かつて「夢のマイホーム」だった家が、いまは重荷に変わっています。

 返済できずに家を手放す家庭が中国全土で急増し、その数は187万世帯に達し、銀行は担保となった住宅を次々と処分しています。しかし市場は冷え込み、買い手は現れません。住宅バブル崩壊の余波が、国の根幹を揺るがしています。

不動産市場の全面崩壊

 広州市番禺区(ばんぐうく)にある「金僑嶺南院(きんきょうれいなんいん)」プロジェクトは、かつて「文化芸術村」をコンセプトに多くの中産階級を惹きつけました。2020年の販売当初、最低価格は約1億円(500万元)で、多くの購入者が2000万円(100万元)を超える頭金を支払いました。しかし、現在このプロジェクトは長年にわたって建設が中断され、敷地には雑草が生い茂り、販売センターもすでに撤去されています。ネット上の競売サイトでは「800万円(40万元)」という別荘の出品情報が並ぶものの、九割も値下がりした価格でも買い手は現れません。

 同じような悲劇は全国各地で起きています。広州市増城区(ぞうじょうく)の「叠渓花園(ちょうけいかえん)」は、かつて1平方メートルあたり2万元(1坪約143万円)だった価格が、いまや3500元(1坪約25万円)まで急落しました。鄭州市や北京、宜興市(ぎこうし)などでも、購入者たちは「10年分の努力が水の泡」という現実に直面しています。鄭州市のあるネット投稿者は「2020年に5000万円(248万元)で買った家が、いまは3400万円(170万元)ほどの価値しかない。頭金も消えてしまった」と語りました。夫婦で毎月約20万円(1万元)近いローンを返済していますが、子どもを持つ余裕はなく、副業で動画編集をして生活を支えています。

 江蘇省宜興市の工場で働く女性も「夫と2人で十数年かけて貯めた1600万円(80万元)で購入した家が、いまは700万円(35万元)しか価値がない。ローンを4年間返済してきたが、ほとんどが利息で、返済すればするほど絶望的になる」と語りました。こうした家庭は中国全土に数え切れないほど存在します。

 返済不能の波の背後では、銀行も借り手も共に泥沼に沈んでいます。不良債権の爆発的増加を避けるため、銀行は担保物件を直接売却し始め、中には返済不能の顧客に低賃金の仕事を紹介して最低限の返済能力を維持させるケースさえあります。一方で裁判所は、返済不能によるホームレス急増と住宅価格のさらなる下落を防ぐため、競売物件の受理を明らかに遅らせています。

 しかし、こうした「時間稼ぎ」は事態の本質を変えません。

通貨デフレの影が覆う中国

 経済学者の許成鋼(キョ・セイコウ)は、中国が現在直面している最大のリスクはインフレではなくデフレだと指摘しています。その根本的な原因は「国民にお金がないこと」だと述べています。かつて李克強元首相は、「全国に月収が約2万円(1000元)未満の人が6億人おり、人口の約40%を占める」と公言しました。この膨大な低所得層の存在が、国内消費の停滞を長期化させているのです。

 同時に若者の失業率は依然として高止まりしており、公式データでは都市部の若年失業率が約20%とされていますが、実際には農民工(出稼ぎ労働者)を含めると、その数はさらに膨大になります。失業による収入減と家計支出の急減が、国民の貯蓄率の急上昇を招いています。中国人民銀行のデータによれば、通貨供給量は増え続けているものの、その多くが貯蓄口座に流れ込み、消費の刺激にはつながっていません。

 デフレを加速させているもう一つの要因は、不動産バブルの崩壊です。過去20年間、不動産は中国経済の柱であると同時に、国民の富の象徴でもありました。しかし今では住宅価格が暴落し、資産価値が急激に縮小しています。多くの中産階級の「帳簿上の富」は蒸発し、不動産ローンの崩壊が金融システムに莫大な不良債権の圧力をもたらしました。銀行はリスクの連鎖的拡大を防ぐため、「ローン返済不能物件」を処理せず放置するなど、問題の先送りを余儀なくされています。

貧富格差の根は社会制度にある

 許成鋼は、中国における所得格差は市場経済の偶然的な結果ではなく、「制度的な必然」だと指摘します。土地と金融の国有独占により、経済成長の果実が政府や国有企業に集中しているのです。

 土地政策では、地方政府が土地供給を意図的に制限して地価をつり上げ、その差益を財政収入にしています。結果として、国民は高額な住宅ローンを背負い、実質的に地方政府のために働いている状況です。金融の面では、銀行システムのほとんどが国有銀行によって支配され、高い金利差で巨額の利益を独占しています。資本市場においても、最も利益を上げているのはハイテク企業ではなく国有銀行です。この構造が庶民の所得分配を抑制し、消費力の低下を招いています。

 さらに、戸籍制度が都市と農村の二極化を生んでいます。数億人に及ぶ農民工は土地の所有権を持たず、都市部の社会保障にも加入できません。彼らの労働が都市建設を支えているにもかかわらず、福祉制度から排除されています。許成鋼はこれを「制度によって生み出された二等市民」と表現し、これが社会的な流動性を奪い、内需の基盤を弱体化させていると指摘しています。

鄧小平の遺産と習近平の行き詰まり

 経済学者の程暁農(チョン・シャオノン)は、中国の現在の経済危機は鄧小平時代の改革方針にまでさかのぼると指摘しています。鄧小平は「一部の人を先に豊かにする」というスローガンで官僚層の支持を取りつけましたが、その結果、権力による利権追求と資本の国外流出が常態化しました。程暁農の試算によると、1990年代以降、中国が累計で受け入れた外貨は約6兆ドルに上りますが、現在の外貨準備は約3兆ドルしか残っていません。つまり、その半分以上が汚職官僚によって海外に流出した計算になります。

 不動産はこうした権力者たちのマネーロンダリングと投機の主要な手段となり、結果的に今日のバブル崩壊の火種を作り出しました。

 習近平は政権掌握後、腐敗と無秩序な資本流出を抑えるために反腐敗キャンペーンと行政統制を強化しました。しかし、そこには深刻なジレンマが存在します。改革を行わなければ、腐敗と資本流出が経済を内部から蝕み続けますが、改革を進めれば既得権益層を直撃し、体制の安定を危うくしかねません。このため習政権は、根本的な解決ではなく「延命策」を選びました。行政による市場介入、法的競売の抑制、ネガティブな報道の封じ込みなどがそれです。ですが、これらの措置は国民の信頼を取り戻すことはできず、いわば「毒を飲んで渇きを癒やす」ような一時しのぎに過ぎません。

崩れゆく信頼と見えない未来

 広州市の未完成別荘群から宜興市の住宅ローン返済不能世帯まで、いま中国各地を覆うローン返済不能の波は、単なる経済危機ではなく、社会の信頼システムそのものの崩壊を象徴しています。銀行は問題を「冷処理」し、政府は「安定維持」を掲げて表面的な平穏を保とうとしていますが、実際には経済危機の爆発を遅らせているだけです。

 多くの家庭の運命は、今や一枚の住宅ローン契約書によって、崩れかけた制度に縛りつけられています。返済を断念して去る人もいれば、必死に支払いを続ける人もいます。どちらを選んでも、その苦しみはすでに現実となっています。

 許成鋼と程暁農はいずれも、中国経済が停滞から抜け出すためには、社会制度そのものの根本的な変革が必要だと指摘しています。国民により多くの自由を与え、経済の活力を取り戻すことこそが、内需を回復し、信頼を再構築し、経済の悪循環を止める唯一の道だとしています。

(翻訳・藍彧)