11月初旬、韓国西部の海域で中国遼寧省の漁船2隻が立て続けに沈没し、2人が死亡、12人が行方不明になりました。最初はよくある海難事故と思われましたが、家族の証言、韓国海洋警察の分析、遼寧省の内部調査が明らかになるにつれ、事故の裏側には“単なる転覆では説明できない”深刻な問題が潜んでいることが判明してきたのです。
生存者の証言「単純な事故ではない」
11月9日、韓国全羅南道の可居島近海で、98トン級の中国漁船が突然転覆しました。乗組員11人のうち、6人は近くの中国漁船に救助されましたが、2人は救助時すでに心肺停止で、残り3人は今も行方が分かっていません。
11月10日には、全羅北道群山付近で別の99トン級の遼寧省籍漁船が転覆しました。乗組員11人のうち助かったのは2人だけで、9人が行方不明となっています。
遼寧省営口市の行方不明者家族である王さんは、メディアに対し「沈没の原因は、『排水システムのトラブル』や『大波による転覆』といった単純なものではない」と述べました。「助かった一等航海士は排水管が詰まったと言っていたが、それは表向きの説明にすぎない。船そのものに問題が多く、乗組員の中には資格がないのに他人名義の証明書で乗船した人が2人いた。船も積載超過で、設計自体にも欠陥がある。家族には正式な説明もまだ届いていない。外部には単純な原因が伝えられているが、我々は事態が複雑だと知っている」と語りました。
事故後の調査は、家族の指摘の一部を裏付けました。遼寧省当局の発表によると、10日に沈没した船の船長である鄭氏は出港時の検査をすり抜けるため、故意に他人の証書を使って乗員資格を偽装していました。本来の持ち主は乗船しておらず、さらに無資格の乗組員2人を連れて出港していたことが判明しました。このため、船は最初から合法的な操業資格を欠いた状態だったことになります。事故後、鄭氏はすでに身柄を拘束されています。
しかし問題は、船長の偽装行為だけとどまりません。
遼寧籍漁船が頻発する遭難事故の真相
今回の二つの沈没事故をきっかけに、人々は過去1年間の遼寧省の漁船事故を振り返り始めました。すると、2024年10月から12月までのわずか3か月間に、遼寧地域では少なくとも3件の大きな漁船事故が公表されていることが分かりました。
10月15日、大連市瓦房店付近で漁船が沈没。
11月2日、盤錦市の漁船が横転し、9人が行方不明。
12月13日、遼寧籍の漁船が黄海中央で消息を絶ち、12人が今も見つかっていません。
漁民の間では「事故の最中にいるか、事故に向かっているかのどちらかだ」と揶揄されるほどで、船主はその理由をよく知っています。長年にわたる混乱した管理体制がリスクを海へ押し出しているのです。
『遼寧日報』が11月に掲載した調査記事によれば、11月24日時点で省の紀律検査・監察機関は漁業システム関連の不正で162人を立件し、31人を留置、52人が自首したといいます。警察も関連刑事事件45件を捜査し、104人を拘束したとのことです。記事は露呈した問題の数々を「目を覆いたくなるほど衝撃的」と表現しています。
なかでも世間を最も驚かせたのは、営口市の鲅魚圈区(ばゆうけんく)海洋・漁業局の徐放(じょ・ほう)局長でした。
監督者が事故隠蔽者に回ったとき
遼寧省で起きた別の漁船転覆事故では、徐放局長は救援要請を出すどころか、部下の遅氏に船主と口裏を合わせるよう命じ、「警察に通報するな、救助を求めるな」と指示して事故を隠そうとしました。
この事実はすでに当局が確認しており、徐局長と遅氏は調査対象となっています。
漁民にとって、これは海の荒波より恐ろしいことです。「通報は命を救う行為だ!それをするなと指示するなんて!これは管理なんかじゃない、人を死地に追い込む行為だ」と、ある船主は怒りをあらわにしました。
この隠蔽事件は、背後にある見えない利益構造を浮き彫りにしました。遼寧省沿岸の複数地域では、漁民たちが「取り締まり担当が賄賂を求めるのは公然の秘密だ」と語ります。証書の取得から設備、漁港への停泊、漁船の検査に至るまで、何でも金を払えば解決できるのが実態だというのです。
監督体制そのものが利益ネットワークに変質すれば、海難事故が起きるのは当然の帰結です。
虚偽検査、無登録漁船の「合法化」
紀律当局の調査により、複数の重要なプロセスで腐敗が構造化していることが明らかになりました。
葫芦島市の交通運輸総合行政執行隊・船舶検査執行大隊の元隊長である董氏は、職務を悪用して複数の船主の船舶データを改ざんし、本来は基準を満たさない、あるいは「無登録・無検査・無資格」の漁船に検査合格を出していました。董氏は船主から金品を受け取り、問題のある船の出港を黙認していたとされています。
大連市の漁業船舶検査執行大隊の元検査員である周氏もまた、欠陥のある漁船を繰り返し「問題なし」と認定し、その見返りとして金銭を受け取っていたことが判明しています。
漁船検査は本来、海上安全を守る最後の砦です。この砦が利益で腐食すれば、基準を満たさない漁船でも合法的な船として海に出られてしまい、設計の欠陥、過積載、老朽化などの問題は完全に覆い隠されます。
複数の漁民によると、船齢20年を超える老朽船でもデータの改ざんや板材の交換といった「見せかけの改修」によって検査を通過できてしまうといいます。「皆それが偽物だと分かっているが、それは家族を養う命綱だ。証明書を止められたら生活が成り立たなくなる」と、営口市の船主は打ち明けています。
こうした環境では、事故は海上で突然起きたように見えても、実際には出港前からすでに危険が積み重なっていたことになります。
沈没船の責任は誰が負うのか
相次ぐ事故を受け、遼寧省政府は大規模な是正措置に乗り出しました。しかし本質的な問題は依然として残っています。監督体制の利権化、漁船運営コストの圧縮、漁港の安全管理の不備、海上救助体制の混乱、漁船業界の深刻な人材流出など、構造的な問題が山積したままです。
韓国海洋警察庁は救助報告で、事故当時の海域は風と波があったものの、100トンクラスの漁船が一瞬で転覆するようの状況ではなかったと指摘しました。技術的な分析では、船自体の安全上の欠陥、操船ミス、過積載が主な原因である可能性が高いとみられています。
一方で、事故船の生存者の証言、家族が明かす情報、公式調査結果は部分的にしか一致しておらず、「まだ明かされていない深い内幕があるのではないか」という疑念が次第に強まっています。
(翻訳・藍彧)
