中国でいま起きているのは、ただの流行ではありません。インフルエンザに加えて、これまで「普通のかぜ」と片づけられてきた鼻ウイルス(ライノウイルス)まで急増し、複数のウイルスが同時に広がっています。中国当局が異例の頻度で警告を出し続けるほど、状況はややこしくなっています。いったい何が起きているのでしょうか。なぜ今年は、症状が長引き、家族全員が順番に倒れるような人が増えているのでしょうか。最新データをもとに、ポイントを絞って見ていきます。

鼻ウイルス感染が急増

 1月7日、中国国家疾病予防管理センターは官製メディアを通じて注意喚起を出し、全国の外来や救急で確認されるインフルエンザ様症状の患者のうち、鼻ウイルスの検査陽性率が上昇傾向にあるとしました。南部の一部の省では、その陽性率が呼吸器合胞体ウイルス(RSウイルス)を上回り、インフルエンザに次ぐ水準に達しているということです。いまの呼吸器感染症の広がりの中で、鼻ウイルスは無視できない存在になっています。

 鼻ウイルスはヒト鼻ウイルスとも呼ばれる一本鎖RNAウイルスで、これまでは軽い上気道感染を起こすことが多いと考えられてきました。医学界では、鼻ウイルスは型が多く、変異も起こりやすいため、体が長く効く免疫を作りにくい点が指摘されています。これが、繰り返し流行しやすい理由の一つです。

 同センターはまた、鼻ウイルスの広がり方には気づきにくい面があると説明しています。飛沫感染だけでなく、ウイルスは室温でも数時間生き残り、ドアノブ、食器、おもちゃ、タオルなど身の回りの物の表面に付着して、接触感染の経路を作り得ます。汚染された物に触れた後に、口や鼻、目に触れると感染リスクがあります。

 特に、現時点では鼻ウイルスに効く特効薬はなく、ワクチンもないと強調されています。対策は主に、手洗いなどの衛生管理と体の抵抗力に頼らざるを得ないという説明で、中国のSNSで瞬く間に話題になりました。

複数のウイルスが同時流行 医療現場への負担増大

 鼻ウイルスだけが増えているわけではありません。公式の監視データによると、中国はいま、複数のウイルスが重なって流行する複雑な局面に入っています。

 中国国家疾病予防管理センターの発表では、2025年12月15日から21日にかけて、全国の病院の外来と救急で確認されたインフルエンザ様症状の患者について、検査で陽性となった病原体の上位3つは、インフルエンザウイルス、RSウイルス、鼻ウイルスの順でした。なかでもRSウイルスの陽性率は上昇が続いており、北部の省では3週連続で伸びています。

 同時に、手足口病も例年より目立つ増え方をしています。中国最大級のビジネス・経済専門ディア「第一財経」は昨年12月下旬の報道で、2025年の手足口病は流行の水準が明らかに例年を上回ったと伝えました。広東省の疾病予防管理部門のデータでは、11月だけで省内の手足口病は2万8900例に達し、三類の感染症の中で2位でした。全国でも、2025年10月から11月の累計患者数は65万8000例に達し、2024年同期の6倍以上になっています。

 インフルエンザの状況も楽観できません。山東省の大手ニュースアプリ「閃電新聞(せんでんしんぶん)」は1月10日、流行のピークが1月初めに明確に現れ、まだ明らかな減少傾向は見られないと報じました。民航総医院の外科医、袁志高氏は、今年流行しているA型H3N2のインフルエンザは広がるスピードが速く、症状も重くなりやすいと警告し「インフルエンザは普通のかぜではない。無理に我慢せず、薬を自己判断でむやみに飲んではいけない」と呼びかけました。

 北京中医医院で呼吸器科の李站副主任医師も、SNSでA型インフルエンザの新しいウイルス株が全国に広がっており、「絶対に軽いかぜだと思わないでほしい」と呼びかけています。

症状の複雑化と若年化

 中国当局が注意喚起を繰り返している一方で、中国のネット世論は落ち着くどころか、むしろ不安が強まっているようです。

 関連記事のコメント欄では、自分や家族の症状を語る投稿が大量に見られます。
 「鼻の奥がねばついて乾いて痛い、白い痰が出る、1週間たっても喉の痛みと発熱が続き、黄色い鼻水や頭痛もある」
 「食べ物の味がまったくしない」
 「家族が順番に感染した」

 多くの人々が、病状の長期化や再発を繰り返す様子を「これまでの風邪とは明らかに違う」と投稿しています。

 浙江省や重慶市、江蘇省などのネットユーザーは、「次から次へと」感染が起きている現象が広く指摘され、「これほど多くの病名を聞いたことがない。今は次々と出てくる」「本当に死なせないためなのか分からない」と率直に語る者もいます。

 医薬業界に矛先を向け、薬を作る側がウイルスをばらまいているのではないかと疑う投稿まで出ています。

 吉林省のネットユーザーが、「国民全体で修行し、欲望を減らし、陽気を高め、資本が仕組んだウイルスの世界に対抗しよう」と呼びかけたところ、多くの賛同を得ました。

 不安をさらに強めたのが、死亡例の話が広がっていることです。河南放送テレビは11月13日、河南省濮陽市で3歳の男児がA型インフルエンザに感染し、1日もたたないうちに死亡したと報じました。コメント欄では、河南省のネットユーザーが「亡くなったのは一人ではないが、ニュースで報じられたのは一人だけだ」と指摘しました。

 浙江省のネットユーザーは、周囲の30代の壮年男性が新型インフルエンザで死亡したが、メディア報道はなかったと投稿しました。

情報の不透明さに再び疑念 「新型コロナの影」が消えない

 複数のウイルスが同時に流行するなかで、いまの状況を新型コロナの時期の体験と重ね合わせる人が増えています。

 複数のSNSでは、ネットユーザーが「新型コロナが言い換えられただけ」「症状が当時とまったく同じだ」と書き込んでいます。広西チワン族自治区のネットユーザーは、「例年H1N1インフルエンザの話を聞くことはあっても、至る所で感染者が発生する」状況は初めてだと指摘し、「今年は死亡率も高い気がして怖い」と不安を口にしました。

 こうした推測や疑問に対し、中国政府の権威ある部門は正面から答えていません。その一方で、「特効薬もワクチンもない」という公式発信に加え、重症化や死亡に関するデータの公表が限られているため、当局が実際の規模を過小評価しているのではないか、あるいは隠しているのではないかと疑う声も出ています。

 公衆衛生の専門家は、複数の病原体が重なって流行すること自体は珍しくないとしたうえで、医療資源が逼迫し、地域の診療体制が十分でなく、情報の透明性も不足する環境では、社会の不安が膨らみやすいと指摘しています。特に、症状が似通い、感染の広がりが速く、患者の年齢層が下がると、リスクへの受け止め方は公式説明を上回りやすいということです。

 さまざまなウイルスが次々に現れる新しい日常の中で、感染対策と情報公開の両立をどう進め、失われた信頼をどう取り戻すのかが、中国政府にとって、また一つ大きな課題になっています。

(翻訳・藍彧)