2025年、中国人の海外渡航の自由は急速に縮小しています。

 パスポートは簡単に取れず、主要国は中国人への入国ハードルを引き上げ、さらに海外送金にも厳しい規制がかかり始めました。

 1980年代の改革開放以降、中国人が世界へ広がっていった黄金時代は静かに幕を下ろしつつあります。

 出国、移民、資金移動──三つの鉄の壁が同時に立ち上がり、いま多くの中国人が国境を越えることすら難しい時代に突入しています。

 SNSでは、2025年の現実が
 「海外へ行きたくても世界が受け入れてくれず、出国したくても祖国が本当に行っていいのか何度も確かめてくる」という声で表されています。

パスポートは国民の権利から「審査が必要な資格」へ

 2025年、多くの人が最初に直面するのは、パスポートが簡単に取れなくなった現実です。
ネット上には、「パスポート申請は、まるで取り調べを受けているみたいだ」という言葉が広がっています。

 実際、多くの地域で「安全審査」を思わせる質問が行われています。「どこへ行くのか。誰と行くのか。航空券は予約したのか。なぜ海外へ行くのか」

 福建省、江西省、湖南省などの地域では、パスポート申請の条件が大幅に厳しくなっています。

 海外旅行には旅行会社の領収証を求められ、親族訪問には海外の親族の身分証明が必要。
留学の場合は、まず合格通知を提出しなければなりません。しかし、本来はパスポートがなければ海外大学への正式な出願すらできません。この時点で制度そのものが矛盾を抱えています。

 福建省でパスポートを申請した22歳の若者は、窓口で突然「親に電話して確認を取るように」と求められました。

 書類も航空券もすべて準備済みだったにもかかわらず、家族が「知らない」と答えたことで手続きが中止されました。

 「私たち2000年代生まれは、どれだけ大人になっても『親に電話する』と言われると無意識に身がすくむものである。インドネシアへ行くためにパスポートを申請しようと何日も準備し、必要なものはすべてそろえ、あとは受け取るだけという段階だった。写真を撮っていると、窓口の担当者に『ご両親は知っていますか』と聞かれ、緊張して『知っています』と答えてしまった。その後、電話番号を書くよう求められ、その場で親に電話がかけられた。当然、親は『知らない』と答えたため、高校時代に問題を起こして親を呼び出された時のような気持ちになった。最終的に、申請はそのまま進まず終わってしまったのである」

 国家移民管理局はパスポートの停止を正式に発表してはいませんが、各地の実施基準は確実に厳しくなっています。特に国境地域、各省の主要都市、国有企業の職員や教師などの敏感な職種に就く人々は、多くの場合、追加の証明書類や海外からの招待状の提出を求められています。

 2025年9月に導入された「リスク評価メカニズム」は、こうした引き締めをさらに加速させました。

 「数十の地域で出国を許可しない」という情報は公式には確認されていないが、実際に多くの申請者が困難に直面しているため、民間では信憑性の高い情報として受け止められています。

 「まだパスポートを持っていない人は、早めに申請したほうがよい。すでに招待状がなければパスポートを発給しない地域もある。本来、パスポート取得は国民の権利であるが、今では多くの省で容易ではなくなっている。しかも年々審査は厳しくなっている。文句を言う前に、まずはパスポートを手に入れるべきだ。そもそもパスポートが取得できない、あるいは没収される人も少なくない」

 過去10年間、二重国籍を持つ華人は二つのパスポートを使い分け、中国と居住国の間を自由に往来してきました。しかし、生体認証の高度化、国籍照合システムの統合、出入国データベースの共有によって、そのグレーゾーンはほぼ消滅しました。

 上海の浦東空港では、オーストラリア国籍を持つ華人が、中国のパスポートをその場で破棄するよう求められた事例がありました。また、海外で永住権を持つ中国人が出国しようとした際、「中国の戸籍を抹消してから出国するように」と指示された例も報告されています。これらは、中国当局が最新の技術を使って、多くの中国人の退路を断とうとしていることを意味しています。

 パスポートは、もはや単なる身分証ではありません。国境を越えられるかどうかを決める「資格そのもの」になりつつあります。

世界も中国人に門を閉ざす

 中国国内で出国が難しくなる一方、海外では「鍵をかける」動きが同時進行しています。2025年、オーストラリア、カナダ、日本、英国、タイなど、これまで中国人にとって一般的な移民・留学先だった国々が、一斉に政策を強化し、外側からの鉄の壁をつくりつつあります。

 オーストラリアのビザ制度は激変しました。観光ビザや就労ビザの拒否率は40%に跳ね上がり、一度拒否されると2年間は再申請できません。審査では中国のパスポートが追加の審査対象とされる例が増えています。政策が示すメッセージは明確で、「資産を持ち込むタイプの中国人移民は歓迎しない」という姿勢です。

 カナダは技術移民の枠を削減し始めました。さらにケベック州は10年以上続いた「卒業生や外国人労働者が迅速に永住権を得られる制度」を、今年11月19日で終了させました。

 日本では経営・管理ビザの申請基準は500万円から3000万円に引き上げられ、小規模な事業者や個人の起業希望者は実質的に門前払いとなりました。

 タイは中国人にビザ免除を適用していますが、年間2回までの入国に制限され、3回目の入国では即時送還される可能性があります。

 英国は非英国籍留学生に追加年間費用を課し、1人あたり年間925ポンド(約15%増)の負担増となりました。中国留学生の数が膨大なため、最も打撃を受けています。

 世界の主要先進国は門戸を閉ざしてはいないものの、そろってハードルを引き上げることで、中国人申請者を入国審査の列の後方へ押しやっています。

 こうした動きにより、海外移住はもはや個人の選択ではなく、世界的なシステム的な締め付けによって難しくなりつつあります。

海外送金も「顕微鏡レベルの監視」へ

 もしパスポートの鉄壁が人の移動を止めるものだとすれば、2026年に導入される新ルールは「資金の移動」を止めるための壁です。

 10万円(5000元)を超える海外送金はすべて、送金者の身元と用途の確認が必要となり、微信(ウィーチャット)やアリペイといったモバイル決済も銀行と同じレベルの規制対象となっています。

 これまで多くの人が利用していた「少額送金を複数回に分けて海外送金」する手法はもう通用せず、プラットフォームシステムの自動検知によって完全に封じられました。留学生の学費を送るだけでも、学校の書類や口座の証明など、複数の審査を通過しなければなりません。

 これは単なる金融監視ではなく、最終的な障壁です。資金の流れを遮断すれば、国民が中国を離れる能力も封じ込められてしまうからです。

1つの時代の終焉

 2010年前後は、中国人にとって「海外渡航の黄金時代」でした。パスポートは簡単に取得でき、ビザ取得は年々容易になり、資金の出入りも自由で、世界は中国の旅行者や留学生を歓迎していました。

 しかし2025年、状況は根本から変わりました。中国がドアを閉ざしているだけでなく、世界も閉ざしているのです。最も残酷なのは、行けなくなることではなく、世界中が中国人に向かって「申し訳ないが、あなたを歓迎しない」と言い始めていることです。

(翻訳・藍彧)