南京博物院を震源とする「内部による組織的窃盗」疑惑ですが、その余震がいまだ収まらぬ中、年が明けた2026年1月3日、今度は湖北省美術館で発生した火災が人々の神経を逆なでしています。

 元館長が古参職員に実名告発され、連行されたという衝撃的なニュースがネット上を駆け巡ったのは記憶に新しいところです。これに呼応するかのように、全国数十の博物館が示し合わせたような「臨時休館」や「見学謝絶」に入り、パニックの様相を呈していた矢先の出来事でした。

 今回、中国のネットユーザーたちは、この火災を単なる「不幸な事故」とは微塵も信じていません。「これは証拠隠滅に他ならない。ついに博物館も燃え始めたか」。そんなあからさまな疑念の声が、ネット空間を覆い尽くしています。

 この疑念は決して根拠のない妄想ではありません。『新京報』や『百姓関注』など複数のメディアが報じたところによれば、火災は1月3日午後2時25分頃に発生しました。現場から流出した映像は、当時の凄まじい状況を雄弁に物語っています。もうもうたる黒煙が数十メートルの高さまで噴き上がり、出火エリアの上層部を呑み込むさまや、窓から絶えず噴き出す紅蓮の炎が、衆人環視の中で確認されたのです。

 当時、館内に居合わせたある女性は、メディアに対しその緊迫した瞬間をこう証言しています。「1階ロビーにいたところ、突然、鼻をつくような強烈な焦げ臭さを感じました」。事態を飲み込む間もなく、警備員による緊急避難誘導が始まり、「入館して手荷物検査を終えた矢先に、外へ追い出された」そうです。避難した彼女が振り返ると、オフィスエリアにはすでに火が回り、現場は騒然としていました。

 これに対し、現地の管轄当局は同日遅くに声明を発表しました。出火元は「展覧企画部オフィス」で、焼失面積は約50平方メートル、幸いにも死傷者は出なかったとのことです。続いて湖北美術館側も「火災はオフィスのみに限局しており、収蔵庫や貴重な所蔵品には一切影響ない」と強調しました。

 しかし、この「燃えたのは事務室だけで、文化財は無傷」という説明は、事態の沈静化どころか、かえって「語るに落ちる」結果となりました。

 あまりにも手際が良すぎるのです。当局の対応は異常なほど神経質でした。火災直後、網易ニュース(NetEase News)などに掲載された詳細な報道記事が、即座に削除されたことに鋭いネットユーザーたちは気づいています。物理的な消火活動の後に続いた、この迅速すぎる情報の「火消し」活動。それは人々に「単なる火災ならば、当局はいったい何を恐れているのか」という問いを突きつけることとなりました。

 公衆の不信感を決定的なものにしたのは、時を同じくして発覚した、ある「荒唐無稽」な出来事です。四川省綿陽市の博物館で展示された戦国時代の青銅器に、あろうことか「李世民」という3文字がくっきりと刻まれているのが発見されたのです。言うまでもなく、戦国時代は唐の太宗である李世民より数百年も前の世界の話です。

 これに対し博物館側は「荊州博物館からの借用物であり、文字は流通過程で誰かが刻んだものだ」と苦しい釈明に追われましたが、人々の冷笑を買うばかりでした。前代未聞の「タイムスリップ」刻字疑惑に続き、湖北での突発的な火災。これら一連の杜撰極まりない管理体制は、組織的な隠蔽工作という最悪のシナリオを人々に連想させるに十分だったのです。

 湖北美術館の火災を受け、ネット上のコメント欄は辛辣な皮肉と諦念で埋め尽くされました。「南京で事が起きた時に警告した通りです。全国の博物館は『防火対策』という名の証拠隠滅を急げと」「白昼堂々たる帳尻合わせでしょう。我々ネット民はみな予言者だったというわけです」といった声が上がっています。
「X」での反応は、より直截的です。「数年前の食糧倉庫の査察と同じ脚本です。倉庫を調べれば火が出ます。今は文化財を調べれば博物館が燃えるのです。手口は全く同じと言えるでしょう」

 なぜ大衆はこれほどまでに敏感になっているのでしょうか。その震源地はやはり、南京博物院をめぐる巨大なスキャンダルにあります。BBC中国語版などが報じている通り、南京博物院の文化財が「内部の者によって盗まれた」という疑惑について当局が調査を進めており、徐湖平・前院長はすでに連行されています。

 事の発端は、まるで安っぽいドラマのような筋書きです。明代の大家である仇英(きゅうえい)の真筆『江南春』は、1959年に寄贈されたものの、60年代に不可解なことに「贋作」と鑑定され、処分品としてわずか6800元(約15万円、2026年1月7日現在のレート換算)で売り払われました。しかし今年、2025年から2026年にかけてのオークション市場にこの絵が登場した際、その評価額はなんと8800万元(約19億7000万円、同レート換算)に達していたのです。

 6800元から8800万元への不可解な暴騰。寄贈者の末裔による怒りの告発で蓋が開けられ、さらに元職員の実名告発により、数千点もの南遷文化財が「贋作」というレッテルを貼られ、不当に転売されていた疑いが浮上しました。博物館という権威を利用した、現代の「錬金術」と言えるでしょう。

 この南京の醜聞が明るみに出たことで、博物館界全体にパニックが広がりました。書き入れ時の元旦に、全国数十の博物館が一斉に「病気」にかかり、改装や停電を理由に閉館した異様さは、彼らが抱える恐怖の大きさを如実に物語っています。

 そして起きたのが、湖北美術館の火災でした。これは果たして単なる不運な事故なのでしょうか。それとも、語られざる秘密を闇に葬るための煙幕なのでしょうか。その答えは、火を見るよりも明らかです。灰になったのは帳簿やオフィスだけではありません。公的機関への信頼そのものが、音を立てて燃え落ちてしまったのです。

(翻訳・吉原木子)