近ごろ、中国のSNSでは「顔より大きい」と言われる服のタグが相次いで投稿されています。A4サイズに近いほど巨大で、硬い紙に「タグを外したら返品不可」と大きく印字されたものもあり、新作の服のど真ん中にぶら下がったこの異様なタグを「新しいストリートファッションだ」などと面白がる声もあります。しかし、実際は全くそうではありません。これはネット通販時代において販売者と消費者の間で激化する「静かな攻防」であり、追い詰められた商家が取らざるを得なくなった自衛手段にすぎません。
多くのレディース服の販売者によれば、ここ数年の返品率は「想像をはるかに超える」状況にあります。中には、返品を避けるために服のファスナーに暗証番号付きのロックを取り付け、購入者が「返品しない」と確約するまでロックを解除しない店まで出ています。店側も決して望ましい方法だとは思っていませんが、「そうでもしなければ、返品の山に潰されてしまう」というのが本音です。
実際、戻ってくる服の多くは明らかに「使用済み」の状態です。袖口の汚れ、脇の汗のにおい、ファンデーションの付着、スカートの油分、時には火鍋のにおいが残っていることさえあります。中国中央テレビの取材に応じた女性店主は、定価500元ほどのワンピースでも利益は数十元にすぎず、返品された時点で中古同然となるため廃棄せざるを得ないケースが非常に多いと語りました。「うちの店は、いつの間にか『無料試着』にされてしまったようなものです」と、苦笑いを浮かべています。
こうした歪んだ状況が生まれた背景には、中国のネット通販制度があります。《消費者権益保護法》では、受け取り後7日以内であれば理由を問わず返品が可能で、2022年には最高人民法院が「開封しただけ」では返品拒否の理由にならないと明確化しました。見た目に問題がなければ、販売者は返金に応じざるを得ません。
さらに、プラットフォームは購入者を強く保護しており、送料保険の普及や簡単な返品手続きによって「手間もコストもほとんどゼロ」で商品を返せる仕組みが整っています。その結果、返品があまりにも容易であることが、制度の日常的な悪用につながっています。
こうした状況の中で、返品率の高騰は業界全体の「慢性的な災害」となりました。レディース服の返品率は50〜60%、ライブ配信経由では80%に達し、メンズ服でも30〜40%です。実店舗であればとっくに倒産している水準です。学生団体がイベント用衣装をまとめ買いし、使用後に「品質問題」を理由に一斉に返品するケース、結婚式の撮影用に買ったカメラを使った後で返品するケース、旅行中に写真のためだけに新品の服を着て帰国後に返品するケースなど、枚挙に暇がありません。ネット上では、こうした行為を「制度をうまく使っている」「タダで使い倒す」などと軽く語る人もいますが、本質的には制度の隙を突いた「倫理観の低下」そのものです。
販売者にとって「一度使われた服の返品」は、物流費、人件費、クリーニング費、そして商品の価値低下による損失につながり、場合によっては「売れば売るほど赤字」になることもあります。ある店主は「ネット通販は商売ではなく、人の良心に賭けているようなものだ」と嘆きます。
しかし、問題は制度の欠陥だけではありません。背景にはさらに深い社会的要因があります。現在の中国のネット通販環境では、「正直な人ほど損をし、抜け道を探す人ほど得をする」という構造が広がり、「逆選別」とも呼べる現象を引き起こしています。ルールを守る人が生き残れず、要領よく立ち回る人が利益を得る。SNSでは、「得できる場面で得をしない人はバカにされる」「みんなやっているから、自分もやらなければ損をする」という価値観が広く見受けられ、巨大タグに逆ギレする人まで現れています。
さらに踏み込んだ分析では、この現象が改革開放以降の「金銭第一主義」と深く結びついていると言われています。「お金さえあれば手段は問わない」という価値観が広がれば、道徳は必然的に後回しになり、人々の行動は短期的かつ利己的になります。「貧しいことは笑われても、行為の是非は二の次」という評価軸が一部地域に浸透し、それがネット通販での振る舞いにも反映されています。
地域差も無視できません。経済的に厳しく人口の多い地域では、「理由を作って返品する」「実質タダで利用する」といった行為が特に多い傾向があります。競争が激しく生活にゆとりがない環境では、「取れるものは取る」「得できるものを逃すのは損」という心理が生まれやすいからです。ただし、これは地域性を非難するものではなく、環境がつくり出した“生存戦略”でもあります。
こうした背景の中で巨大タグや暗証ロックが登場したわけですが、これらは決して新しいデザインではなく、被害を繰り返し受けた販売者がたどり着いた“最後の防御壁”にすぎません。しかし、その効果は限定的です。本気で制度の抜け道を探そうとする人には通用しないからです。中国でよく言われる「上に政策あれば、下に対策あり」という言葉の通り、規則が存在する限り、それをかいくぐる方法を考える人は必ず出てきます。
結局のところ、どれほどタグを巨大化しても、どれほど複雑なロックを取り付けても、根本問題は変わりません。「ズルをする人ほど得をし、誠実な人ほど損をする」構造が続く限り、市場の歪みは解消されません。制度の改善や信用システムの強化はもちろん必要ですが、それ以上に重要なのは、社会全体が「誠実であることは損ではない」という価値観を取り戻すことです。
巨大タグは、追い詰められた販売者が示した小さな抵抗にすぎません。健全なネット通販環境を取り戻すために本当に必要なのは、派手なタグではなく、「ルールを守る人が損をしない社会」というごく当たり前の前提なのです。
(翻訳・吉原木子)
