12月1日から、ロシアは中国観光客に対してビザ免除措置を正式に導入しました。一般旅券を所持する中国人は、2025年12月1日から2026年9月14日までの期間、ビザなしでロシアに入国でき、最長30日間滞在できます。中国側もこれに先立ちロシア向けビザ免除を試行した経緯があり、今回の措置はその対等な対応とされています。政策の発表後、中国の公式メディアや旅行業界はロシアを「海外旅行の新たな人気スポット」として積極的に取り上げ、世論の期待が一気に高まりました。

 こうした後押しもあり、中国からロシアへの渡航熱は急速に高まりました。発表直後からロシア行き航空券の検索件数は急増し、多くの旅行会社が問い合わせ数が倍増したと報告しています。特にオーロラ鑑賞やスノーアクティビティなどのコースが若者を中心に人気を集めました。中国では「日本は危険だ」という報道が繰り返される一方で、「友好国」と強調されるロシアの方が安心だという空気も広がり、ビザ免除の利便性と宣伝が相まって、多くの中国人旅行者がロシアを選ぶ動きが強まりました。

 しかし、現実は宣伝で描かれたイメージとは大きく異なっていました。ビザ免除をいち早く利用した旅行者の中には、思わぬ「歓迎」を受けた人も少なくありません。

 複数の旅行者によると、モスクワに到着して最初に経験したのは観光ではなく、警察による身分証提示の要求や連行だったといいます。ある旅行者は、商業施設を出てすぐに警察に呼び止められ、装甲車に乗せられて取り調べを受けたと証言しています。

 また、モスクワ在住の中国人男性は、銀行へ向かう途中で警察に呼び止められ、旅券に難癖をつけられたうえで「罰金」として7000ルーブルを求められ、さらに所持していた2万ルーブル余りを没収されたと語りました。彼は「書類もビザもすべて合法なのに、獲物のように扱われた」と嘆いています。

 さらに深刻なのは、こうした事例が単発のトラブルではないことです。中国のネット上では、新居に引っ越して間もなく警察が押しかけ罰金を要求したという別の報告もありました。家主が対応したため支払いは免れましたが、その警察官は後日も執拗にメッセージを送り続け、困惑したという声も寄せられています。予想を超える体験に、中国のネットユーザーからは驚きのコメントが相次ぎました。

 これらは偶然の衝突ではなく、ロシアで暮らす外国人が長年直面してきた現実です。ただ、今回のビザ免除によって訪問者が急増したことで、問題が一層可視化された形となりました。

 関連動画が広く拡散される中、ネット上ではさまざまな反応が生まれました。旅行者に同情し、「到着初日に装甲車行きとは気の毒だ」と嘆く声がある一方、「ビザ免除は無リスクではない」「下調べもせずに行くからだ」という厳しい意見も多く見られました。さらに、ロシア旅行を積極的に推奨してきた宣伝そのものに対しても疑問が呈されました。「戦時下で治安も不安定な国を勧めるべきなのか」「つい先日までカンボジアへの渡航を控えるよう呼びかけていたのに、今度はロシアを推すのか」といった批判が広がっています。

 ネット上ではブラックユーモアも広がりました。「旅行はロシア、出稼ぎはミャンマー、ビジネスは北朝鮮、留学はイラン。これが新時代の中国人のゴールデンルートだ」といった皮肉が多くの共感を集めました。

 こうした反応は旅行者個人への批判ではなく、宣伝と現実の落差への失望を示すものです。最近、中国では「日本は安全ではない」という報道が繰り返され、多くの人が日本行きを取りやめました。その一方で「友好的」とされるロシアを選んだ結果、現地で警察による不当な扱いを受けるケースが相次ぎ、強い違和感を抱く人が増えています。

 「宣伝を信じて日本を避けたのに、ロシアで装甲車に乗せられた。」この言葉が今回の出来事を象徴しています。今後、中国人観光客がロシアに向かい続けるかどうかは不透明ですが、「どこが本当に安全なのか」という議論はすでに中国、日本、ロシアの間で静かに広がりつつあります。

 ビザ免除は確かに利便性を高めますが、危険を取り除くものではありません。旅行の自由は尊重されるべきものですが、その前提となるのは「どこにいても安心して街を歩けること」です。一般の旅行者にとって、尊厳を保ちながら行動できる環境は、ビザ免除よりもはるかに重要だと言えるでしょう。

(翻訳・吉原木子)