こした混乱により、ヨーロッパや中東へ輸出を予定している中国車は、暴騰する海上運賃と長大な迂回航路の選択を迫られています。海外市場での利益は大きく削り取られ、グローバルな納品スケジュールも完全に狂ってしまいました。
伝統的なプラスチックや紡績産業から、脚光を浴びる新エネルギー車に至るまで、このグローバルなサプライチェーンの激震を前に、どの業界も無傷ではいられません。これはもはや単純な「コスト変動」ではなく、極めて過酷なサバイバルゲームなのです。工場の機械が次々と停止していくその裏側で、中国の製造業は今、最も冷酷な淘汰と業界再編の荒波に直面しています。
(翻訳・吉原木子)
