中国共産党中央軍事委員会の副主席である張又侠氏が連行されたとのニュースが広がり続けるなか、北京の政治と社会の空気はここ数日、めったに見ないほど異様な状態になっています。
1月26日以降、首都の中心エリアと周辺地域は一気に警戒レベルが引き上げられました。高層部で起きた政治的な揺れが、社会と軍の現場へ強く伝わっていることをうかがわせる動きが次々と出ています。
ネット上の情報によると、中南海の正門にあたる新華門の前では警備力が明らかに増強されました。もともと見通しの良かった大通りの中央分離帯には、普段の数倍に及ぶ黒い服の人員がびっしり配置されているといいます。情報筋の話では、その多くが中央警衛局の精鋭部隊であり、周囲に何重にも敷かれた警察部隊と一体となって、数歩ごとに持ち場があるような厳重な態勢を組んだとのことです。さらに天安門周辺には迷彩服の兵士が大量に出現し、北京の中心部全体が、厳重な封鎖網に覆われたかのような雰囲気になりました。緊張感は、これまでと比べてもはるかに上回っているとされています。
この不穏な冷気は、赤い壁の内側だけにとどまりませんでした。北京市民の生活にまで一気に広がり、社会全体が息苦しいほどの高圧的な管理状態に入ったように見えます。
1月26日当日、海外のSNSで閲覧数が25万回を超えたという投稿が、北京の様子を具体的に記録しています。そこでは、賃貸住宅の住人がコミュニティの担当者から突然の情報確認を受けたこと、地下鉄通勤の人々が何度も身分証の提示を求められたこと、駅構内を警察犬が巡回していたことなどが描かれていました。
市民の声としては、地下鉄の昌平線など主要な通勤路線で身分証確認が目に見えて増えた、という指摘が少なくありません。以前はバス内でよく見かけた、居眠りしているだけだと揶揄される警備員の姿が消え、代わりに周囲を鋭く見張る視線が増えたとも言われています。コミュニティの職員が「年末だから」という理由で説明しながら質問してきても、人々が感じるのは安心よりも緊張でした。中には、これはもはや「安全な北京」ではなく、背筋が凍るような「高圧の北京」だと率直に言う人もいます。中国当局が恐怖の空気を意図的に作り出している、全市戒厳まであと一歩ではないか、という表現まで出ています。
同じ頃、北京周辺での軍の動きが、状況にいっそう濃い霧をまとわせています。1月27日、中国ショート動画プラットフォームに突然、軍隊や軍用車両が道路を走行する動画が大量に出回っています。これがきっかけで、外部では内戦や兵変を疑う声まで一気に強まりました。
動画の内容としては、河北省の保定市に駐屯する第82集団軍が、北京方面へ緊急機動しているように見える場面が確認され、戦車や装甲車が高速道路上で次々に集結する様子も映っていたといいます。
また、江蘇省の徐州市や天津市などでも、迷彩服で全員が銃を持つ兵士の隊列や、軍用車両の車列が高速で走り抜ける場面が確認されたという情報が広がりました。
全国の複数地域で、部隊が北京首都圏へ寄っていくように見える動きが重なったことで、世論は様々な見方を示しています。「通常の交代配置なのか、それとも緊急の確保行動なのか」と疑問視する声がある一方、ネットユーザーからは、「これは武器を持つ側と権力中枢の側の究極の対決だ」と懸念するコメントも寄せられ、「軍人が本来の役割として国民を守る責任を忘れないでほしい」という願いまで投稿する人もいます。
こうした軍の動きと歩調を合わせるように、交通面でも物理的な遮断が起きたとされています。北京市と黒竜江省ハルビン市を結ぶ「京哈高速」や、北京と香港・マカオ方面を結ぶ「京港澳高速」など、北京へ入る複数の高速道路が、公式な通知がないまま突然閉鎖されています。高速道路のインターチェンジ付近の電光掲示板には「車両は退去せよ」との指示が一斉に表示出されました。ナビゲーションアプリなどでは交通情報や速度取り締まりの表示も一斉に消えました。
ネットに流出した動画では、一般車両は通行を禁じられ、走っているのはスピードを上げた軍用車両ばかりに見える場面もあります。この「出るのはできても入れない」、場合によっては「逃げたくても逃げられない」封鎖状態により、北京に入ろうとした多くの人が外で足止めされています。ネット上では、「これは中に入れないようにしているのか、それとも外に出さないためなのか」と疑問の声が上がり、北京の中で本当は何が起きているのかをめぐる憶測や不信感も、一気にピークに達しています。
この一連の異常な動きについて、海外の論評者たちは、より踏み込んだ政治的な読み解きを示しています。ある分析では、習近平氏が張又侠氏の扱いをめぐって反発を受け、事態を完全には掌握できていない可能性があると指摘し、場合によっては、元老たちが連携するなど、第三の勢力が介入している余地もある、という見立ても出ています。
ある時事評論家は、この高層部で起きている権力の制御不能状態を、高速道路を時速約160キロで疾走する車にたとえて分かりやすく説明しました。ハンドルを握る習近平氏と助手席に座る張又侠氏は、もともとは互いに牽制し合い、「相手が軽率な行動に出られないはずだ」と読み合っていましたが、今では完全に決裂し、引き返せない段階に入った、という見方です。
張氏は、習氏が高速走行中に自分を攻撃すれば車が破壊され、双方が共倒れになりかねないため、習氏はそこまではできないと踏んでいました。ところが、習氏は常軌を逸したかのように、代償を払ってでも助手席の相手と、その背後にある勢力と徹底的にぶつかる構えだ、というのです。
もっとも、中国共産党にとって混乱は必ずしも悪いこととは限らず、むしろ大きな変化の始まりを示す可能性もあります。しかし最終的に、どの勢力がこの混乱を収拾できるのか。そこがいま、各方面の最大の注目点になっている、という指摘です。
(翻訳・藍彧)
