カンボジアのプノンペンの中国大使館前で、複数の中国の若者が地面に座り込み、ある人は薄い上着を体に巻き、ある人は段ボールを敷いて、夜の闇の中で「助けてもらえる可能性」を待っていました。彼らはほとんど荷物もパスポートも持っておらず、多くは詐欺拠点となっている園区から逃げ出したものの、行き場を失った中国人です。
 この光景はすぐに注目を集めました。詐欺拠点から脱出できたのなら、本来は自由を取り戻したはずです。それなのに、なぜ大使館の前で野宿する状況に追い込まれたのでしょうか。では、彼らはなぜ、自国の公的機関から有効な救助を受けられないのか?なぜ頼れないのか?あるいは頼ることができないのでしょうか?

 ネットに流出した動画によると、撮影時期は1月21日ごろです。大使館前に集まった複数の中国の若者の中に、地面に横になって夜を明かす人もいました。撮影者が「どこから来たのか」を尋ねると、ある男性は声を落として「9号園区。電子詐欺の園区」と答えました。
 「では、どうやってプノンペンまで来たのか。パスポートは持っているのか」と聞かれると、男性は「タクシーで来た」「ない」と簡潔に答えました。
 別の男性は明らかに警戒し、撮影者に「これ、撮ってどうするんだ?」と問い返しました。カメラの前でも、彼は見られることそのものを怖がっているようでした。

 これは孤立した出来事ではありません。東南アジアの電子詐欺問題を長く追ってきた関係者によれば、園区から逃げ出したのに帰国できない人たちは、プノンペンやポイペトなどで、少しずつ「見えない存在」として増えています。警察に通報するのも怖く、園区に戻るのは論外で、公式の窓口でさえ簡単には信用できません。そうした若者たちが、静かに街の片隅に取り残されているというのです。
 カンボジアから中国へ戻れた生存者の1人が大紀元に対し、電子詐欺園区の闇を語り、中国の大使館や領事館が園区側と結託している実態を裏づけたと証言しました。四川省出身の若者・李さんは、だまされてカンボジアの宝龍四(ほうりゅうよん)という詐欺園区に送られ、3か月にわたり非人道的な扱いを受けたといいます。2025年8月、両親が全財産を投げ打ち、苦労を重ねた末に、ようやく彼を中国へ救出しました。
 2025年6月、李さんは「老猪仔」と呼ばれる人物を通じて、家族に自分の園区名、宿舎の番号、個人のコードまで含む完全で正確な位置情報を伝えました。ところが家族が7月初めに中国の駐カンボジア大使館へ連絡した後、彼は救出されるどころか、所属する詐欺会社に拷問され、3日間つるされ、さらに別の場所へ売られました。李さんは「警察に通報しても、大使館に助けを求めても、あいつらに裏切られるだけだ」と語りました。
 李さんはまた、彼がいた宝龍四の園区では、詐欺の標的が全員中国本土の人々に限られていたため、簡単には外に出さなかったと明かしました。タイ軍がカンボジアを爆撃していた時期も、園区の上層部は早々に避難していたにもかかわらず、拠点の稼働は止まらなかったのです。上層部は「中で全員が爆撃で死んでも、こいつらは外に出さない」とまで言い放ったということです。

 公式には、中国とカンボジア、中国とタイが「共同で電子詐欺を取り締まる」といった発表が何度も報じられています。しかし、複数の情報筋によると、東南アジアの電子詐欺産業は大がかりな摘発で縮小するどころか、拠点の移動、再編、拡大の傾向を示しています。

 1月10日、中国のテンセント系ニュースサイトはタイ警察の発表として、ミャンマーのミャワディに根を張っていた複数の詐欺グループが、カンボジア内陸部や国境地帯へ大規模に移り、短期間で活動を立て直したと伝えました。
 1月20日には、香港メディアが、タイの爆撃を受けたカンボジアの詐欺園区が、わずか20日ほどで再建され、しかも以前より規模の大きい園区として動き出していると報じました。最も衝撃的なのは、その工事の速さです。驚くほどのスピードで、すでに稼働が始まっているというのです。これが海外や中国の民間などで言われる「中国共産党のスピード」であり、「不気味な速さで世界でも突出している」といった実態です。
 あるネットユーザーは、2020年の新型コロナウイルス発生時に、重症患者を受け入れるために、「雷神山」「火神山」の病院がわずか約10日間で建設された例を引き合いに出し、「この速さを出せるのは中国共産党だけだ」とする見方にも触れ、集中して力を注ぐ先が、電子詐欺の維持になっていると指摘しました。動画では、新しい園区がタイとカンボジアの国境からわずか1キロの場所にあり、工事の進み方が目を疑うほど速く、規模も以前の数倍にも膨らんでいる様子が映っています。周囲の警備は厳重で、建設と稼働が同時進行で進められているということです。

 去年末、タイがカンボジア国内の電子詐欺園区を激しく攻撃した際、中国のネット上では大量の賛同が寄せられました。ところが最近、中国のブロガーがSNSで、中国国内の各地に突然「外部と遮断された閉鎖型の工場」が増えていると投稿し、「園区が国内でも各地に広がる」という見方が急速に広まりました。これが大きな話題になり、中国のネットユーザーの中には、「電詐を誰がやっているか、世界中がもう知った。だから自分の家の中でやるしかないんだ」と皮肉を込める投稿もありました。
 別のネットユーザーは、「壊されたのは古い殻で、増えたのは新しい腫瘍だ」とさらに辛口で指摘します。
 李さんの証言も、こうした見方と重なります。彼によれば、宝龍四の園区は「摘発される側」ではなく、いまも拡張が続いている最中だといいます。「外では取り締まりが厳しいと思われているけど、中ではずっとビルを建てて、人を集めている」
 東南アジアの電子詐欺をめぐり、中国当局は「継続的な強い締め付け」や「成果は顕著だ」と強調しています。しかし、生存者や目撃者が示すのは全く異なる光景です。園区は移動し、規模は拡大し、被害者の流入も止まっていません。ある生存者はこう語りました。「公式の成果を論じたくない。ただ、少しでも長く生き延びたいだけだ」

 一部のアナリストは、東南アジアの電子詐欺園区が何度取り締まってもなくならず、むしろ「叩くほど強くなる」という奇妙な現象まで起きている根本原因は、その背後に国家レベルの保護勢力があるからだと指摘しています。その保護勢力は中国当局です。カンボジアでは、中国系の背景を持つ電子詐欺や賭博産業がすでに基幹産業の一つになっており、現地の政権や中国側の上層部の有力者と深い利益関係で結びついています。
 また、これらの園区は詐欺だけでなく、臓器の不正な摘出や人身売買など、人道に反する犯罪に関与していると非難されています。最近ではさらに衝撃的な情報が暴露され、中国資本の背景があるとされる「カンボジア生命科学院」が、だまされて連れてこられた女性を囲い込み、出産を繰り返させ、その出産した子どもの脊髄液を採取して、いわゆる「不老不死の薬」を作っている疑いがある、という話まで出ています。
 さらに、中国当局の支援で建設されたカンボジア・中国友誼プレア・コサマック病院についても、臓器移植手術の「現地化」を進めていると指摘されています。これについて外部では、臓器売買の産業チェーンに道をつける狙いではないか、という疑念が示されています。

(翻訳・藍彧)