最近、上海の街角で、ある変化がひっそりと起きています。一部の市民が、道端に青地に白文字の看板が急増していることに敏感に察知しました。そこには「緊急避難場所」のアイコンと、方向、そして距離が明記されています。平時であれば、こうした緊急避難システムの整備は、大都市が公共の安全管理能力を向上させるための当然の責務であり、都市機能の向上を意味します。地震や火災などの自然災害への備えとして歓迎されるべきことでしょう。しかし、昨今の特殊な状況下において、本来は安全を保障するはずのこれらの看板は、逆に市民の心に影を落とし、「戦争」や「激変」を予感させる不安の種となっているのです。

 こうした市民の不安は決して根拠のないものではなく、現在の不透明な国内外の情勢に深く根ざしています。あるネットユーザーが投稿した動画は、この微妙な社会心理を的確に捉えていました。動画には、上海のある道路脇に真新しい看板が堂々と立っている様子が映っており、中央には「上海市進才中学」、上部には「緊急避難場所」、距離はわずか200メートルと書かれています。この新しい看板を前に、動画内の市民は都市インフラの整備に安堵するどころか、困惑と恐怖を露わにしました。ある女性は率直にこう語りかけます。「上海の皆さん、最近道端にこんな看板が増えたことに気づきましたか? 私たちはここに長年住んでいますが、以前は全くありませんでした」。さらに彼女の隣にいた男性は、「何かあったら、ここに逃げろってことだろう!」と、より直接的で衝撃的な解釈を口にしました。

 この男性の一見冗談めいた言葉は、実は多くの人々が心の中で抱えている恐怖を代弁しています。一般市民の感覚からすれば、もし単なる防災対策であれば、なぜこれほど急に、かつ集中的に設置する必要があるのかと勘繰ってしまうのです。最近の国際情勢の緊張や、国内政治の張り詰めた空気と重なり、人々の神経は無意識のうちに過敏になっています。「戦争が始まるのではないか」。そんな疑心暗鬼が、本来は通常の行政措置であるはずの看板設置に対し、重苦しい意味を与えてしまっているのです。

 ネット上で議論が沸騰し、人心が揺れ動く中、当局の動きもまた、意図せずして何らかの切迫感を裏付けているように見えます。1月28日、上海や山東省済南などの応急管理局が、タイミングを合わせたかのように相次いで記者会見を開きました。上海当局は緊急事態対応計画の改定について説明し、専門家は特に新計画が「参加の奨励」を意図していると強調。市民が把握すべき対応体制、防衛義務、連絡ルートなど3つの要素を挙げました。同日、済南市当局も、市内に630カ所の緊急避難場所を設置し、一人当たりの避難面積が2.5平方メートルに達したことを明らかにしました。これらは標準的な行政発表であり、「都市発展の主体」や「防衛対応」といった言葉が並びますが、神経質になっている大衆の目には、両地域の同時多発的な動きは全国的な統一行動のシグナルとして映り、不穏な気配をより一層強める結果となっています。

 このような社会不安の根底には、中国共産党政権内部で最近発生した一連の激震があります。1月24日、政権内部から衝撃的なニュースが伝わりました。中央軍事委員会副主席の張又侠(ちょう・ゆうきょう)氏とその側近である劉振立(りゅう・しんりつ)氏が、調査を受けているとの公式発表がなされたのです。軍の実力者の失脚は、党内部の権力闘争が激化している象徴的な事件と見なされています。その後、上層部の内紛や軍隊の異動、さらには政権交代の噂までもがネット上で飛び交っています。経済の中心である上海と、権力の中枢である北京が、この嵐の中でどのような影響を受けるのか、世論の注目が集まっています。政治の透明性が欠如しているため、デマや推測が情報の空白を埋める唯一の材料となってしまっているのが現状です。

 この情勢に対し、外部の観察者たちは厳しい警告を発しており、それがさらに世論の熱度を高めています。独立系時事評論家の杜文(と・ぶん)氏はXで警告を発し、今回の事態は「共産党史上、最も徹底した粛清の一つ」であり、「大規模な部隊の反乱や体制の激変がいつ起きてもおかしくない」と指摘。北京市民に対し、外出を控え、長安街周辺を避けるよう強く呼びかけました。また、民主活動家で作家の盛雪氏もインタビューで、張又侠氏の件は単なる権力闘争ではなく、党内部の権力構造が機能不全に陥った兆候だと分析。軍隊が完全に服従しなくなった場合、政権の安定性が揺らぐ危険な状態に入ると指摘しています。

 いわば、上海の街頭に現れた小さな「緊急避難場所」の看板は、単なる道しるべではなく、今の中国の社会心理を映し出す鏡となっているのです。都市の進歩というポジティブな側面が、未知への恐怖にかき消され、日常の秩序が巨大な政治的動乱の予感によって乱されている姿がそこにあります。人々が戦々恐々とする中では、どんな些細な動きも、社会に大きな波紋を広げてしまうのです。

(翻訳・吉原木子)